5-19 爆ぜろ不屈の快男児2
「三十秒だ。全力で掛かってこいと言ったはずだったんだけどな。お前にはもっと強い技があるって聞いたぞ?」
「……動かない相手にそれをやるのは流石にどうかと思いますよ。それを勝ちって言えるんですかね?」
「そうか、確かにお前の言う通りだな」
さてと、さっきまでは確かにそう思っていたんだが……いらないカッコつけなんてしないで全力出した方が良かったか?
一歩動かすくらいは出来るかと思ってたんだが、一歩どころか腕の一つも動かさなかったぞこの人。
俺は確かにこの数日で強くなったはずなんだが、この人を相手にしていると全部気の所為なんじゃないかと思えてくる。これが格の違いってやつなのか?
「さて、それじゃあ今度はこっちから行くぞ!」
その言葉と同時、エンジュさんの足元で突然爆発が起きた。
そして、気付くとエンジュさんが目の前で拳を構えていた。
「はっ!? くそっ!」
咄嗟に身を捻ると拳が顔の前を通り過ぎる。
そして、恐らく腕を振り切る前に高速で蹴りが放たれた。
次の瞬間には腹に走った衝撃に俺の体はくの字に折れ曲がっていた。
「おべっ! あがっ! ごはっ!」
そのまま吹っ飛んだ先で数回バウンドし、頭に走った衝撃と共に顔から地面に突っ込む羽目になった。
一瞬だけ見えた。足の後ろで爆発を起こして瞬時に回り込んだエンジュさんに頭を殴られて地面に叩きつけられたのだ。
このまま止まっているのは不味い!
いまいち纏まらない思考の中で、辛うじてそう考えた俺はすぐに地面を殴って飛び起き、翼を形成して勢いよく飛び上がった。
それと同時に爆ぜる地面。危なかった。
一瞬でも遅れていたら俺はあの土みたいに飛び散っていたかもしれない。
そして、舞い上がる土煙を抜けて飛び出してくる影が一つ。
確認するまでもない、エンジュさんだ!
「あああああぁ! 円環剣舞!」
なりふり構わず、自身の周囲を回る大剣を作り出し自身を守る。
しかし、それなりの質量を持っていたはずの大剣達はエンジュさんに届く前に、放たれた爆発で軽々と吹き飛ばされてしまう。
断続的な足の裏からの爆発で方向を調整しながら迫るエンジュさん。
その速さは想像以上でぐんぐんと近付いて来る。
牽制でばら撒いている雷弾射撃も、円環剣舞の大剣も、関係ないとばかりに躱すことすらなく突き進んでくるその姿は正しく暴走列車。止まることを知らない怪物だ!
ダメだ、逃げきれない! 迎え撃つしかない!
俺は振り返ると後ろ向きに飛びながら、刀を構えた。
あのバルザックの強固な鱗すらも切り裂いた一撃。
体の要所と属性刀を雷輪により加速し、体の限界以上の速度による一撃を可能にした。その名も!
「紫電……一閃!」
急激な反転に全身の筋肉が悲鳴を上げる。
だが体を鍛えた効果か、前回よりも体への負荷が大きくない。
これなら、より緻密な刀の操作が出来る!
ここ数日の基礎トレの集大成だ!
これなら、エンジュさんの怪物じみた筋肉だって超えられるはず!
剣先まで神経が走るかのような、体の一部にでもなったかのような感覚。
それが、エンジュさんを捉え……。
その時、エンジュさんと視線が合った。
そして、その瞳が残念そうに俺を見据えていた。
「根性が足りねぇな」
完全に捉えたと思った。
その瞬間、爆発が起きた。
それによって剣筋が乱れ、そして何か硬いものを叩いたような感触があった。
次の瞬間には腕に感じていた反発力が消え、完全に勢いのままに振られる刀に引っ張られる形で前方に体勢が崩れる。
その時、俺の目には折れた属性刀が飛んでいく光景が映った。
そして背中に、優しくエンジュさんの掌が添えられて……。
「イグニッション」
背中を襲う爆発の衝撃、瞬間に世界はブレ、流れていく。
そして、激突。俺の視界は派手に割れた地面を映していた。




