5-13 フォレオとシルフェの知ったかぶりクッキング!
「さて、それでは何を作りましょうか?」
フォレオはそう言いながらリビングに置いてあった料理本を広げた。
それを適当にパラパラと捲っていると、それを横から覗いていたシルフェがあるページを見て指を差した。
「これおいしそう! これにしようよ!」
「ふむ、チーズカレードリア……ですか。確かにおいしそうですね。迷っていても決まりませんし、じゃあこれで行きましょう」
「うんうん、じゃあ、まずは何をすればいいかな?」
「そうですね。まずは材料を集めましょう。えーと? ご飯、鶏むね肉、ニンジン、玉ねぎ、チーズ、バター、カレー粉、塩コショウ、牛乳、小麦粉……ですか」
「分かった!」
フォレオがそう言うと、シルフェが冷蔵庫の中を覗き込む。
お尻を振り振りしながら中を覗いていたシルフェが顔を出し、冷蔵庫の中と調味料用の棚から食材を取り出した。
「多分この辺りじゃないかな? フロラシオンの食材はよく分からないけど」
「ふむ、どれどれ……」
実際に見た事はありませんが、食材については聞きかじったことがあります。
白い粉が二種類、恐らく小麦粉と塩がこれですね。
黄色い粉が一種類、カレー粉とやらがこれでしょう。
黄色っぽい色の固形物は多分チーズとバター。
白い液体は牛乳ですか。
緑と白の細長いこれ……確か……ねぎ?
そんなことを聞いたような気が……。多分これが玉ねぎですね。
肉は……随分と薄く切られていますね。
若干テカっていて脂肪らしき白い部分が点在しています。
これが鶏むね肉ですか?
……まぁ、違っていたとしても肉は肉のはず。特に問題はないでしょう。
ニンジンは……なんか茶色と言うか灰色と言うか、こんなのでしたっけ?
うーん、正直うちも詳しくはないのですが……まぁ大丈夫でしょう。
うちの冷蔵庫に入っていたんですから、食べられない物なわけがありません。
「大丈夫そうですね。それでは作っていきましょうか」
「おー!」
元気なシルフェの掛け声とともに料理を開始する。
例え初心者でも料理本を見て手順通りに作れば上手く作れると聞いた事があります。
フロラシオンの食材を使うのは初めてですが、料理は初めてではありません。
ふふふ、おいしく作ってあげますよ。
「まずは鶏むね肉を一センチ角に……薄く切られているからそもそも無理ですね。とりあえず四角に切っておきましょう」
「オッケー!」
シルフェが素早く肉を四角く切っていく。
髪を変形させたその包丁は切れ味がよく、するすると食材が切られていく。
なかなかに手際がいいですね。
初めてと言っていましたが、料理の才能があるかもしれません。
「次にニンジン、玉ねぎをみじん切り……これとこれをみじん切りにして下さい」
「んーと? みじん切りってどんなの?」
「あれです、あれ。とりあえず細かく切っておけばいいのです」
「なるほど!」
顔の横で両手をパーにして合わせ、シルフェが笑顔になる。
どうやら理解してくれたみたいです。
無数にシルフェの周りに浮いた包丁が食材をどんどん細切れにしていく。
ふぅ、シルフェは料理が初めてではありますが、飲み込みがいいですね。
いや、きっとうちの教え方がいいんでしょう。
「次はどうするの?」
「えーとですね。ご飯の粗熱を取るみたいです」
……粗熱って何ですかね?
熱と言うくらいですから、多分冷やせばいいでしょう。
「そこのボウルにご飯を取って下さい」
「分かった! よいしょ、よいしょ。はい、取ったよ!」
「じゃあ、手っ取り早く……それ」
フォレオの掛け声に合わせて水球が生まれてご飯を包み込み、洗濯機の様にぐるぐると洗うと元のボウルの中に戻った。
「ふぅ、これで冷めましたね。完璧です。それで次は……ソースを作るみたいですね。牛乳と小麦粉を混ぜるみたいです」
「えーと、牛乳と小麦粉ってどれ?」
「多分、これとこれですよ」
先ほどの白い液体と白い粉をシルフェに渡す。
ふむ、牛乳というのは何やら少しとろみがついていますね。
それに少し酸っぱい匂いがします。これが牛乳なのですね。勉強になります。
こっちの白い粉は何だか雪のような感じですね。
触ってみると鳴るキュキュッと言う音はなんだか独特です。
「どのくらい入れればいいかな?」
「えーと、牛乳が三カップと小麦粉は大さじ十二らしいですよ」
「えっと? カップはどれを使うの?」
言われてみれば、ちゃんと規定されているようでいて曖昧な表現が多いですね。案外量は適当でいいのかもしれません。
そう考えながらも周りを見回してみるが、どうもそれらしきカップは見当たらない。
「……とりあえずそこのコップを使っておけばいいのでは?」
「そっかぁ!」
ドバドバと入れられる白い液体。
さて、次は白い粉を大さじ十二……ふふふ、さじがスプーンだという事くらいはうちにも分かりますよ。
「次はこのさじ十二杯分です。そこの白い粉を入れて混ぜて下さい」
「おー、多分たくさん入れた方がおいしいよね? 山盛りに入れよう!」
シルフェはそう言ってスプーン山盛りの白い粉を十二杯分白い液体に入れて混ぜ始めた。
なんか溶けてるというかダマみたいになっていますが……レシピ通りなんですから、多分問題ないでしょう。
「ぐるぐる、ぐーるぐるー! ……うん! 混ぜたよ!」
「そうですか。そうしたらフライパンに入れてバターを加えて、弱火でとろみがつくまで混ぜるみたいです」
「とろみ? もうついてるけど……」
「……まぁ、ついてるなら問題ないです。適当に温めましょう」
「分かった!」
ふむ、全てが手順書通りとはいかないようですね。
料理とは結構奥深いもののようです。
「このくらいでいいかな?」
「焦げてなければいいでしょう。次はさっき切った食材を炒めるみたいです。フライパンにバターを塗って、その後ご飯を入れて塩コショウをするみたいですね」
「うんうん。……ご飯ってなんかべちょっとしてるんだね?」
言われてみればべちょっとしています。
もしかして、水で洗ったのが良くなかったでしょうか?
「うーん、まぁこれから炒めるんですから水分は飛ぶはず。大丈夫でしょう」
「そっか、うんちょっといい匂いがしてきた気がするね!」
そう言われて匂いを嗅いでみる。
ふむ、恐らく胡椒の香りが強いですね。ちょっと入れ過ぎですか?
……まぁ、入れてしまったものは仕方がありません。何とかなるでしょう。
「そしたらご飯とソースとカレー粉を合わせて、焦げ目が付くまでオーブンで焼くみたいです。結構簡単でしたね」
「うん! 私にも料理が作れたよ! それじゃあ、後は焼くだけだね!」
ルンルンと浮かれ気分でオーブンに入れるシルフェ。
そして焦げ過ぎないように見張りながら良い感じに焦げ目がつくまで焼き、オーブンからそれを取りだした。
すると……。




