5-3 お約束は突然に
昨夜はなんだかんだ疲れていた所為か、風呂に入る前に寝てしまっていた。
完全に寝落ちって奴だな。まさか、精神的な疲れがここまで来ていたとは。
早く寝たからなのか、いつもよりも三十分も早く目が覚めてしまった。
今日はどうやらフィアは来ていないようで隣に姿はなかった。
俺は目を覚まそうと思い、両腕を上に伸ばしてぐぐぐっと伸びをした。
「んぅ! ふぅ……、せっかく早く起きれたんだし、今のうちにシャワーでも浴びるかな」
そう呟くとさっそく着替えを持って一階のバスルームへと向かう。
そしてガチャッとドアを開けた瞬間、何やら湯気が視界に入り込んだ。
同時に見える水色……。
「へ?」
「あ……何でフォレオが?」
そこにはちょうど下着を穿こうとした体勢のまま固まる少女。
フォレオの姿があった。
湯気が立ち込めていることからも分かる通り風呂上がりだったようで、その体はまだ湿っており、髪からは水が滴り落ちている。
湯気と言ってもそれほど濃いものではないので、自然と視線が下から上へと流れる。
色の白い瑞々しい柔らかさを感じさせる肌に、想像よりもふくよかな胸。
さらには見開かれた左目の下にある泣きぼくろの所為もあって思ったよりも艶めかしい感じに見える。
フォレオは少々背が低めだし、普段の格好が格好なのでそう見えるだけかと思っていたのだが、こうして見るとなんだかんだでエロいな……。
そんなことを考えていると、五秒ほどは固まっていたフォレオがバッと下着を勢いよく穿くと、片手で胸元を隠しながら思いっ切り腕を振りかぶった。
おぉ、無意識に身体強化を使ってしまった所為でフォレオの動きがよく見える。
押さえつつもわずかに揺れてしまう胸にやはり目が行って……いやいや、さすがにそれはまずいだろ。
あ、駄目だ。反射的に躱そうとしてしまう。
これを躱してしまうと絶対に怒りが何割か増しになる。
そう判断した俺は何とか体の動きを止め、自ら平手打ちに当たりに行く。
「いつまで……見てるんですか!」
「悪、いっ!」
「……」
「……あれ? 痛くない」
可愛らしくぺちんという音が響くが、思っていたよりも弱い衝撃に思わず口からそんな言葉が……。
あ、フォレオの奴……指輪を外して……。
思わず再び下着以外に一糸纏わぬ姿となったフォレオに視線を戻してしまう。
するとプルプルと真っ赤になって震えるフォレオの姿が……。
「あー、それはどっちの……」
「とっとと、出てって下さい!」
「おぶっ!」
突如風呂の扉を押し開けて迫るお湯に押し流され、俺は壁に叩きつけられた。そして、勢いよくドアが閉められる。
「いてて……しまったな。あまりの突然の事態にガン見してしまった……。あー、対応間違えたな……」
この家に越してきて約一ヶ月。
フィアとシルフェと暮らしてきたのに、ただの一度もなかった風呂でのラッキースケベ展開。
起きたばかりで頭が回りきっていなかったこともあって迅速な行動がとれなかった。
というか……。
「何でうちにフォレオがいるんだ?」
いつも夜にはホーリークレイドルに帰っていたし、こっちに来るにしてももう少し時間が遅かったはず……。
そんなことを考えているとバンッとドアが勢いよく開いた。
恥ずかしさと怒りが混じったような、真っ赤になった顔のフォレオがずんずんとこっちに歩いてくる。
それと同時に周りを濡らしていた水がみるみるうちに集まっていき空中に大きな水球を作り出した。
「……」
「あー、えっと……悪い。いるとは思ってなくて、その、悪気はなくてだな」
「……フィアにも、こういうことをしているのですか?」
「へ? いや、今のが初めてだったっていうのも対応が遅れた理由というか」
「初めて……」
なんだかよく分からないが、恥ずかしさ成分をそのままに怒り成分がフォレオの表情から抜けていく。
どうやら初犯だったのが功を奏したみたいだ。
じゃあ今後やらないように気を付けることを誓えば今回は許してもらえるかもしれないな。
そう判断すると、俺はそのまま流れるように土下座のポーズをとった。
いきなりやると軽く見られるかもしれないが、わざとでないにしろ覗きは本気で謝るべきものだ。見られた側からしたら故意かどうかなんて関係ないからな。
「悪かった。今後二度とないように心がける。この通りだ」
「んな……。わ、分かりましたから。男がそう易々と頭を下げるものじゃないですよ。ただ、故意でなく覗きをしたのなら、普通はまじまじと見るのではなく顔を背けるものですよ。それくらいは心得ておいて下さい」
フォレオの言葉に顔を上げると、フォレオは自身の体を抱くようにして立ち、顔を赤くしたままジト目でこちらを見降ろしていた。
うん、やっぱり恥じらいっていいな。
……っと煩悩は一旦置いておいて、フォレオの言う通りだよな。俺もそう思う。
しかし、自然と目線が肌に吸い寄せられるのだ。
フォレオもなんだかんだで美少女だからな。
とはいえ、俺も反省した。俺は一度犯した間違いは可能な限り気を付けるタイプだ。
「あぁ、もちろんだ」
「……雷人がこんなスケベだとは意外でした。今回だけ、今回だけは許してあげます」
「恩に着るよ」
「……ちなみに、どうでした?」
「……は?」
恥ずかしそうに、もじもじと尋ねてくるフォレオ。
どうでしたって、何が? 綺麗だったよとでも言えばいいのか?
いや待て、どういう意図で聞いてるのかが分からない。
ここで地雷を踏むとせっかく許してもらったのが水の泡に……。
「……あれ? 二人ともそんなところで何してるのよ?」
「あ……」
二次災害が確定した瞬間であった。
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今回は珍しくラッキースケベ展開でした。
お風呂に入っているのに気付かずうっかりというのは定番の展開ですね。
それとセットで上手い具合に見えてはまずい部分を隠す湯気もありますが、今回は着替え中という事で湯気は薄め。色々と危ないシーンですが、きっと上手い具合にまずい部分は見えないんですね。(笑)




