4-59 舞台の裏で集いしは
「あはは、種まきっていうのもなんだかんだで楽しいねぇ」
豪華な料理が載った円形のテーブルを囲んで座る七人の影、その内の一人が楽しそうに笑う。
それを見て呆れたようにはてなポーズをとる男。
それは藤色で短めの髪の落ち着いた雰囲気の青年だった。
その青年の背後では非常に特徴的なサソリのような尻尾が揺れていた。
「何と言うか、随分と面倒臭い関わり方をしているよね。わざわざ火種を見つけては誘導してるなんて、僕みたいに自分の手が掛かった者に問題を起こさせたほうが楽じゃない?」
男の言葉にベールを被って聖女のような恰好をした少女が一瞬で背後に回り込み、男の頭に銃を突きつける。
「パルマ、あなたはもう少し物分かりがいい人だと思っていましたが、もしやリリアと同類ですか?」
それでも、さほど動じた様子もなくパルマと呼ばれた男は両手を上げるだけで飄々と答える。
「おぉ、怖い怖い。ナクスィアは本当に見た目とのギャップが凄いねぇ。それ、やっぱりただのコスプレなんでしょ?」
「こういう恰好をしていると相手からの心象がよくなりますから、それに隠れ蓑にもなります。要するに、ただの仕事着です」
「ははは、台無しだねぇ。ところでスフォル? こっちはまだ掛かりそうだけど、一応は順調に進んでるよ。本音を言えば、このままただ研究を続けていたいところなんだけど、君との契約は重要だからね。タイミングを見計らって声を掛けてくれれば、ちゃんと働くよ」
「そう? パルマは仕事が早いね。まぁ、しばらくはゆっくり研究しててよ。出番はまだ先になると思うからね。ちなみに、他の二人の方はどうなってるのかな?」
スフォルが視線を向けると二人のうちの一人、幾何学模様の輪っかを頭の上に浮かばせた黒髪の少年がにやりと笑った。
「あぁ、問題ねぇよ。火は燻らせてるからな。いつでも始められるぜ。けど、分かってるんだろうな? 約束は守らねぇとその首がどうなっても知らねぇぜ」
「ふふ、そんな顔をしても怖くないよ」
「あぁ!? てめぇ、ふざけてんのか!」
怒った黒髪の少年が立ち上がった瞬間、銃声が響く。
額に青筋を浮かべた少年の目線が銃声が聞こえた方向に向けられた。
「……本当に、馬鹿ばかりで困ってしまいます。スフォル様への態度がなっていません。立場を弁えなさい」
「……ぶっ殺す! なっ!」
椅子を派手に倒しながらナクスィアに飛び掛かる少年。
しかし、その半ばで少年は二人の少女に捕まり地面に組み伏せられた。
「こいつら、竜神族か! どこから出やがった!」
「抵抗は無駄」
「大人しくして下さい」
それぞれ白銀と金色の髪をした二人の少女。
その頭には角が生えていて、翼と尻尾もあった。
しかし、竜人族とは異なり、その大半は人間のような見た目をしていた。
「くそっ、てめーの仕業だな! オーディン!」
少年は二人の竜神族の少女に取り押さえられたまま、自身を見下ろす白銀の髪で眼帯を着けた男を睨み付けた。
「騒がしくしたのだ。当然の措置だろう? それにしても原初の天使族と聞いていたのだがな。まさかフギンとムニンの拘束も解けないとは。それに短気が過ぎる。まるで子供だなルシフェルよ。その勇名は名ばかりなのか?」
「……分かったよ。見せてやろうじゃねぇか。俺様の力をな!」
「この力は!」
「お、押さえられません!」
「おらああああああぁぁ!!」
「あうっ!」
「きゃっ!」
勢いよく起き上がったルシフェルにフギンとムニンが弾き飛ばされる。
そして、そのままオーディンに飛び掛かろうとしたところでルシフェルはその動きを止めた。
「ぐ、ぎぎ、体が動かねぇ……!」
「そこまでだよ。これ以上はせっかくナクスィアが作った料理が台無しになりそうだからね。僕は寛大だけど、それにも限度があるよ」
「ぐぎ、だあああ! 分かったよ! 分かったから止めろ!」
「よし、それじゃあ大人しくね」
「……くそっ」
拘束を解かれたスフォルを一瞥すると不満そうにしながらもルシフェルは椅子にドカッと腰かけた。
「それじゃあ最後に、オーディンの方はどうかな?」
「あぁ、こちらはまだしばらく掛かりそうだ。順番は最後にしてもらえるだろうか?」
「そっかそっか、パルマとルシフェルは順調みたいだし多分大丈夫だよ」
