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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
フロラシオンデイズ 第四章~スクールフェスティバル~
228/445

4-45 仮初めの覚悟は崩れ、付けを清算するは今3

「本当の切り札というのは、最後の最後まで隠しておくものなのでござるよ!」


 言葉と同時、不意(ふい)に地面が()れた。


 言いようのない(いや)な予感を感じ取った俺は空を(かか)えて飛ぼうと翼を形作った。そして、()ぶために(ひざ)を曲げる。


 するとその時、地面から高速で何かがせり上がった。

 それは壁だ。半径二十メートルほど離れて全周を囲う壁。


 空を飛べる俺に対しての切り札がただの壁なわけがない。つまりこれは……


「くそっ! (やつ)(ねら)いは!」


「もう遅いでござる!」


 全力で上に向かって飛ぶ。

 しかし、みるみるうちに影が差し、そして、天井(てんじょう)が閉じた。


 光が()め出され、真っ暗闇(くらやみ)が場を支配(しはい)する。

 俺はゆっくりと閉じた天井に近付くと、属性刀で切りつけた。


 しかし、返ってくるのはまるで金属でも切っているかのような感覚。

 全力でやれば切れないということはなさそうだが、切り開くのはなかなか難しいだろう。

 それに、どうやらこの壁は相当(あつ)い。そう、(よう)するにこれは……。


「土のドームに閉じ込められた……」


「……ねぇ、天井がどんどん下がってきてるよ!」


「まぁ、当然そうするよな」


 天井を調べるかのように触っていたらしい空の言葉に納得する。

 地面で戦うことを得意とする者が、空中で戦える状況を残すはずがない。


 一体(やつ)はどうするつもりだ?

 このまま俺達を生き()めにでもするつもりか?


 だが、このドームは奴を中心に作っていた。奴はまだこの中にいるはずだ。

 外に出なかったってことは俺達を自身の手で殺すつもりなのかもしれないな。


 もしそうだとすれば、迂闊(うかつ)にここから出ることも出来ない。

 ここから出ようと思ったら、(おそ)らく授雷砲(じゅらいほう)クラスの火力が必要になる。


 そんなものを()てば俺も唯みたいに一気に力を失って、確実に形勢(けいせい)が悪化するだろう。そんな(すき)(さら)すことは出来ない。


 とりあえず、今やるべき事は周囲の状況把握(じょうきょうはあく)か……。

 一先(ひとま)ず、俺は現在進行形で下がってきている天井から離れるために地面に降りた。


 そして相手に自身の位置を(さと)らせないために、光らないように細心(さいしん)の注意を(はら)いながらカナムを周囲に散布(さんぷ)する。すると、反応はすぐそばにあった。


「な!?」


 バルザックが腕を振る様子が(わず)かながら感知できる。

 この軌道(きどう)徒手空拳(としゅくうけん)のそれではない。刀を振る軌道だ。


 それを(さと)ると同時に俺は腕にカナムを(まと)わせてガードを固める。

 属性刀は今からでは間に合わないという判断だ。


 そして、再びの()ぜるような衝撃。

 相変わらずの不快感(ふかいかん)が全身を(めぐ)るが、分かっていれば()えられないこともない。


 (はじ)き飛ばされて地面を転がるも、その勢いのままに起き上がって右方向に走る。

 どうやって俺のいる位置を探り当てたかは知らないが、弾き飛ばされた方向からは離脱(りだつ)した。


 土のドーム内は光が届かずに真っ暗だし、音が反響するから音で正確な位置を把握(はあく)するのも困難(こんなん)だ。これでとりあえずバルザックの攻撃から(のが)れ……。


「がぼっ!? うぁ、ぐぇ!」


 突然の腹への衝撃(しょうげき)に足が止まる。

 そして、ここぞとばかりに足に巻き付いた土棘(つちとげ)に引っ張られて(ちゅう)()い、地面に(いきお)いよく(たた)きつけられた。


「この!」


 俺はすぐさま起き上がると属性刀で土棘(つちとげ)を切り払い、翼を展開して宙に浮かぶ。


 一応、周囲に散布しているカナムの反応から土棘(つちとげ)の出現は感知出来る。

 しかし、さすがに足元からの一撃は回避(かいひ)が間に合わない。やはり地面は奴のフィールドだ。


「くそ、どうなってる?」


 当てずっぽうではない。まさに狙い()つような一撃だった。

 まるで、そこに俺がいるのが分かっているかのような……。まさか、バルザックは感知(かんち)系統の能力も持っているのか?


 ……そうかもしれないな。よくよく考えてみれば、これはバルザック(いは)く切り札なのだ。

 いくら地上戦を強制(きょうせい)出来るとはいえ、自身が相手を補足(ほそく)出来なくなるようなものであるはずがない。


 その時、どうやって隠れていたのか声が聞こえなくなっていた空が(さけ)んだ。


「やっぱりそうだ……。雷人! きっとバルザックは地面を伝わる振動とかでこっちの位置を把握(はあく)出来るんだ!」


「地面を伝わる振動?」


「うん。思えば巨大ゴーレムと戦ってた時も、雷人の方に集中してるはずなのにちゃんと僕達を(ねら)って攻撃してきたし、何かしらの感知系の能力はあるんだと思ってたけど、あいつは雷人を吹っ飛ばした後に隣にいた僕には攻撃しなかったんだ。きっと、僕が動いてなかったから気付かなかったんだよ」


「ほう、その洞察(どうさつ)はお見事でござる。だが、気付いたところでもう遅いでござるよ!」


「うぁっ! ぐぅ、僕だってぇ!」


「空!」


 声が反響(はんきょう)する。音から位置を把握(はあく)するのは無理だ。


 カナムによる索敵(さくてき)は出来るが、そこまで正確なものじゃない。今の練度(れんど)じゃあ大雑把(おおざっぱ)な動きは分かっても戦闘に使用するには不安の残るレベルだ。


 じゃあ、どうする? そんなのは簡単だ。

 相手がこっちを把握(はあく)出来るのなら、躊躇(ためら)う理由なんて一つもない!


「フラッシュ!」


 自身を中心に全方位(ぜんほうい)放電(ほうでん)。これで視界が確保出来る。

 とはいえ、消耗(しょうもう)が激しいからずっとは無理だからな。短期決戦を仕掛けるしかない!


 そして、()らされたドームの中。雷人の目にバルザックの振るう刀が、空の腹を切る光景が飛び込んで来た。切られた箇所(かしょ)から空の戦闘服の色がじわじわと()り替わっていく。


 俺の内側から何かが()み上げてくるのを感じた。

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