5-27 幼き九尾巫女は天歩艱難の現実を見ない3
「吹き飛ばせ! 超加速砲!」
展開される無数の砲身。それらが起動し周囲に暴風が吹き荒れる中、それを囮にノインさんの死角となる位置の地面に降り立ち、属性刀を構える。
超加速砲の威力は記憶に新しい、とてもではないが無視出来ないはずだ。このタイミング、ノインさんの意識は必要以上にそちらに向けられるはず。
そのはずだったのだが……、ノインさんへ向けて雷輪のレールを敷いたその瞬間、ノインさんがこちらに視線を向けた。
気付かれた!?
だが、今更止めることは出来ない。
このタイミングを逃せば警戒されて同じ手は通用しないだろう。
正直、授雷砲をはじめとした大技の数々の所為で消耗が激しい。回避に専念されればじり貧で負けるのは目に見えている。
だからここで、決める!
「瞬閃雷果あああぁ!!」
急激な加速による負荷が全身を締め上げる。
だが、フォレオと戦った時よりもコントロールは出来ている。
なにやら細かな物体が飛んで来るが、不完全ながらカナムの障壁を張ることで一瞬の猶予を稼げる。
そして、一瞬あれば……問題は、ない!
瞬間、迫るノインさんの自信満々といった様子の顔が驚愕に染まるのが見えた。そして……。
「まっ! ぱぐっ!!」
構えた一刀、青白の軌跡は軽々と迎え撃つ薙刀を切り裂き、ノインさんの柔らかな腹部に吸い込まれる。そして、俺は属性刀を振り切った。
間違いない。
俺は、ノインさんに一太刀を浴びせたのだ。
「やっ、あ……」
これで間違いなく課題はクリア。
その喜びの所為か俺はあることを忘れていた。
そう、瞬閃雷果は現状自爆技だったのだ。
要するに……。
「しまっ! ばっ!」
止まれないのだ。
気付いた瞬間に反射的に制動を掛けたものの、碌に速度の落ちぬままに闘技場の壁に激突。激痛とともに視界は真っ暗になった。
*****
「――――――っ!」
いつも通りと言うか、目を開けるとカプセルの中にいた。
実際に体が痛いわけではないが、最後に感じた激痛の余韻が残っていて俺は顔を顰める。
その一方で何というか、やってやったという達成感が俺を包んでいた。
もちろん、今回課題をクリア出来たのはノインさんが攻撃を躱そうとしなかったのが一番の要因であり、新たな技、超加速砲は簡単に当てられるような技ではない(そうでなくとも危な過ぎて使える場面は限られるが)。
だが、これは確かな一歩前進だ。
今回の様に陽動に使うのもありだし、見せるだけで動きを制限させることも出来るだろう。
花蓮が落とした大岩のような、避けないが頑丈な物を壊さないといけない時にも使えるだろう。
なんにしても、一番は面目が立つということだな。
フィア達に俺の成長を見せつけることが出来る。
やっぱり好きな子には格好をつけたいし、褒められたいもんな。
そんなことを考えながらにやにやしていると……。
「負け……私が、負け……たのです。う、えぐっ、うなぁあああ……」
「っ!?」
突然聞こえた泣き声に俺は辺りをきょろきょろと見まわした。
だがここはカプセルの中だ。防音性が結構高いので外の音など普通は聞こえたりしない。
そして、その声には聞き覚えがあった。
「……えっと、ノインさん?」
「……」
俺が声を掛けると泣き声がピタッと止んだ。
泣くのを堪えているような、そんな息遣いだけが聞こえてくる。
その様子が何となく脳裏に浮かんで……なんというか、気まずいな。
何と声を掛けたものかと考えていると、ようやく落ち着いたのかノインさんの方から声を掛けてきた。
「今の、聞いていたのですか?」
「聞いていたというか、聞こえてしまったというか……」
「い、い、い、今すぐ忘れるのですよ! どうして聞いてるですか!?」
そんな横暴な、と思いつつも顔を真っ赤にしたノインさんが容易にイメージ出来る。
見た目は完全に子供だからな。フィアの話だと年上だって話だったが、泣きじゃくっていても全く違和感がない。
「いや、不可抗力ですよ。カプセルの通信機能が点いてるなんて知りませんでしたし」
「うぬぬぬ、こ、今回は負けてしまったですが、私が本気でやればこうはいかないのです。今回はかなり、かなーり手加減していたからの結果なのですよ!」
「分かってます。分かってますから」
「うな! その言い方、絶対分かっていないのです! もう一回、もう一回やるのですよ!ほら、早く!」
「えぇ……、まぁ別にいいですけど」
何というか、普段は大人っぽい感じに思っていたが……こうなるとあれだな。
大人っぽく見せようと背伸びしてる子供みたいな。
見た目の幼さの所為でその印象が非常に強い。
これを本人に言ったらまた怒るんだろうなぁ。
そんなことを考えつつも目を閉じ、負けず嫌いのもう一戦に興じるのだった。
ちなみに、この一戦ではものの三秒で圧倒的な量の武器に串刺しにされて負けた。
その後のカプセルの中ではよほど嬉しかったのか、テンションが上がった感じで自慢げに自分の方が強いと語られた。
あれほどの量を同時に操作するなんて、子供っぽくてもS級はやっぱり強いな……。
そう思わずにはいられない雷人なのであった。
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シュバンツ・ノイン、数えきれないほどの武器を精密に操作する彼女に、遠距離から勝利するのは至難の技である。
しかし、近付くことすら困難で、近付いたとしても危険予知があるために不意を突くことは不可能。
彼女に勝つためには、分かっていても防ぐことの出来ない何かが必要である。
*****
ノインは非常に多くの能力を持つ、正しく盛りに盛られたキャラクターです。
その能力は某有名ゲームの固有結界に非常によく似たものとなっていますが、正確に言うと同ゲームの有名な蔵との合いの子な感じですね。
ノインは武器を集めるのが趣味で、暇があれば宇宙中の武器屋を回ってはその商品の全てを自身の能力に落とし込んでいます。
見ただけで同じものが手に入ってしまうのでノイン自体は買い物をしないのですが、実はノインはブログをやっていて、良いと思った武器を紹介していたりします。
その評価は非常に的確であり、本人は知りませんが宇宙中に影響力を持っています。
ノインは非常に目立つので、武器屋の間では有名で”希望の女神”などと呼ばれていたりします。
良い物を扱っているものの知名度が低い武器屋は、彼女の来店を心待ちにしているわけですね。
以上、ノインに関する小ネタでした。