「はっ、偉そうにしといて仕事は出来ねぇんだな」
「助かる。配慮に感謝しよう」
「無視すんじゃねぇ!」
ルシフェルはオーディンを挑発するが、オーディンはまるで相手にしていない。その態度にルシフェルは苛立っているようだが、さっきの今なので飛び掛かりはしないみたいだった。
「さて、それはそれとして、今回の仕込みがもうすぐクライマックスだよ。これを面白くするために、ある程度は僕の方からも人員を割こうと思うんだけど、立候補者はいるかな?」
「はいはーい! 何よ。ようやくなわけ? ずーっと待ってたんだから、これは誰にも譲らないわ!」
「私は出た方がいいのかしら?」
「リリアに任せるなんて不安の一言です。私も行かせて頂きます」
怠そうにして黙っていたのが一転、前のめりになる蝙蝠の獣人の女性。そして、デザートのプリンをぱくつきながら一応といった感じで尋ねる少女に、当然といった表情の聖女風の少女。
「僕はパスかなぁ。っていうか、僕は戦闘は不得手だしねぇ」
「私はまだ準備がある。遠慮しておこう」
「はっ、必要以上に働いてやる義理はねぇな。どうしてもやらせたいんだったら命令しやがれ」
一方、藤色の青年は面倒臭そうに手をひらひらと振り、眼帯の男は粛々と答えた。そして、黒髪の少年は敵意むき出しの目で拒絶した。
それらを見渡した黒い少年は悩む様子もなく言った。
「あー、トゥーナはそろそろ仕事してもらうからこれはパスね。じゃあ、リリアとナクスィアにお願いしようかな。作戦の実行自体は二週間くらい先らしいけど、もっと前の段階で向こうに送るからね。調整とかは自分達で頑張って、面白くなるのを期待してるよ」
「はい。この命に代えてもやり遂げます」
「はいはい。面白くなるかは相手次第だけど、久しぶりに暴れさせてもらうとするわ」
「うんうん。ナクスィアは後のこともあるから死なないように、リリアは相手を殺さない程度にね。それじゃあ、今回は解散で」
スフォルの言葉で各々が席を離れて歩いていく。
そんな中、おいしそうな湯気を上げる肉を齧り、飲み込んだ少年は笑った。
「まだまだ、面白くしないとね。これは、ゲームなんだから」
どうも、Prasisです。
SSC ホーリークレイドル ‐第四章~スクールパーティー
これにて終了です。
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
さて、第四章はいかがだったでしょうか?
前半は椚祭を中心としたバトルのない話でした。
まぁ、対決と言う意味ではバトルもあったわけですが、面白いと思ってもらえていれば幸いです。
後半のセルビス、バルザックの話。
ちょっと地の文がうるさい話になってしまいましたね。
読みづらかった方、私の力量不足です。すみません。
とはいえ、今回の章は書きたいと思っていたことが満載の章となりました。
これまであやふやだった。雷人の戦う理由が明確となり、恋をはっきりと自覚したのは大きな一歩です。
ついでに、ようやく少年が雷人と接触しました。
彼は一体何者なのか。
少年の陣営もちょっとだけ顔出し出来ましたね。
設定を考えていると楽しくなってきます。
さて、続く第五章のサブタイトルは ~クレイドルガーディアンズ~
実力不足を実感した雷人たちの修業回になります。
これまであまり出番のなかったS級社員達が登場しますので、乞うご期待!
日常描写も幾つか入れていきますので、これまでとは少し違った雰囲気になるかも?
さて、それでは今回はこれで筆を置かせて頂きます。
今回も長々と失礼しました。
さて、申し訳ないのですが第五章に入る前にしばらく休載を挟みたいと思います。
ここまでは大丈夫なはずだったのですが、作者の体調不良やその他にも色々とありまして、執筆スケジュールが大幅に遅れてしまいました。
五章の執筆は終盤に差し掛かってますので、なるべく早く投稿再開出来るように頑張ります。
励みになるので、これからも応援して頂けると嬉しいです。
それと、最近体調崩す人が増えて来てますので、皆様もお気をつけ下さいね。
それでは、これからも
【 SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜 】
をどうぞよろしくお願いします!




