5-31 白銀の決意1
「そういえば、何でフィアだけしかいないんだ? 唯も待機だっただろ?」
ルイルイさんとの一戦を終えてから少しして、部屋の中を見回すとそこにはフィア、エンジュさん、ルイルイさんの姿だけがあった。
唯は今回休みのはずなのでカプセルに入っているはずもない。
それと、エンジュさんの相手は誰だったか。
「あぁ、唯ならフォレオとお手洗いに行ったわ。そろそろ戻って来るんじゃないかしら?」
「あぁ、なるほどな。そういえばエンジュさんの相手はフォレオだったっけ? 随分と早かったんだな」
「えぇ、そうね。あ、そうだ。フォレオ凄く喜んでたから雷人も褒めてあげてくれない? 雷人が褒めたら嬉しいだろうし」
「褒める? ってことは……」
「あっ! 雷人も終わったんですね。相手はルーでしたっけ? どうでしたか?」
「もう雷人君も終わったんですね。お疲れ様です」
噂をすればというかフォレオと唯がちょうど戻って来た。
なんというか、興奮しているというか、今にもぴょんぴょんと跳ねだしそうな感じでフォレオが駆けてくる。
明らかに嬉しさが伝わってくるな。
唯がそれを温かい目で見ているのも相まって、普段冷静に振る舞っているフォレオが一段と子供っぽく見える。
「あぁ、駄目だったよ。ルイルイさんは強いな。動きが全然見えもしなくてな」
「ふふん、そうでしょうね。ルーの本気はとんでもないですから。という事はあれですね。ふふふ、勝利数で雷人に並びましたよ!」
「お、やっぱりエンジュさんの条件をクリアしたのか! 凄いな!」
俺はそう言うとフォレオの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ふぇ!? あっ、ちょっ、ちょっ!」
見るとフォレオの顔がみるみるうちに赤く……、しまった。つい手が伸びてしまった。
今は特別子供っぽいものだから、芽衣を褒める時の癖が出てしまった。これはお怒りが来るか!?
そう思って目を瞑って身構えるが、特に怒りの言葉は飛んでこない。
恐る恐る目を開けると、フォレオは顔を赤らめて目を逸らしながら髪を直していた。
「えっと、何と言うか……髪ぼさぼさにしちゃって悪い」
「……別にいいです。気にしていませんから」
「いやぁ、どうしてかつい手を置きたくなってな。悪気とかはないんだけどな」
「……それって、うちが身長低くて子供っぽいって意味ですか?」
「あ、あれ? フォレオって身長低いの気にしてたのか? 悪い、そうとは知らずにぃ!?」
そこまで言ったところでスパーンと頭を叩かれた。
振り返ると、じーっとこちらを見るフィアの顔が映る。
そして、ハァーっと溜め息を吐かれてしまった。
ぐぅ、これ以上言い訳をしても悪化するだけのパターンかこれは。
フィアに呆れられるの地味に傷つくな。
そんなことを考えていると、それを見ていたフォレオがフィアの前に立った。
何かと思うとフォレオがフィアに人差し指を向けた。
「うちは一勝しましたよ。まさか、出来ないなんて言わないですよね?」
「……そうね。私も負けていられないもの。次は勝つわ」
「……ふふふ、そうこないと張り合いがないです。次は勝てるといいですね」
フォレオはそう言うとフィアから離れて行った。
フィアの事が心配で発破を掛けたいんだろうけど、何というか不器用だな。
まぁ、フィアには見透かされているような気がするが。
そんなことを考えていると、ようやく残りの空とシルフェがカプセルから出てきた。
とりあえず、これで全員終わったか。そう思っていると、何やらノインさんがエンジュさんにバシバシと背中を叩かれていた。
何かと思っているとマリエルさんから集合の合図があった。
「はいはい、四回目が終わったから一度集まるかな!」
その号令に俺達が集まるとマリエルさんが進行を始めた。
「皆、四回目お疲れ様かな。今の訓練でフォレオがエンジュの、そして空がノインの条件をクリアしたかな。おめでとう!」
その言葉に各々が驚き拍手をする中、エンジュさんが言った言葉にノインさんが言い訳を口にする。
「ははは! 俺もクリアされちまったし、ノインも二回目だからって気にするな! 根性があっていいだろ!」
「うぐぅ、聞いてた話と違って油断しただけなのですよ……。あんな力を持っているなんて聞いていないのです」
「あんな力、ですか?」
「何々? 空が凄いって話? 私も聞きたいなぁ」
「それって、空君は治療の能力と身体強化の指輪以外の力を手に入れたという事でしょうか? 一体どのような……」
ノインさんの言葉に空の本当の能力を知らないフォレオとシルフェと唯が興味津々といった様子で空を見る。
一方でフィアにはそういった様子がないな。
もしかしてとは思っていたが、やっぱり知っていたのか。
さて、皆の視線を一身に受けた空はというと、バツが悪そうに頭を掻いていた。
「あはは、参っちゃうね。でも皆には伝えておかないといけないよね」
「……いいのか? 空」
空はこれまで意図的に自身の能力を隠してきた。
それは一種のトラウマのようなものだ。
それを知っている俺は確認の意味で言葉を掛けた。
しかし、空の目が揺らぐことなく真っすぐに見返してきたことで俺は頷いた。それを見て空が話し始めた。




