4-49 過去を想えど、歩みは止まらず2
「我等の考えは正しかったのだ。愚かな父上よ……」
「その考えには賛同出来なかったでござるが、それでも肉親。せめて、安らかに眠るでござるよ」
墓でもなんでもない地ではあったが、弟は墓に見立てた石を地面に突きさし、父上の好きだった酒をそこに掛けた。
涙を堪えている様子の弟。一方でその訃報を聞いても我には特別大きな感慨はなく、やはりか、と思うだけであった。
竜人族は戦闘を好む種族であったため、昨日まで元気だった者が次の日に死んでいることはそれほど珍しくなかった。
肉親が死んでも悲しみを覚えないのは自分自身驚いたが、すぐにそんなものなのだろうと納得してしまった。
とはいえ、我は幼い頃から竜人族は優れた種族だと考えて生きて来た。
故に、自身の血族が途絶えてしまうということには、少なからず思うところがあった。
このまま傭兵として生き、弟とともに死ぬのも悪くはない。
だが、生きていくうえで何か目標は持っていた方が何かといいだろうと思った。
そこで弟と今後の方針について相談した。
「弟よ。我等はこれからどうするべきだと思う?」
「そうでござるな。もしかしたら、我等のように星を離れていた者がいるかもしれないでござる。その者を見つけ出して子を成すことが出来れば、竜人族にも希望が残るでござるよ! やはり、我等を最後に絶滅というのは嫌でござるからな」
我は竜人族という種族自体にはそれほど執着していなかったが、どうやら弟は種の保存を考えているらしかった。
この考えについてはそもそもの話として、問題があった。
例え戦争の後に生きていたとしても竜人族の悪評が広まっているために、命を狙われる危険がある。つまり殺されている可能性があったのだ。
我等ならば悪評を理由に絡んでくる程度のチンピラ風情であれば追い払うことが出来るが、他の生き残りはそうとは限らないからな。
だが、それについては一つの希望があった。
弟は不本意のようだったが、宇宙には我等によく似た姿のリザードマンという種族が存在するらしい。
つまり翼さえ隠してしまえば、我等が竜人族だと気付く者はいないのだ。
だから、全宇宙にその名が悪として知られていようと、生きている者がいる可能性は十分にあった。
それを踏まえて話し合った結果、傭兵として名を上げるのがいいだろうという結論になった。
宇宙は広い。例え生き残りが居ようとも、そう簡単に会えるわけもない。
であれば、宇宙全体で知られるくらいに有名になるしかない。そういう考えだった。
しかし、傭兵稼業を続けてしばらくした頃、我等は知ってしまった。
仕事で宇宙との繋がりを持つ星に幾つも行ったが、名の通った傭兵など極少数で一般人にはほとんど知られていなかったのだ。
それもそのはず、一般人からしたら傭兵なんて関わらないことの方が普通の存在だ。
それよりも、自分達を害しかねない凶悪な犯罪者の名前の方がよっぽど知られていた。
それまでは自分達が個として優れているのだから、傭兵として名を上げればいい。
父のようにわざわざ敵を作るなど愚か者のすることだと、そう思っていた。
しかし、傭兵として名を上げるには並大抵の傭兵ではこなせない依頼を幾つもこなす必要があることが分かってしまった。
時間を掛ければそれも出来るかもしれないが、そもそも、そんな難易度の依頼は滅多に出回らない。その上、他の有力な傭兵と依頼の取り合いになる。
仮に上手くいって広く名が知られるようになったとして、一般人が知るレベルになるのはその中の極一部だ。
そんな状態ではこちらの存在に気付いてもらうまでにどれだけの月日が掛かるか分かったものではない。
そもそもの話、生きている者がいるかも不明なのに、さらに博打のようなことに時間を掛けていられるほどの余裕は我等には無かった。
だから我は考えた。名を広めるのならば、一般人の味方となればいい。
犯罪者を打ち倒す、力を求める者として名を広めようと。
名案だと思った。しかし、名を広められそうな犯罪組織は強大で、かつ狡猾だった。
要するに、頭がどこにいるのかが分からなかったのだ。
我等は傭兵稼業の傍らで情報を集めたが、結局上手くいかず。約七年が経った頃には諦めの気持ちが出て来ていた。
そんな時、宇宙でも名の通ったビッグネームから仕事を持ち掛けられた。
その内容はフロラシオンと呼ばれる星との間に遺恨を残す可能性があり、宇宙警察まで敵にしてしまうような、そんな危険を伴うものであった。だが……。
「弟よ。我から一つ提案があるのだが……」
「何でござるか? と言っても、何となく予想はつくでござる」
「あぁ、そうだな。……我とともに愚か者になるつもりはないか?」
我は名を上げるために犯罪者となる事を決意した。
とはいえ、残忍な犯罪者として名を広めてしまえば、数少ない同胞とはいえ、連絡してくるはずもない。ではどうするのか。
「どうするのでござるか?」
「我に……考えがあるのだ。危険な賭けのようなものであるがな」
「何、拙者は馬鹿でござるからな。考えたところで正解など分からないでござる。であれば、拙者は兄者を信じるだけでござるよ」
ビッグネームの依頼をこなすということは名を広めることである。
当然犯罪者のレッテルを貼られることになるが、犯罪者として名が売れることは犯罪組織に近付けることも意味していた。
後は、大きな犯罪組織を潰して宇宙警察に受け渡せば、自身達の罪状取り消しの交渉も可能になるはずだ。
悪として名を売り、悪を狩る一般人の味方になる。
そう、それは目的に一歩近付くことを意味しているのだ。
八方塞がりだった我等の前、暗闇の中に見えた一筋の光。それを掴むべく、我等はその仕事を受けたのだ。
はい、というわけでセルビスとバルザックの過去話でした。
バルザックが死すともセルビスは目的を果たすために今後も尽力するのですが、この二人は目的が微妙に異なっていますので、厳密にはバルザックの意志は引き継がれてなかったりします。
でも、それはセルビスがバルザックを軽視していたことを意味しているわけではありませんよ?
セルビスのバルザックへの想いは自覚していないことですが……。




