5-8 恥ずかしがり屋の狼娘
さて、日付が変わって二日目。
俺は今度はシルフェと一緒にルイルイさんとの待ち合わせで訓練室にやってきていた。
時間まではまだ少しあり、ルイルイさんはまだ来ていないらしい。
「今日はどんなことするんだろうね? ルーちゃんは何を教えてくれるのかな?」
「ルーちゃんて、随分とフレンドリーだな。まぁ前に手解きを受けた感じからすれば、戦闘スタイルとしては俺に近い感じだしな。瞬発力とかを鍛えるんじゃないか?」
「そっかー。瞬発力……じゃあ私も頑張って動くよー。バッ、ババッ!」
口で効果音を出しながら反復横跳びのように動き回るシルフェ。
しかし、こうして見てるとなんだか違和感が……。
あ、そうか。いつもは空にべったりだからな。
シルフェと二人きりなんて初めてじゃないか?
「そういえば、よく空と離れるのを了承したな。てっきり、空と一緒じゃないと嫌だって言うかと思ってたんだが」
「えー? 私そこまで束縛の強い女じゃないよ。空には空の時間があるし、そんなに我儘言えないよー」
心外なとでも言いたげな顔をしつつそんなことを言うシルフェ。
束縛が強い女じゃない? 空といない姿を見る方が稀だが……。
いや、そういえば一応学校までは付いて来てなかったな。
代わりに朝はべったりなんだが……あれでもシルフェはシルフェなりに遠慮しているという事か。
最近は空もようやく慣れてきた感じがあるんだよな。
外で引っ付かれることにはまだ抵抗があるみたいだが、家の中ではわりと平然としているようになった。
いつまでも動揺しているようじゃ疲れるし、良い変化だな。
「それは良い心がけだな。さて、そろそろ時間なわけだが……。ルイルイさんがまだ来ないな。何か用事か?」
「んー? ルーちゃんならさっきからあそこにいるよ。何してるんだろうね?」
「え? どこに……」
シルフェの指差す方向に目を向けると部屋の四方にある柱の一つ、その陰からひょっこりと覗く銀色の髪が……。
「あー、いつから?」
「ここに来た時からだよ。あれも修行なのかなー?」
気付いてたなら早く言ってくれと心の中で叫ぶが、シルフェにそれを言うのは酷か?
何にしても、このままだと出てくるのにかなり時間が掛かる気がするのでこちらから向かっていく。
そして、柱の近くまで行くと分かりやすく銀色の髪が揺れ、尻尾がピーンと伸びた感じで飛び出した。
「……今日はよろしくお願いします。ルイルイさん」
「あぅ、その、よろしく、お願いします」
若干消え入りそうな声で返事が来た。
まぁ以前に少し胸を貸してもらった時も最初はこんなだったが、訓練が始まってしまえばよくなるので特に問題はないだろう。
そんなことを考えているとシルフェが爆弾をぶっこんだ。
「あ、ルーちゃんもしかして隠れてたの? 恥ずかしがり屋さんなんだね!」
「あぅ、あぅ、ごめんなさい。あぅ……」
……若干体が出て来てたのにまた引っ込んでしまった。
俺は迷いネコでも相手にしてるのか?
ほら、怖くないよ。 ちっちっち。
「シルフェ、悪いんだけどさ。ちょっと一旦下がっててくれない?」
「え? 何で?」
ルイルイさんが出て来ないからだよ! と叫びたい気持ちをぐっと堪えて笑顔を作る。
我慢だ俺。ここで叫んだりしたらさらにルイルイさんが引っ込んでしまう。
……ノインさんがいれば話せるくらいにはなるんだけどな。
そりゃ、一人で依頼を受けられないわけだよ。
「あーなんだ、俺はちょっとルイルイさんと話があるからさ。ちょっとあっちで待ってて欲しいんだよ。いいだろ?」
「ふーん、そうなんだね。分かった。それじゃあ待ってるね!」
シルフェが元気よく返事をし、十分な距離まで離れたのを確認してから俺は柱に近付いた。
「ルイルイさん」
「は、はひっ」
「ルイルイさんがまだ俺達に慣れてくれていないことは分かってます。でも、どうか力を貸してくれませんか? 俺達はまだまだ弱いんです。今のままじゃ駄目なんですよ。俺は、フィアの助けになりたいんです」
驚かせないようにゆっくりと話す。
こういうのは無理矢理連れ出そうとしてもダメだ。
向こうから出て来てくれるように促さないとな。
言葉自体はシンプルでいいはずだ。後は、必要なのは時間だけだ。
じっと待っていると覚悟を決めたのかルイルイさんがゆっくりと柱の陰から出てきた。
「う、うちもフィアの助けになりたい、から。頑張ります」
「はい、ゆっくりでいいので、俺達にも慣れてくれると嬉しいです」
なるべく柔らかく笑えるように意識してそう言うと、上目遣いでまだ一歩引いた感じではあったが、ルイルイさんはこくりと頷いた。
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