5-23 幼き九尾巫女は順風満帆の夢を見る3
イメージを固めると同時に周囲に金属の弾が次々と生成されていく。
それを見たノインさんが眉を顰めた。
「弾なんて作ってどうするつもりです? 質量のある弾ならそのカナムとやらの弾よりもマシだとでも考えたですか?」
「あぁ、そうですね。威力は落ちますけど、砲身が無くたって弾は撃てるんですよ!」
生成された弾は作られたそばからノインさんに向かって飛んでいく。
複数の雷輪を通った弾丸は槍を壊すのに十分な威力を秘めている。
だが、まるで巣を突かれた蜂のように襲い来る槍の大群に、ノインさんに届くことなく撃ち落とされてしまう。
それとは別に無数の槍は俺に向かっても放たれ、雷盾で弾くも全てを弾くことは出来ない。
槍の集中した箇所が破られ、身を捻るも躱し切れずに掠めていく。
「くそ! なんて数だよ!」
「ふふふ、もう終わりなのですか? おかわりはまだまだあるのですよ!」
「ぐっ、止まったらやられるな。そうでなくても長くはもたない……。だけど、準備は出来ましたよ!」
「はい? 何、をっ!?」
無数の傷を作りながらも腕を振るう。
すると視線の先、ノインさんの背後で爆発が起きて地面が捲れ上がった。その衝撃にノインさんの体が浮き上がる。
「くそ、外した! もう一発!」
「上ですか!? やらせないのです!」
ガキィィィィン! という甲高い音とともにノインさんの上に集結した無数の槍の破片が宙に舞う。
くそ、対応が早い! 二発目でもう防がれた!
槍のセンサーを躱すために、空に浮かせたレールガンの砲身から放った弾丸。
常に照準を合わせる必要があったため、一つしか設置出来なかったうえにその発射の反動で砲身がブレたのか一発目はわずかに逸れ、ノインさんを捉えるには至らなかった。
二発目を防がれたレールガンにはすぐさま槍が殺到したので、操作を放棄し全力で逃げる。
ノインさんの意識がこちらから逸れたので、何とか距離を離すことに成功した。
もうレールガンで突破するのは難しいな。そして、近付こうにもあの槍の大群を躱すのは骨だ。
だったら、やっぱり大火力で吹き飛ばすしかないな。
「ここまで溜めてた全部をお見舞いしますよ」
「うん? その構え、私も知っているのですよ」
「そうですか? でも、知ってたところで関係はありませんよ!」
これまで唯に相殺されたことはあったが、防がれたことは一度もない。
それも、相殺とはいってもその衝撃でダブルノックダウンになったのだ。仮に同様の状況になっても今の俺なら対処出来る。
指先にカナムが集まり光を発する。
さらに、何重にも雷輪が回り、そこに指先を向けた。
「もらいます! 授雷砲!」
そして放たれるエネルギーの奔流。
暴風を巻き起こしながらそれは小さな少女に向かって突き進む。
その間を割るように数えきれないほどの槍が飛び、エネルギーの奔流に次々と吸い込まれていく。だが無駄だ。そのくらいで防げる……技じゃ……え?
「嘘……だろ?」
この場に存在した槍の大半は消えた。
だが、それと引き換えに授雷砲はそのエネルギーを使い果たし消失していた。
残り滓のように暴風が吹き荒れる中、九本の尻尾をゆらゆらと揺らした少女が笑う。
「どうしたのです? 呆けた顔をして、大技を防がれたら……もう終わりなのです?」
ふせ、がれた?
授雷砲は確かに躱されたことも、相殺されたこともある。だが、こうも完璧に防がれたことなんて一度も無かった。
俺は無意識に距離を取りながら歯噛みした。
「授雷砲は防がれたし、レールガンの仕掛けも全部防がれた。円環剣舞も相性が悪くて意味を為さない。あとやってないことと言えば……やっぱり、近付くしかないか?」
それも、やはりうじゃうじゃと浮かぶ槍の大群を躱さなければ無理な話だ。
正直、出来る気がしないな……。
一か八かで瞬閃雷果を使ったとしても、あれは細かな制御が出来ない。
槍が罠の様に設置されている現状。制御の出来ない突進など自殺するのと同義だ。
「何か、何かないか。逆転の一手は……」
その時、深呼吸をしていたらしきノインさんと目が合った。
こちらの状況を察したのか得意げな笑みを浮かべるノインさん。
その顔は見た目通りの子供のようで可愛らしいが、周りの槍の大群はそれをして余りある恐ろしさだ。
この光景、夢に出そうだな。
ノインさんの周りを回るように浮いていた槍の穂先が全てこちらを向く。
流石に、終わりか?
そんな考えが過ぎったその時、エンジュさんの顔が頭に浮かんだ。
すると、俺は不思議と笑っていた。
「はは、根性、根性。最後まで諦めるな。ですよね」
「うな? 今ぞわっとしたのですよ。あなたも根性馬鹿になるつもりなのです? 悪いとは言わないですが、暑苦しいのはごめんなのですよ」
「ははは、そう言わないで下さいよ。早々に諦めるよりはいいと思いませんか?」
「……まだ何かあるですか? 面白いのです。それじゃあ、見せてみるのですよ。あなたの、全力を!」
ノインさんの薙刀の切っ先が俺に向けられ、隙間ない槍の大群が殺到する。
それでも、俺は笑っていた。
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