1-22 スキルリング
席を離れたウルガスさんは幾つかの指輪を持って戻って来た。
それを机の上に広げると、そのうちの一つを摘まんで全員に見せる。
「よし、説明してやろう。俺の開発したこの指輪、スキルリングはな、いわゆる外付けの記憶装置だ。イメージとしてはこの指輪それぞれに能力が保存されてて、お前らと回路を繋ぐことで使えるようになる感じだな。登録さえしてしまえば、これを着けた状態でお前らがいつもしてるように能力を使おうとするだけで能力を使用出来る」
空は目を輝かせてウルガスさんの話を聞いている。
戦う手段がないことを気にしていたみたいだったからな。それも当然か。
「つまりこれを着ければ僕も氷とか炎を出せるんだよね? どれがいいかなぁ」
空は机の上の指輪をあれこれ眺めて子供のようにはしゃいでいるが、ウルガスさんは少し渋い顔をする。
「いや、説明は最後まで聞くもんだ。実のところな。着ければ何でも使えるってわけでもない。人によって相性もあれば、一度に使える数も登録出来る数も違う。そもそも作るのに調整とかの手間が結構掛かるからな。指輪の数自体もそう多くはないんだよ」
「つまり、ホイホイと渡せる物じゃないって事ですか?」
「物によるが……まぁ、そういう事だな。相性については調べてみないと分からないが、とりあえず試すのに打ってつけなのが三つある。この三つの能力は凄く便利なんでな。なるべく多くの人に合うように調整して量産化してあるんだ」
ウルガスさんはそう言って三つの指輪を見せると自分の指に嵌めて見せる。
「一つ目は身体能力強化。慣れる必要があるが、使えない奴は大体着けてる。体の耐久性も上がるし、荒事を担当するなら必須レベルだ。効果のほどは……そうだな。……これでいいか。よいしょっと」
ウルガスさんはきょろきょろと辺りを見渡すと近くにあった重そうな機械を片手で持ち上げた。
「おおー!」
雷人と空は歓声を上げ、手を叩いた。
ウルガスさんも得意気にニカっと笑う。
「運動不足のただのおっさんでもこれだ。凄いだろ? お次はこれだ。これも凄いぞー、そらっ」
そう言うと、ウルガスさんの体がふわーっと浮かび上がった。
それを見上げた俺達二人は同時に叫ぶ。
「うっ、浮いてる?」
風を感じないので原理はさっぱりだが、能力などそんなものだ。これは本当に凄い!
「室内だしこんなもんにしとくが、練習すれば高速で飛ぶ事も出来る。高い所への攻撃手段に欠ける奴は是非とも欲しい能力だろう?」
確かに便利だ。この二つがあれば戦闘に使える能力が無くても、最低限は戦う事が出来るだろう。
雷人はごくりと息を呑んだ。
「さ、最後の一つは……」
「ラストはこいつだ!」
ウルガスさんが手を翳すとその先の空間が紫っぽい色に光り、ゆらゆらと輪郭の定まらない円状の何かが出現した。
「これは何なんだろう? はっ! まさか、ワープホールとか!?」
空の言葉にフィアが首を振る。
「違うわ。これは異次元空間を切り取って固定化してるの。異空間収納の能力よ。あなた達に分かりやすく言うなら、虎えもんの異次元ポケットね」
「異次元ポケット!?」
雷人と空は驚愕の声を上げ、手をわきわきと握ったり開いたりする。
「これがかの有名な異次元ポケット……まさか実在していたとは! ……いやポケットではないけども。はっ、まさか戦った時にフィアがいつの間にか刀を持っていたのは!」
フィアが笑みを浮かべながら空間を出現させて刀を取り出す。
「そういう事。慣れれば気付かれないレベルの速さで取り出せるわ。私と戦った雷人ならこれの有用性は分かるわよね?」
その言葉に雷人は深く首肯する。
「ああ、武器の予備が幾つもあれば、壊れる事を心配する必要もなくなるから強気にでられるし、普通なら出来ない戦い方も出来るよな。例えば、あの時フィアが刀を投げたみたいに」
「うん、そういうことね」
フィアは満足気に笑う。
武器を入れておけるだけでなく、手持ちの荷物を入れておけるだけでも充分大きいだろう。
雷人は改めてウルガスさんを見る。
「ん? 欲しいって顔してるな。仮入社したんなら登録は出来るはずだ。手続きをしてやろう。指輪を使いたかったら、事前に登録しないと使えないからな。とりあえずはそこんとこを頭に入れとけよ。勝手に持って行っても使えないからな」
「盗難防止対策ですか? 分かりました」
「いや、指輪との間にパスを繋がないと作動しないっつー単純な仕様なんだが。まぁ細かい事はいいか。他に使いたい物があるならまた相談してくれ。オペレーターに言えばリストを見せてくれるだろうからな。ただ、相性ってもんがあるから使えなくても凹むなよ?」
ぼさぼさ頭にだらしなさそうな恰好なのに、こんな物が作れるなんて……人は見かけによらないものだなぁ。
雷人はしみじみとそう思った。




