5-11 掴んだ尻尾はモフモフでした?
空高く放たれた巨大な光る矢。
その矢は何百本もの矢に分かれて落ちてくる。
「綺麗だね。だけど、武器は禁止だよ?」
「それは攻撃に使った場合ですよね? これはただの、妨害です!」
光の矢はその軌跡を残したままに地面へと突き刺さり、巨大な檻の様になった。見た目はまさに鳥かごだ。
それは各光の矢の軌跡の間に膜を張り、少しずつその範囲を狭めていく。
「……囲まれた。でも、あんなに薄い膜なら簡単に破れるよ」
「悪いですが……あれはただの、囮です!」
「ん!?」
ルイルイさんの視線が光の矢に向けられた瞬間、その一瞬に俺は駆けた。
この訓練は結局のところ速さが必須条件だ。
ルイルイさんはどうやらまだまだ余裕のようだし、攻撃が出来ない以上直接足を止める手段は妨害だけだ。
それにしたってルイルイさんは思いの外に力が強くてほとんど止められない。
間接的な妨害が出来ればそれもいいが、シルフェの幻覚能力は触れなければ危険だから流石に使わせるわけにはいかないし、俺にはそんな力はない。
そんな状態なのに俺以上の速さで、俺と同様に立体的に動き回る。
およそ俺の上位互換なルイルイさんの背後を取るなど、正攻法では土台無理な話だ。
であれば俺達の出来る最善手は可能な限り妨害を加えた上での、ルイルイさんの想定を超えた加速だ。
妨害にはシルフェの光の矢。あれは目を引くには十分だからな。
そして、確かに妨害は成功した。残る想定を超える加速も、俺なら出来る!
「雷輪展開! おおおおおおおおおおぉぉ!」
「ふぇっ!?」
雷輪の複数展開による超加速。
体への負担は大きいが、さっきまでより格段に速い。
この一時間ひたすら俺の速さに慣れてきた今、この加速に対応出来るか?
「でも!」
ルイルイさん目掛けて加速した全力の突進は、跳び退りながら無理矢理に体を捻ることでギリギリ躱されてしまった。
この速さを躱すのか! 流石だな……だが!
「もういっちょおおおおぉ!」
一回躱されるのは想定内だ。
ここが本命。ここで、獲る!
雷輪で無理やりに減速する。大きな負荷に体が軋む。
だが、ぎりぎり耐えられる!
そのまま作り出した足場を蹴ってすぐさま跳躍、再び雷輪により加速する。体への負荷的にこれが最後のチャンスだ!
「そんな!」
「獲ったあぁ!」
先の突進を無理な体勢で躱したルイルイさんには万全な回避は出来なかった。
そして、俺の伸ばした手は確かに尻尾を掴み取った。
それと同時に雷輪で減速を……あれ?
想像以上にモフモフ……。
「ひゃああああぁ!?」
「え? あっ!」
俺は尻尾を掴んだ。確かに掴んだのだが、それは銀色でモフモフな尻尾。
掴むべき偽物の尻尾とは違う。ルイルイさんの自前の尻尾だ。
あ、でも触り心地は最高……。
無意識のうちに手が動き、尻尾をモフモフしてしまう。
「ひゃわあああぁ!?」
「おおおおおぉ!?」
次の瞬間には尻尾の毛がブワッと逆立ち、勢いよく尻尾が振られた。
それを掴んでいた俺の手は離れ、そのまま地面に勢いよく叩きつけられた。
「うぐぇ! お、おおぉ……いったぁ……」
「はわ、ご、ごめんなさい。尻尾を触られるのは、苦手で……」
倒れたままの俺の近くに降り立ったルイルイさんが心配そうに覗き込んでくる。
俺がその目の前に拳を突きだすと、ルイルイさんがびくっと驚きながらもその拳に注目する。
「え? あ! いつの、まに」
「……ふふふ、間違えたのはすみませんでした。でも、後でこっちもしっかり取らせてもらいましたよ。これでクリアですよね?」
ルイルイさんは自信満々に宣言する俺を前に何やら困った顔で両手の人差し指を突き合わせる。
ん? 何だこの行動は?
恥ずかしがってる……わけじゃないよな?
「あぅ、えっと、あの、その……ここから、どうしよう……」
「え?」
ルイルイさんの言葉が一瞬理解出来ずに、反射的に聞き返してしまう。
すると、ルイルイさんはまるで怒られるのを想像してしまった少女の様にもじもじと上目遣いでこちらを見つめた。
「取られる想定は、してなかった、ので……」
「えぇ……」
「おーい、無事に取れたんだよね? 休憩しようよぉ」
困惑している俺の後ろからゆっくりと飛んできたシルフェがヘロヘロといった感じで座り込む。
ただの囮だったとはいえ、やはりあの巨大な光の矢を打つのは相当疲れるらしい。
檻状にして維持までしてもらったからな。それも已む無しか。
「そ、そうだね。とりあえず休憩、ね?」
その手があったかとばかりに顔色を明るくして座り込むルイルイさん。
この人……こんなにおどおどしてるのに随分と自信があったんだな。
いや、あまり考えてないの方が近いか……?
まぁ、俺も体の節々が痛くて辛いし、休めるなら休ませてもらおう。
「……それで、この後はどうしますか?」
「え? 課題を達成したんだから終わりじゃないの?」
そんなことを言うシルフェの方を見ると、本気で言っていそうな純粋ですと言わんばかりの瞳に俺は溜め息を吐いた。
いや、まぁ、シルフェだもんな。
「えと、この訓練は、基礎的な体力の向上を目的としてる、から。止めるわけには、いかないというか……」
「そういうことだ。せっかく一日あるんだぞ? まだ午前中なのに終わるわけにはいかないだろ」
俺の言葉に見るからに落胆した様子のシルフェ。
どうやら、本気でお疲れモードだな。
でも、成長するのって大体限界迎えてからだろ?
ここからが本番だよな。
「あー、そっかー。それもそうだね」
「でも、うちが本気を出したら、捕まえられない、よ?」
「そうなの? じゃあ、どうしようね? うーん」
腕を組んで唸るシルフェ。
まぁ、手段は目的からくるものだ。
要するに、今回の訓練はルイルイさんを追い掛けることで基礎体力を上げるのが目的だったわけで、能力で無理やりに加速して尻尾を取ってもあまり意味がなかったわけだ。
「えーっと、ルイルイさん」
「は、はい。何、かな?」
「今回の訓練の目的は瞬発力の向上で合ってますか?」
「うん、それと相手の裏を取る、体の使い方も」
うん、そういう事ならやっぱりここで止めるのは間違いだろう。
それに、一度捕まえたくらいで終わらせる理由もない。
「それなら普通に、身体能力強化と足場を作る以外の能力使用禁止で続行、とかでいいんじゃないですか?」
俺がそう言うとシルフェはまだ疲れてそうなのに元気一杯な動きでポンッと手を叩き、ルイルイさんは申し訳なさそうに苦笑いした。
「なるほどぉ! 雷人は頭いいね!」
「そう、だね。じゃあ、それでいこうか」
結局その後、俺とシルフェが再び尻尾を取れる機会は訪れず。
またも疲れ切ってぶっ倒れた俺達は何度か医務室を訪れ、ミューカスさんのお世話になるのだった。
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