5-18 爆ぜろ不屈の快男児1
さて、激戦の末に最後の一人に選ばれた俺はカプセルの中へと入り目を閉じた。
そして目を開けてみるとそこは石造りの闘技場だった。
何となく見たことがあるな。
確か、コロッセオとかいうやつだったか? あれに似てる気がする。
決闘場と言う意味では随分と雰囲気のあるステージだ。
さて、そんな俺の相手はと言うと……。
「げっ……」
「何だ何だ? 俺とやるのは嫌だったか? 根性が足りないなぁ」
いきなりこの人か……という言葉は何とか飲み込んだが、恐らく顔に出てしまっただろう。
だが、それでもエンジュさんは笑顔のままだ。
この人、懐が広いな。
鬼の筋トレの所為でトラウマ気味なんだよなぁ。
あと、テンションに付いて行き難い。
だが、やるしかないのが事実だ。
忙しい中せっかく時間を作ってくれてるわけだしな。
胸を借りるとしよう。
「さて、それじゃあさっそく俺への勝利条件を発表するか。俺の出す条件は……十分間ダウンしないか、一度でも俺からダウンを取ることだ! 根性があれば簡単だろ?」
「根性があればですか……確かにそうですね」
ダウンを取るのに根性が関係あるかは知らないが、十分間ダウンしないのに根性は必要だろうな。
……いや、本当にそうか?
何か騙されてる気がする。
「そうそう、それとこれは全員共通の特殊勝利条件なんだが……俺達を本気にさせてもお前達の勝ちだ」
「本気……ですか?」
「あぁ、と言っても本気なんていうのは俺達自身にしか判断出来ないからなぁ。まぁ、要するに俺達に認められてみせろってことだ。根性見せてみろ!」
「はぁ……」
要するに、本気を出したかどうかは向こうの申告制ってことか?
だったらないものと考えた方がいいな。じゃあ、とりあえず俺が狙うのはもちろん……。
「逃げ続けて勝っても勝った気がしませんから、俺はダウンを取らせてもらうことにしますよ」
「お、言ったな? 根性あるじゃねぇか。気に入った! 最初の三十秒はここから一歩も動かないでやる! もちろん反撃も無しだ! 全力で掛かってこい! これが落ちたら開始な!」
言うが早いか、どこからか取り出したコインを上に弾き上げた。
そして、そのまま流れるように仁王立ちの構えを取った。
最初は動かないって?
よっぽど防御に自信があるんだな。
「その余裕、後悔させてみせます!」
「おう! やってみろ!」
その言葉の直後、コインが地面に落ち金属音が響く。
それを聞くと、俺はすぐに地面を蹴ってエンジュさんに接近した。
鬼のような訓練をしただけあって、はっきりと分かるレベルで体が軽い。
訓練中は分からなかったが、一日休んだからこその自覚だろうか?
これなら、本当にクリア出来る気がする!
そう考えた俺は勢いそのままに跳び蹴りをエンジュさんの腹に決めた。
だが……。
「なっ!」
吹っ飛ばすつもりで放った蹴りを受けてもエンジュさんはびくともしない。
その蹴った感触は何とも不思議だ。エンジュさんの腹は鋼鉄のように硬く、それでいて衝撃を流されているような。反発の少ない感触。
「くっ、あああああぁぁ!」
スピードを完全に蹴りのパワーに変えてしまった俺はその場へと降り立ち、そのまま腰を回して体重の乗ったパンチを何発もぶち込むが、またも手応えがない。当のエンジュさんも余裕の表情だ。
「おうおうおう、どうした! こんなもんなのか?」
「まだまだぁ!」
恐らく能力なのだろう。
蹴りやパンチの衝撃は完全に吸収されてしまった。
であれば他の方法を試すだけだ。
俺はすぐさま属性刀を取り出すとそれを腰のあたりで構える。
「メイリード流! 狼牙閃!」
「ぬんっ!」
全力で振り抜いた横一閃はガキィィィン! という金属音とともにその腹筋に阻まれた。
今度はさっきのような吸収されるような感触はほとんど感じなかったが、それはそれとして普通に硬い。
本当にこれは筋肉なのか!?
一応僅かに切れてはいるものの、属性刀が腹筋に捕まって抜こうとしても抜けない! だったら、このまま!
「雷弾解放!」
雷弾解放は単純な放電技。シンプルだが十分効果的な技だ。
さっきの様子からしてエンジュさんの能力は衝撃を吸収する類のものなのだろう。であれば、放電は効果があるはずだ。
「うぐっ! やるな! だが、根性おおおおおおぉぉ!」
エンジュさんの雄叫びに体が震える。いや、闘技場自体が震えている!?
効果がないわけではなさそうだが、やはり倒すには至らないか。
俺が属性刀から手を放して飛び退がるとエンジュさんが腹から属性刀を抜いて放り捨てた。
エンジュさんの顔に笑みが浮かんだ。




