4-54 フォレオの切り札
体勢を崩すように受け流したというのに、そこから流れるようにして放たれた裏拳。
最初から狙っていなければ出来ることではないです!
まさか、本命はあの奥義ではなくこの裏拳ですか!?
「波動終!」
「ウォータープリズン!」
瞬間、爆発的に大きくなった水球と裏拳がぶつかる。
水球は内側から弾け飛び、その衝撃にフォレオの体勢が崩れる。それを見て、今度はセルビスが笑みを浮かべた。
「まさか我が拳法の奥義を防ぐとは、見事である。だが、ここまでだ!」
裏拳を打ち終わり、開いた体勢のままに繰り出される掌打。
流石にここまでは想定外だったのか、とても洗練された動きではない。
だが、それでも必殺の威力を秘めた一撃が、もはや躱すことも出来ないフォレオに迫る。しかし、この状況でもフォレオは笑っていた。
「ふふ、獲りましたよ」
「な!?」
一度は霧散した水が瞬時に再び集まり、セルビスの顔全体を覆う。
驚いたセルビスの動きが鈍り、放たれた掌打は薙刀によって地面に導かれ、そのエネルギーを中規模のクレーターへと変えた。
その衝撃には驚かされるが、水の制御は怠らない。
驚いたセルビスの口が少し開いたその瞬間に、一気に水を体内へと流し込む。
「ごぼっ! がぼっ! ぼっ!!」
瞬間、セルビスの口元が爆ぜた。
これまでのような波動ではない。炎が、水を蒸発させる。
「あ、危なかったであるな。だが、所詮は水。我は竜人族である。バルザックのような能力はなくとも、炎を吐くことは出来るのでな」
勝ち誇ったような顔でこちらを見るセルビスに対して、フォレオは不敵な笑みを浮かべた。それを不思議そうにセルビスが見つめる。
「……何がおかしい?」
「何って、うちの切り札を防いだ気になっていることですよ。うちの切り札は、正確にはこの薙刀術の事ではありません」
「何を……」
突然言葉を止めたセルビスが喉に手を当てる。
驚愕の表情で口をパクパクとさせる。
喋ることが出来ないセルビスが言いたいことを読み取ったフォレオは親切にも笑顔で説明した。
「あなたの炎で確かに水は無くなったように見えますが、蒸発しても消えたわけじゃありません。水蒸気はそこにあります。そして、異星人であろうとトカゲであろうと、生物である以上はあなたも空気を吸わないことには生きられません。知っていますか? 水は生物が生きるのに必要ですが、水は生物を簡単に殺しもするんですよ」
「……!」
無理に炎を吐こうとしたのか、セルビスの口元が光る。
しかし、それを見てもフォレオが慌てることはない。
「あなた程の実力者の体内に水を入れるには、接近して緻密な制御をする必要がありましたから苦労はしましたが。入ってしまえばこっちのものなのですよ。さて、それでは終幕としましょうか」
「……!?」
「うちの仲間を危険に晒した報い、しかと受けるのですよ」
次の瞬間、突如として全身が膨れあがったセルビスは、そのまま意識を失い崩れ落ちるように倒れ込んだ。
フォレオは倒れたセルビスに油断なく近付くと、その腕を後ろに回して手錠を掛けた。
あの波動とかいうのは能力ではないとか言っていましたが、発生の大本が能力と同じであれば、これでもうこいつは戦うことが出来ないはずです。
もし出来るのならばこいつを拘束する手段はありません。その時は……。
「ふぅ、相性のいい相手でよかったです。ふふ、うちもなかなか捨てたものではないですね」
ようやく一息吐いたフォレオは倒れているフィアや瓦礫に埋もれているらしきシルフェの元へと覚束ない足取りでゆらゆらと向かうのであった。
強敵、セルビスとの戦いが遂に決着しました!
一撃当てるだけで体内から攻撃して敵を倒してしまう上に、武器からも波動を伝播させて動きを阻害してくる強敵でした(武器を持ってないので描写をする機会はありませんでしたが……)。
フォレオは武器を水で覆うことで波動の伝播を防ぎ、徹底的に避け続けたことで何とか対処していますが、本人の言うように相性が良かっただけです。
もし一撃もらっていればフォレオと言えど負けは必定でしたね。
いやぁ、強かった。




