4-52 正義とは、自身の行動を肯定するもの2
「どういう意味だ……」
「君の考える正義っていうのは強者に脅かされてる弱者を助けることでしょ? それをする自分に酔っているわけだ。でもさ、知ってたかい? そこに倒れてる彼。彼は自分達の子孫を残すために君達を襲ったんだよ」
「子孫を残すため? 何だよそれ、どういうことだよ」
「彼らの事情を詳しく話す気はないよ。今重要なのは、彼が自分の遺伝子を後世に残すために、他者を傷つける選択を惜しまなかったってことだよ。それは彼の正義だったって、そう言ってもいいんじゃないかな? 自分の遺伝子を残そうとするなんて生物である以上当たり前のことで、自然界では当たり前に行われてることだよね」
「……」
仮にその理由が本当だったとして、こいつは何が言いたい? 何のためにこんな話をしている?
まさか、俺の戦う理由を否定して戦意を奪おうとしているのか?
どうしてそんなまわりくどいことを……。
何にしても、天衣さんはこいつの話を聞いて操られている。
そうならないようにだけは気を付けなければ。
「子孫を残すためなら他者をないがしろにするのだって、生きるために動物を食べることと何も変わらないよね? 彼は自然界のそれで考えれば、何もおかしくない正義を掲げていたんだ。それを君が悪だと考えるのは、それが君のいる環境に悪影響を及ぼしたからに過ぎないよね」
「……つまり、バルザック達は悪くないってことが言いたいのか?」
「悪とか正義って何だろうね? 犯罪ってやつは集団のルールに反しているかどうかでしかないでしょ? 判断基準がそれなら、彼等は確かに悪だね。集団に悪影響を与えるんだから。でも、さっき言ったように生物の本質的に言えば彼は別に悪じゃない。なにせ自然界ではそれが暗黙のルールなんだからね。つまり、僕から言えばどちらにも正義があってどちらも悪じゃない。ただ両方の正義がぶつかった結果として争いが生まれただけなんだよ。じゃあさ……ヒーローって何だろうね? 本当にそんなものになりたいの?」
多分、こいつの言う通りだ。
俺はきっと、誰かを助ける自分に酔っているに過ぎない。
だがその良し悪しの価値観が、国という名前の集団による仲間意識が生んだ勝手なものであったとしても、それが人のためになっているのは確かじゃないか。
そしてなにより、それはこいつにとやかく言われることでもない。
「結局、何が言いたいんだ? 俺が正義の味方面して戦ってるのが気に食わないのか?」
「んー、まぁ、簡潔に言うとね。君の正義は何かな?」
「俺の、正義?」
それがこいつの聞きたいことなのか?
俺の正義、そんなのこいつ自身がさっきから言っているじゃないか。
邦桜の皆を脅威から守ることだ。
だが、恐らくこいつはそれが俺の本心だとは思っていない。
完全に平行線だ。この質問に意味があるとはとても思えない。
そんな考えが顔に出ていたのか、少年が目を細めた。
「うん。さっきも言ったけど、戦いはお互いの正義のぶつけ合いだ。気に入らないから殺す。可哀そうだから助ける。理由は何でもいいけど、力をくれるのはいつだって譲れない自分の正義だよ。なんて言ったって、人は自分の行動を肯定したいんだからね。だから、自分の戦う理由。ぶつける正義を明確にしておいてよ。その方が僕が楽しめるからさ」
「……楽しめる? お前は、天衣さんにしたみたいに、人をゲームのコマのように操って楽しんでるのか? そのために、俺にそんなことを言いに来たのか?」
だとすれば、こいつがまた何かをやらかすのは間違いない。
ここで、止めなければいけないんじゃないのか?
「そうそう、相手が強くないとゲームは楽しくないでしょ?」
俺の価値観からすれば、空を救うためだったとはいえバルザックを殺した俺は悪だ。
だが、こいつは他人を操り、ゲームと考えて人の命をベットする。
自身の命を懸けることもなく、ただのコマの様に。
間違いなく、こいつは俺以上の悪だ。野放しにしてはいけない。
その考えが、ようやく俺の足に力をくれる。立ち上がることが出来る。
立ち上がった俺を見た少年は笑った。
そして、何かを担ぎ上げた。あれは……。
「は!?」
バルザックの死体!?
いつの間にあっちに移動したんだ!?
話していたとはいえ、気付かれることもなく回収された。
空は気絶しているようだが、吹っ飛ばされたまま倒れている。
人質にするなら空を捕まえるはずだ。
一体何のためにバルザックを?
頭の中を考えは巡るが、なぜか体が動かない。
それはきっと、実力の差を無意識のうちに感じ取ってしまっているのだ。
勝てない。殺される。やめておけ。
様々な否定の言葉が頭に浮かぶ。
体が、震えている。
生物としての防衛本能が警告を発しているかのようだった。
少年はそれを見て満足そうに笑う。
しかし、その瞳は闇よりも深く黒い。気味の悪い笑みだった。
「それじゃあ、頑張ってね。今代の守り人君」
「ま、待てっ!」
空間転移をしたのか、一瞬にして姿を消す少年。
その光景に待てと言いながらも体は動かず、それどころか内心ほっとしていた。
そして、笑う膝がついに耐え切れなくなり、俺は地面に膝をついたのだった。
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