5-24 幼き九尾巫女は順風満帆の夢を見る4
この実戦訓練はクリアさせることを目的にはしていないのです。
それぞれの訓練には一応課題を設定しているですが、それはあくまでやる気を出させるためのものに過ぎません。
この実戦訓練の目的は各々の今すぐに強化すべき点を洗い出し、私達がその面倒をみる事。そして、自分達の実力が如何に足りないかを実感させることなのです。
自身の足りないものを分かっていない者は、分かっている者に比べて強くなるのに時間が掛かるのですよ。だから、足りていないのだと教えるのが私達の役目なのです。
目の前にいるこの少年。
雷人はホーリークレイドルに入ったばかりにしては強いのです。
十分に優秀だと言えるのですよ。
だからこそ、恐らくどこかで自分は工夫すれば勝てるとか、技を身に付ければ勝てるとか思っているのです。
ですが、基礎となる部分を疎かにして付け焼刃の技で補っていては成長は遅くなります。
成長が頭打ちになってから気付くよりも、基礎が大事だという事に、小手先の技だけでは勝てない相手もいるという事に気付かせてやらなければならないのです。
「ふふん、あなたの話は十分に聞かされているのですよ」
ルーと同じ空間機動大好きの機動力重視型で、遠距離からの大火力持ち。
困ったら大技頼りで、これまではそれで何とかなってきた。
なってきてしまった。
それを防げる存在に出会った時、あなたは凌ぐことが出来るですか?
もしあの子の守り人にあなたがなるのなら、もっと強くなってもらわないと困るのです。
それこそ、私達を超えるほどに。
だから、私達は……。
「全員で、あなたに敗北をプレゼントするのですよ」
*****
レールガン。
あれは発射のタイミングさえ掴んでしまえば防ぐのはそれほど難しくないのです。
空中から撃ってきたのには肝を冷やしたですが、分かってしまえば対応は簡単。奇襲にしか使えないのです。
円環剣舞とかいうあれはただの小手先の技なのです。
数はあっても制御は甘々。
あの大剣を瞬時に破壊出来ない者には効果があるですが、出来る者にはほとんど効果がないのです。そのうえ、私との相性は最悪なのですよ。
瞬閃雷果とかいう突進技や、紫電一閃とかいう抜刀術紛いの一閃。
あの速さは私としても脅威と成り得るですが、それはあくまで使える状況になればの話。
近付けないようにしてしまえば、特に問題ないのです。
あとは……授雷砲とか言ったですか?
あれは確かに強力な技なのです。
入念な準備と対応出来るだけの余裕がなければ、私でも正面から防ぐのは難しいのですよ。
ですが、あれは消耗が激し過ぎるのです。
一回の攻撃にどれだけの生命力を使っているのか。
エネルギーの塊をぶつけるような攻撃はコスパが悪過ぎるのです。
一度防いでしまった今、もう一度同じことは出来ないはずなのですよ。
というわけで、話に聞いていた雷人の技はおよそ全て防いで見せたのです。
近接技は万が一があるので受けませんが、それ以外は使わせたうえで封じて見せたのです。
これだけやれば、力不足を実感させるには十分なはずなのですよ。
とはいえ、もう槍の在庫もかなり少なくなってしまいました。
あまり長引かせるのは危険なのです。
目的のためには、私は負けるわけにはいかないのですよ。
そう考え、ノインは若干上がってしまったテンションを落ち着けるべく深呼吸をする。
その時、雷人と目が合った。
雷人の目は揺れていて、焦っているのが目に見えるようだった。
「ふふふ、どうやら打つ手なしですか?」
そう口にすると自然と頬が緩む。
万が一の奇跡は危惧していましたが、どうやら何事もなく面目は保てそうなのです。
さて、それじゃあそろそろ終わらせるとするのですよ。
そう考えるとノインは周囲に浮かべていた槍の穂先を雷人に向けた。
それを見た雷人の表情は想像に反して、笑っていた。
その不気味さに背筋がぞくっとする。
「はは、根性、根性。最後まで諦めるな。ですよね」
「うな? 今ぞわっとしたのですよ。あなたも根性馬鹿になるつもりなのです? 悪いとは言わないですが、暑苦しいのはごめんなのですよ」
そういえば、私の前に雷人の相手をしていたのは根性馬鹿だったですか。
あの馬鹿の様になられるのは非常に不本意なのです。
根性で全てが解決するのなら、私達は困っていないのですよ。
「ははは、そう言わないで下さいよ。早々に諦めるよりはいいと思いませんか?」
まだ諦めていないのです?
また小手先の技でも思いついたですか?
いいのです。それならそれを真正面から打ち砕いて、それだけではどうにもならないこともあるという事実を叩きつけてあげるのですよ!
「……まだ何かあるですか? 面白いのです。それじゃあ、見せてみるのですよ。あなたの、全力を!」




