4-46 仮初めの覚悟は崩れ、付けを清算するは今4
内側から何かが込み上げてくる感覚。
この感覚は、フィアが死んだと思い込んだあの時の感覚と同じだ。
体が熱い。だが、ダメだ。冷静さを欠くな。
あのくらいなら、まだ空なら回復出来る。
まだ、大丈夫。間に合うはずだ。
そうだろ……?
「バルザック! こっちを見ろ! 雷弾加速砲!」
足場を作り、全力で蹴る。
それだけでなく、雷弾を雷輪で加速させて飛ばし、バルザックの注意を引こうとする。
視線の先では、空が腹を裂かれたにも拘わらず、体を捻ってバルザックを殴ろうとしていた。
バカ、やめろ! 下がるんだ!
まずは傷を回復するんだよ! 攻撃なんて後でいいだろ!
「僕、だってぇ!」
「その覚悟、受け取ったでござるよ。二刀流、遮那王!」
空の拳を搔い潜り、雷弾加速砲も身を低くして躱したバルザックは、そのまま地面を蹴ると地面に平行な状態で竜巻の如く回転した。
刀が空気を切り裂く音が響く。渾身の一撃を躱された空は体勢が整い切っておらず、加えて巻き起こる暴風によろめいた。
そんな状態でバルザックの一撃を躱し切ることが出来るわけがなかった。
高速で回転する刃が空の体を何度も何度も切り裂いた。
「っぅああああああ!」
「空ぁ!」
雷人の目にはまるでスローモーションのように、膝から崩れ落ちる空の姿が見えた。
空が、切られた。
昔から一緒だった一番の親友。その、空が……。
冷静でいなければ、そんな考えを押しやって感情の波が広がっていく。
今すべきことはただ一つ、脅威を排除することだけだ!
「ああああああああぁぁぁ!!」
「ぬ? 破れかぶれの突進でござるか? よもや、拙者の拳法を攻略出来ていないのを忘れたわけではござらんな!?」
身体強化がいつも以上に働いているのか、バルザックの動きがさっきまでよりもゆっくりに見える。
拳法の攻略が出来てない? そんなの関係ないんだよ。
必要なんだ。今超えるしかないだろ。
全神経が研ぎ澄まされるような感覚。今なら体が思いのままに動く気がした。
一刻も早く目の前の脅威を排除して空を助けるんだ。動きを、最適化しろ!
「邪魔だ!」
「な!? 躱したでござるか!?」
刃が当たるすれすれ、ギリギリのところで躱しバルザックの懐に潜り込む。そして、地面を強く踏みしめた。
バルザックの顔が驚愕に染まる。焦りが目に見えて分かる。
右手を腰の位置に構える狼牙閃の構え。ここで、決める。
「ぬおおおおおおおおおお!」
瞬間、刀を戻すのが間に合わないと悟ったのか炎を吐き出すバルザック。
だが、今の俺には逃げるという選択肢はない。一刻も早く空を助けるべく、その一撃を止めることはない。
雷輪が体の各所に配置され、強力な引力が作用する。
狼牙閃を雷輪で強化した一撃。
フォレオとの戦闘で失敗した瞬閃雷果の実用版と言ってもいいその一撃を、俺は無意識のうちに繰り出した。
「あああああああああああああぁぁ!」
カナムを纏った属性刀はバルザックの放つ炎のブレスを掻き分け、進む。
裂かれた炎が体を焼くが、そんなのは気にせずに属性刀を振り切る。
一瞬、まさに一瞬だ。それで決着は着いた。
「ぬおぉ? この、感覚……は?」
遂に炎を吐き出すのをやめ、何が起きたのか分からないといった様子で後退るバルザック。そして、袈裟切り状に左肩から右腰に掛けての切り傷から血が溢れる。
「まさか……我が鱗を……切り裂いたのでござるか……ごぼっ!」
そして、バルザックはそのまま後ろにばたりと倒れた。
それと同時に土のドームの一部が崩壊し、月の光が差し込んだ。
光がバルザックを、雷人を照らす。
雷人はその様子を刀を振り切った姿勢のままで見ていた。




