5-21幼き九尾巫女は順風満帆の夢を見る1
流石はS級相手の訓練といったところか。
俺は一回休みだったのだが、各自の戦績はボロボロだった。
シルフェとフォレオがノインさんに、空と唯がルイルイさんにフィアと俺がエンジュさんにフォレオと空がマリエルさんの訓練を受け、全員が不合格となっていた。
「あはは、皆ダメダメだね!」
「笑い事じゃないわよ。とは言っても、あんまり手加減されてる気がしないのも事実だけど」
「そうですね……。うちももう少しやれると思っていたのですが、まるで歯が立ちません」
弱音を吐く三人を見てカプセルの縁に腰掛けたノインさんが溜め息を吐いた。
「何を言っているのですか、一応手加減はしているのですよ。もっとも、私達は負けるつもりでやってはいないので、あなた達がこちらの想像を超えない限りは勝てないようにしてますが」
「それは、厳しいわけですね……」
「想像を超えるって、なかなかに難しいよね」
「……やるしかないだろ。俺としては訓練になってるし、特に文句はない。続きをお願いします」
皆が苦い顔をする中、俺がそう言うとノインさんが笑った。
「雷人はやる気満々みたいですね。それでは次は私が相手になるですよ。他の三人も、もっとやる気を出すのですよ!」
「分かってるわ。あんまり不甲斐ないところは見せられないもの。私が一番最初に課題をクリアしてやるんだから!」
「はい、私も頑張ります!」
「えーっと、次って私もだよね? よろしくお願いしまーす!」
各々がやる気を取り戻したところで再びカプセルの中へと向かう。
そろそろ誰かしらがクリアしておかないと、皆のやる気が続かなくなる。
次の相手はノインさんか。
何とかして、合格をもぎ取らないとな。
そして目を閉じ、再び開けるとやはり場所はコロッセオのようなあの闘技場だった。
どうやら今回の場所はここで固定のようだな。
そして、目の前に悠然と立つ見た目はか弱そうな少女に向き直った。
「さて、やる気は十分なようですが……それだけでは合格は出来ないのです。よく考えて戦うのですよ?」
「分かってます。フィア達には悪いですけど、ノインさんから合格をもぎ取って一番にクリアして見せますよ」
俺がそう言うとノインさんは楽し気な笑みを浮かべた。
見た目にそぐわず不敵な笑みだ。
いや、これは先輩風を吹かせているともとれるか?
そう考えれば大人ぶっている少女に見え……。
「……何を考えているですか?」
「い、いや。何も?」
突然飛来した槍が頬を掠めるギリギリのところを通り過ぎ、後ろの地面が爆ぜた。
さ、流石はS級だな。ツッコミも一味違う。
「それで、ノインさんのクリア条件はなんなんですか?」
「ふっふっふー、私の訓練は甘くはないのです。ずばり、私に危険だと思わせることなのですよ!」
「……はい?」
「何か文句があるですか?」
「いや、何と言うか、随分と抽象的と言うか。客観的に判断の出来ないことだなと……」
「私が嘘を吐くとでも言いたいのですか?」
「いや、そうは言いませんけど」
ジトーっとした目で見てくるが、言いたくもなるだろ。
その条件じゃ勝ったかどうかなんてこっちじゃ判断出来ないんだからな。
まぁ、さすがに子供みたいに負けてないと言い張るなんてことはないとは思うが……。
「大丈夫なのですよ。あなたが心配してるような問題は起きないのです。隠しても意味がないので言いますが、私には危険予知の能力があるのですよ。要するに、私にその能力を発動させること。これが条件なのです」
「危険予知? えーと、内容は名前でなんとなく分かりますけど、それって具体的にはどんな場合に発動するんですか?」
「簡単に言うと、私が困るような状況を事前に察知出来る能力なのです。詳細までは教えませんが、基本的に私に傷を負わせられれば発動するのです」
「傷を負わせれば発動? 能力って予知なんですよね?」
「そうなのですよ。要するに、あなたが私に傷を負わせるような未来があれば、私はそれを察知出来るという事なのです。実際には躱すか防ぎますので、私が傷を負うことはないのですよ」
なるほど、つまり俺がノインさんに攻撃を当てられるような動きをすれば、ノインさんは事前にそれを察知して対応出来るわけか。
……なかなかにチートな能力を持ってるな。
それってつまり、ノインさんの意表を突くような攻撃は出来ないってことだろ?
……いや、今回に限っては倒す必要はないし、能力を発動させれば勝ちなんだからフェイントも有効なのか。
なるほど、確かに攻略難易度を考えれば十分手加減されていると言えるな。
「因みに、エンジュさんの時は特殊勝利条件がありましたけど、確か全員共通って。ノインさんが本気になる時っていうのはどう判断するんですか?」
「……そうですね。それでは、私が使う武器は身体強化と異空間収納の指輪、それと薙刀と槍だけにするのです。能力も好物収集と神通力だけにしておくのですよ。それ以外を私が使ったら負けでいいのです」
ん? 能力は何を使うって言った?
んーよく分からないが、まぁとりあえずそれはいいか。
確かこの人、訓練の時は槍の雨を降らせてたよな。
この口ぶりだと、他の武器も使えるってことか。
武器を限定してくれるならその方が楽で嬉しいな。
「分かりました。それじゃあ、よろしくお願いします!」
「じゃあ始めるのですよ。いつでも掛かって来るのです」
そう言ってノインさんは薙刀を構えた。




