5-30 神速とうたわれし者3
「うん、そうだね。大当たりー。光っていいよね。誰にも追い付けない速さ、最速の物質。やっぱり速さが至高だよ」
「……」
「ん? 黙っちゃって、どうしたの?」
今更ながら、この人本当に戦闘中と普段でキャラ違うよな……。
戦闘中はどもらないし、大分落ち着いた感じなんだよな。
いや、落ち着いたというか、余裕からくる上からな感じなのか?
自分の掌の上で躍らせてるみたいな?
戦闘中はテンションが上がってるとかいう話だったけど、もはや別人格なんだが……。
まぁ今は特別お喋りだから、テンションが上がってるって感じは確かにあるか。
普段と違ってニコニコしてるから本当に新鮮だな。光がそれだけ好きってことなのか?
「いや、何でもないです。確かに速さは重要ですよね。どんな攻撃も当たらなければどうという事はないし、速さは攻撃の威力にも繋がりますから」
「そう、その通りだよ。うんうん、分かってもらえて嬉しいなぁ」
「ははは、まぁ俺も速さには憧れがあるので、ほら何というか、カッコいいじゃないですか」
「そうだよね、そうだよね。あ、喋ってたらもう五分経っちゃったね」
「え? あ!」
しまった。完全に時間制限の事を忘れていた。
このお喋りも罠……ではなさそうだな。そんなことをしなくてもルイルイさんの優勢だったしな。
よし、傷口もカナムで塞いで痛い以外には特に問題なし。
せっかくだし、ルイルイさんの本気とやらを見せてもらおうか。
確か十秒逃げ切れだったか。そのくらいなら全力を出せば行ける気がする。
そう考えてルイルイさんを見ると、ルイルイさんは若干もじもじしながら不安気に笑っていた。
「……やっぱり恥ずかしいけど、そういうルールだもんね。本当の姿を見て引かないでね?」
「大丈夫です。何となく想像出来てるんで、驚きませんよ」
「そ、そう? それじゃあ、身体変化」
言葉とともにルイルイさんの体が変化していく。
さて、筋肉ムキムキの大柄になるか、それとも他の何かか……。
何にしても獣人なんだから、予想の範疇は出ないはず……。あれ? 思ったより大きくならないというか……人型じゃない?
「おぉ、これは予想外……」
何というか、特に上半身は変わっていないのだが下半身が人のそれでは無くなっていた。
端的に言ってしまえばケンタウロスみたいな感じか。だが、下半身は馬ではない。
銀色の毛並みが綺麗な四本足。犬みたいな尻尾がぶんぶんと振られている。ルイルイさんの特徴から類推するなら、一番近い動物は……。
「狼……」
「や、やっぱり変だよね? いやぁ、恥ずかしいぃ……」
ルイルイさんの声が消え入りそうな程にか細くなっていく。
戦闘によって上がっていたテンションを恥ずかしさが上回ったのか?
いや、でも恥ずかしがるほど変な見た目でもないと思うが。
後ろ髪を一本の三つ編みにして前に垂らされた髪は透き通るような銀色なのだが、その色は狼の体の体毛も同様で非常に綺麗だ。
薄黄色に光る目や、よく見ると覗いている八重歯。
勿論実物を見たことはないが、狼だと考えればイメージとしては非常にしっくりくる。
下半身が変化したことで体高は多少高くなったが、それでも小柄と言うか、コンパクトに纏まっている印象だ。
それに不安げに揺れる瞳は庇護欲を掻き立てられて非常に可愛らしい。人型の時も美少女といった感じではあったが、むしろこっちの方がベストバランスに感じるな。
……異星人なわけだしもしかしたら感性が違うのかもしれないが、どこか恥ずかしいところがあるんだろうか? 割と本心からそう思った俺は首を傾げた。
「えっと、因みにルイルイさんはどうしてその姿が恥ずかしいんですか?」
「そ、そんなの、決まって、ます。二本足で立ってる人が多いのに、うちはこんな四本足で、変、でしょ? ノイン達は変じゃないって、言ってくれる、けど。やっぱり、人の視線は気になる、よ」
……話し方、完全に元に戻ったな。
しかし、四本足だからか……。ここじゃ確かに珍しいんだろうけど、別にそこまで気にはならないな。もっと人から外れた見た目の宇宙人だっているだろうしな。
「えっと、確かに見た瞬間は驚きましたけど、見て嫌になるような外見でもないですし、気にしなくてもいいと思いますけど」
「……雷人君も気にならない人、なんですか? 安心しましたぁ」
俺がそう言うとへにゃっと笑うルイルイさん。
もしかして、いちいち確認しないと気にしないでいられないのか?
