5-26 幼き九尾巫女は天歩艱難の現実を見ない2
以前から少しずつ練習していた技、瞬閃雷果。
その速度は驚異的で、普段の雷人の移動速度の数倍以上の速さは出ているんじゃないかと思うほどだ。
だが、その速度故に扱いは容易くなく。
コントロールも正直出来ているとは言えなかった。
体への負荷は非常に大きく、使えば全身が悲鳴を上げるし、何より軌道が読み易い。
わざわざレールを敷いて飛ぶわけだからな。
そんなあからさまなことをすれば誰だって射線から逃れるし、何かしらの攻撃を置いておかれただけで自分からそれに突っ込んでしまう羽目になる。
要するに、事前に敵の動きを止めて且つ反撃を封じていなければ使えないという、技としてはどうしようもない欠陥を抱えていたのだ。
今回、これまで考えた技のほぼ全てをノインさんに真正面から封殺され、どうしようもなくなった時ある考えが頭を過った。
「あれ? 別に俺自身を飛ばさなくてもいいんじゃないのか?」
それは至極当然の事だった。
逆に何で今まで考えなかったのかが不思議なくらいだ。
……いや、まぁ? 何となく相手の反応出来ない速度で動いて切るってことに憧れがあったというか、それがカッコ良いと思っていたとか、そんなくだらない理由からその考えを無意識のうちに遠ざけていたんだと思うが……。
ともかく、自身ではなく弾を飛ばすようにすればリスクもないし、反撃を警戒する必要もない。
相変わらず弾道が丸分かりという欠点はあるが、瞬閃雷果よりは使い易いことに変わりはないだろう。
そして、恐らくだがこと今回に限って言えばそれは問題にはならないと思った。
根拠なんてものはなかったが、何となく思ったことがあったのだ。
「多分、ノインさんは俺の技を真正面から潰したうえで勝とうとしてる」
エンジュさんもそうだったが、どうも彼等は俺の技を躱そうとしない。
円環剣舞は言わずもがな吹き飛ばされたし、紫電一閃は止められたどころか属性刀を叩き折られた。
レールガンは無数の槍の盾に防がれたし、授雷砲は数の暴力で相殺された。
S級の余裕なのか、強さを見せつけるためなのか、理由は何でもいいがとにかくノインさんは避けることなく防ごうとするはずだ。
それと、勝算がもう一つ。あれほどあった槍の大群は最大時の十分の一以下の数にまで減ったように見える。
だというのに一向に補充される気配がない。
要するに、あの槍には数に限りがあり、もう底をついているという事だ。
これは全て推測でしかないが、状況証拠は十分だ。
どのみち他に手はない。ならやるしかないだろ!
「せっかく反動を気にしないで済むようになったんだ。おまけも付けて、これで!」
頭の中にイメージを浮かべると目の前に雷輪のレールが広がる。
いや、それはもはやレールではない。
左右を囲うレールではなく、四方を囲うまさに砲身。
反動を気にする必要が無くなったことで、全力で力を加えられるようになったことによる実験的な試みだが、相手までのガイドを引くんだからな。過剰な力を掛けてもコントロールの心配もいらない。
その砲身を見たノインさんが驚愕に目を見開く。
しかし、やっぱり射線から逃げる素振りはない。
ビンゴだ!
「それじゃあ、いっちょ一発ぶちかましますか。名前は……いいの思いつかないな。とりあえず、超加速砲! って、おわっ!?」
叫ぶと同時、高速で回転する雷輪に吸い込まれるように入っていった特殊合金の弾。
それは一瞬のうちに加速して、熱のためか白っぽく発光しながら飛び出し、射線上を固めていた槍の大群を吹き飛ばして綺麗に風穴を開けた。
同時に周囲には暴風が吹き荒れる。
吹き飛ばされそうになるのをなんとか踏ん張って耐えつつ、ノインさんの様子を確認する。
どうやらノインさんは冷静に砕け散った槍の破片を防いだようだったが、その顔は呆気にとられた表情をしていた。その気持ちはなんとなく分かる。
正直言うと俺も驚きの威力だった。
とてもじゃないけど、現実で人には向けられないな……。
それに、巻き起こる暴風だけでも周りに被害が出そうだ。しかし、これで目算は立った。
軌道が読めるという事は相変わらずの欠点だが、だから使えないという事にはならない。
これだけの威力があれば、相手の動きの制限に使える。
まして、逃げるつもりのないノインさんが相手ならば残った槍を吹き飛ばすのに使える。
やりすぎるとさすがに諦めて避けるだろうからな。
チャンスは一度、ここで勝負を決める!
俺がイメージを固めているとノインさんの表情がころころと変わるのが見える。
そして、ノインさんが吠えた。
「まだ、まだなのです。完全な勝利は、くれてやらないのです!」
ノインさんは勝ちを諦めていない。
俺に勝てる目算があるという事だろう。
だが俺だって勝ちを諦めていない。
だったら、どっちの目算が正しいのか答え合わせといこうじゃないか!




