表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
フロラシオンデイズ 第四章~スクールフェスティバル~
238/445

4-55 こびりついた感触

 今回の戦いは皆ボロボロだった。


 唯は生命力(アニマ)を使い果たして動けなくなっていたし、空もよく分からない力で吹っ飛ばされて気絶(きぜつ)していた。


 情けないことに俺も(こし)が抜けてフォレオ達が来るまで動けなかったし、フィアとシルフェ、フォレオもふらふらだった。


 ここまでしてやられたのはジェルドーの時以来だろうか?

 とはいえ、今回はセルビスを捕まえることが出来た。これは一つの収穫(しゅうかく)だ。


 そんなセルビスはと言うと目を()ますなり……。


「少女よ。名前は何というのだ? 元々気に入ってはいたのだが、我を倒した貴殿(きでん)なら(われ)求婚(きゅうこん)するに不足(ふそく)ない。いや、違うな。我は貴殿(きでん)()れたのだ。どうだろうか? 一度考えてはくれないか?」


「……何のつもりです? いきなり貴殿(きでん)とか呼んで気持ち悪いのです。それにそもそも、あなたは犯罪者なんですよ? 身の程を(わきま)えて下さい。それに! うちはリザードマンと付き合うような趣味(しゅみ)はありませんので!」


「そうか。では何ならよいのだ?」


「な、何って、それは! ……まぁ? 少なくともフィアや雷人達のような人間の見た目の方が好みです。爬虫類(はちゅうるい)はNGなのですよ」


「なるほど、分かった。ではまずは刑期(けいき)(まっと)うして、犯罪者から足を洗うところからだな。それが終わったら、またアプローチをさせてもらうとしよう」


「……分かってないですよね? だから! そもそもNGなんですってば!」


 何というか、フォレオらしからぬ(おこ)りっぷりだ。

 こんなフォレオは初めて見た。


 何があったのかは知らないが、フォレオはこの男に(いた)く気に入られたらしい。

 あそこまで言われて引かないとは、セルビスとかいうあいつ、なかなかの強者(つわもの)だな。


 しかし、フィアとシルフェもきょとんとしているな。

 あっちにいたはずの二人が何で分からないって顔をしているんだ?


 まぁ何にしても、とりあえず今回の件はこれで一件落着(いっけんらくちゃく)となった。新たに発生した問題を残して……。


 セルビスを宇宙警察(ポリヴエル)に引き渡した後、俺は皆に少し一人になりたいと(つげ)げて散歩に出た。


 目的もなくただ歩いていると、海辺(うみべ)に出た。

 ラグーンシティは人口の島なので浜辺(はまべ)などほとんどないのだが、一部だけ意図的(いとてき)に作られた浜辺(はまべ)が存在する。


 その維持(いじ)には結構な手間が掛かっているらしいが、あと一月ほどもすればシーズン()只中(ただなか)なのでさぞや(もう)けが出ることだろう。


 今はもう()が落ちてしまっているため、ほとんど真っ暗だ。

 わずかな月明(つきあ)かりに波の打つ音が響き、真っ暗でもそれなりの風情(ふぜい)がある。


 周りを見渡すと数人の学生が少し離れた所で花火をしていた。

 綺麗(きれい)な光景だったが、今の俺の心は少しも動かなかった。


 (わず)かな月明かりを反射するさざ波を見ていると、自分がその中に溶けて消えてしまうような錯覚(さっかく)(おちい)る。


 実際、消えてしまえたら幾分(いくぶん)(らく)だろうか?

 そんな事を考えていると、後ろから砂を踏む音が聞こえた。


「雷人」


 フィアの声だ。俺は無性(むしょう)苛立(いらだ)った。

 そして、それを隠すことが出来ずに全く悪くもないフィアに声をぶつけた。


「俺は一人になりたいって言ったよな?」


「私は一人にするとは言ってないわ」


「……っ、そんな屁理屈(へりくつ)を言いに来たのか?」


 フィアは(だま)ったまま、後ろに立っていた。

 若干(じゃっかん)の冷たい風と静寂(せいじゃく)が空間を()める。


 遠くで花火をしている音とさざ波の音、それと二人の息遣(いきづか)いだけが耳に届く。沈黙に耐えられなくなった俺は(こぶし)(にぎ)りしめた。


「……何で黙ってるんだよ」


 そう言った瞬間、後ろからフィアが抱きついて来た。


 背中から腕が回され、腹をフィアの手が()でる。

 息遣(いきづか)いがより大きく聞こえ、フィアの()く息でじんわりと背中が熱くなる。


「……何のつもりだよ」


「ちょっと、雷人に伝えようと思ったことがあってね。雷人、自分の事を()めてる?」


「……っ、当たり前だろ!? 俺は! 俺は……、初めて人を殺したんだ。前は、誰かを守るためなら、人を殺すことだって普通に出来ると思ってた。俺はそれが出来ると思ってた! それが正義なら……出来ると思ってたんだ」


「人を傷つけることが(こわ)くなった?」


「……あぁ、そうだよ。肉を切るあの感触……あれが腕から離れないんだ! 忘れられないんだ! 命が消えるあの瞬間が……忘れられないんだよ」


「分かるわ。私も、人を殺した事はあるから」


「……フィアも、あるのか? じゃあ、分かるだろ? このどうしようもない気持ちが……。この気持ちはどうすれば消えるんだ? 教えてくれよ! ……教えてくれよ……なぁ」


 話していると意図(いと)せず涙が出て来る。

 手で顔を(おお)って隠すが、体の震えが止まらない。


 いつの間にか、花火の音は消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