全員にこのやり取りをしているんだろうか?
何というか、難儀だな。
でも、今こうってことは多分誰が言っても変わらないのだろう。
まぁ、それがルイルイさんの個性という事か。
正直もうすっかり見慣れてて、おどおどしてないルイルイさんはちょっと違和感があるくらいだしな。
「さて、じゃあルイルイさんも本気になったところで、続きをお願いします」
「は、はい。それじゃあ今から十秒、行きます、よ!」
「へ? おぶっ! ちょおおおおおおお!?」
次の瞬間、突然ルイルイさんの姿が消えたと思ったら、暴風が吹き荒れ、突如として上空から降り注いだ光の雨に全身を貫かれて意識が消えたのだった……。
*****
「ちょお!? え? 今の何!?」
少しの間放心していた雷人だったが、ある程度落ち着くとカプセルのボタンを押して外に出た。
そして、外で待機していたフィアと目が合うとフィアが噴き出すように笑った。
「な! なんだよ! いきなり笑うなんて!」
「いや、ふふふ。だって、凄い呆けた顔してたんだもの、あはははは!」
「そんなに笑うなよ……」
俺は今そんなに面白い顔をしていたのか?
フィアに笑われるとなんだか凄く恥ずかしい。
「ふふふふふ、あー、ごめんごめん。確か相手はルーだったわよね? 手も足も出なかったんでしょ?」
「……まぁな。本気になった途端訳も分からずやられたよ。一体どういう事なんだ? あれ」
「安心しなさいよ。私達だって本気になったルー相手なら一瞬で負けるわ。本気になったっていうなら、ルーの本当の姿を見たのよね?」
「あぁ、何と言うか。腰から下が狼みたいになってたけど」
「そうそう、ルーの種族は半人半狼族って言って、上半身は人間、下半身は狼の種族なの。元々走るのが得意な種族でね。その脚力には目を見張るものがあるんだけど、ルーは身体強化の指輪との相性がとんでもなく良くてね。走り出したら誰も追い付けない。ホーリークレイドル最速なのよ」
「ホーリークレイドル最速?」
「えぇ、いつの間にか二つ名まで付いちゃって、『神速のルイルイ』なんて呼ばれてるわ。うちだとルーの速さに対応出来るのはマリエル姉さんくらいのものね。とは言っても、十分に加速する前、走り始めの段階ならの話だけど」
「マジかよ……。いや、それでもあれに反応出来るなんてマリエルさん凄過ぎるんだが」
「まぁ、瞬間速度なら最速はマリエル姉さんだもの。まだまだあの剣速には到達出来る気がしないわね」
「……なんというか、今の話で印象がガラッと変わったよ」
「ふふふ、そうね。ルーは走り始めたら止めるのは難しいし、離れた位置から放たれる光の矢の速さは言うまでもないわよね? うちの会社どころか、全宇宙で見たってルーに勝てる人はほとんどいないと思うから、勝てなくても落ち込まなくていいわよ。私も負けたし」
「……精進します」
「えぇ、そうね。頑張りましょ!」
上には上がいると言うが、上が遥か高み過ぎてやばいと思った雷人なのであった。
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
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スリガロ・ルイルイ、彼女の真の姿を見た者はもう逃げられない。
走り始めた彼女を止める事は叶わず、光の速さに迫れるものはない。
故に、彼女を怒らせたものは不可避の光に貫かれる事だろう。
*****
作中最速、もしかしたら最強かもしれない内気っ娘、それがルイルイだったりします。
彼女を倒したかったら不意打ちするか、能力を封じるか、どうにかして動きを止めなければいけませんね。
相性の関係で必ずしも最強とは言い難いですが、正直負けさせようと思ったら悩む程度には強いキャラクターです。
これで性格が強気だったら本気でヤバかったですね!




