4-51 正義とは、自身の行動を肯定するもの1
バルザックの死を確認して数分。気持ちの整理がつかない雷人とそれを励ます空。
しかし、そう簡単には立ち直ることが出来なかった。
「雷人は悪くないよ。それだけは僕が断言するからさ。お願いだから元気出してよ」
「あぁ、そうだ。遅かれ早かれ。いつかは越えなきゃいけない壁だったはずだ。だから……そう。まだ覚悟が出来てなかった、ただそれだけだ。これを受け入れられないと、この先やっていけない。……でもさ、人を助けることが目標なのに、誰かを殺すことを受け入れないといけないのか? 俺は……」
そんな、何が正解なのか分からない。そもそも正解があるのかすら分からない問いを繰り返す。
そんな中、突然大きな音が響いた。
顔を上げると、周囲では土煙が舞い上がっていた。
土のドームを突き破って何かが落ちてきた?
その事態は奇しくもループのような思考の渦から俺を引っ張り上げた。
そして、見つめる先。月明かりに照らされたそこには自分達と同じか、少し下くらいの年齢に見える少年が立っていた。黒髪黒目でこれといった特徴のない少年だ。
どこか中性的な顔立ちで、髪の長さは長くないし、短くもない。
服も普通のズボンとジャケットを羽織っているくらいで、ちょっと大人っぽい服を着てみた中高生といった印象だ。
だが、ここまで普通でも場所が場所だ。
この一点だけでもこいつが普通ではないのは明らかだ。
俺はすぐさま警戒しながら話しかけた。
万が一だが学生だといけないので、念のためバルザックが自分の体で隠れるように位置取る。
「誰だ? ここは一般人の立ち入りは禁止の場所だぞ」
「んー? あぁそっか。いやぁごめんね。僕、実は一般人じゃないんだ」
その言葉に俺と空は身構えた。
そういえば黒髪黒目の少年……もしかしてこいつが天衣さんが言っていた奴か?
……言われてみれば、その目は黒く濁っているようで、見ていると吸い込まれそうな感覚に襲われる。
「一般人じゃないなら、どこの誰なんだよ?」
「実はさ。僕は君達のことを見てたんだ。それでふと思ったんだけど……君って一体何のために戦ってるんだい?」
こいつ……こっちの質問は無視するつもりか?
まぁ、情報を簡単に吐くわけもないか。
それで? 何のために戦ってるのかだって?
「どうしてそんなことを聞く?」
「君はヒーローになりたいんだって? 面白いことを言うよね」
……あれだな。ここまで露骨にこっちの質問を無視されるとイラっと来るな。
つーか知ってるんじゃねぇか! だったら聞くんじゃねぇ!
「ヒーローになりたかったらなんだって言うんだ? 自分を止めてみろとか、そういう話か?」
「……そうだね。それも悪くないけど、今言いたいのは……君って本当にヒーローなんかになりたいの? ってことなんだよね」
うおっ!? 質問に答えやがった。
つまりあれか、自分の話したい話題以外は認めないぞと、そういうことか。
わざわざ前に出て来てくれたんだから捕まえたいところだが、生憎と体がすでにボロボロだ。
この状況なら出来るだけ情報を手に入れて、今は帰ってもらうのが最善……だよな?
だったらまずは話を続かせないと話にならない。不本意だが、話に乗るか。
「ヒーローに憧れちゃいけないのかよ。皆を助けられるような人間になる。カッコよくていいだろ?」
「皆を助けたいなんて、君は本気で思っているのかい? だとすれば、君はとんだ聖人君子だね。でも……そこに倒れている彼はその皆には入れてもらえなかったんだ? 選民主義ってやつなのかな?」
「……」
目の前の少年に集中して若干忘れかけていた現実を叩きつけられ、俺は動揺した。それを見て空が叫んだ。
「黙って聞いてれば! ヒーローになるって目標の何がいけないのさ! ヒーローに何か恨みでもあるの!?」
「……君とは話してないんだ。ちょっと黙ってなよ」
「ぐぇ!」
「空!?」
瞬間、見えない何かに殴られたように空が吹っ飛ばされる。
指一本動かすことなく空を吹っ飛ばして見せた少年はひょうひょうとした様子で言う。
「あー、ごめんごめん。殺してないから安心してよ。それよりさ、ヒーローって正義を掲げて悪を倒す存在のことだよね?」
「……くそ、あぁそうだよ。それがどうしたんだよ」
「正義って何なんだろうね?」
空を一瞬にして戦闘不能にした不気味な少年はそんな事を口にしたのだった。




