4-43 仮初めの覚悟は崩れ、付けを清算するは今1
「今のは……」
ビルに叩きつけられて一瞬意識が落ちた。
目を開けると巨大ゴーレムがその大質量の巨腕を振り抜こうとしているところだった。
勿論咄嗟に回避しようとしたが、体が上手く動かなかった。
すでにスピードに乗っているそれを躱すことはもはや出来ない。
その状況は俺に死を感じさせるに十分だった。
俺は来るはずの衝撃を想像しながら、反射的に目を瞑った。
しかし、次の瞬間に感じたのは全身に叩きつけられる強風と強い光、そして熱だった。
強風は分かる。さっきまでも何度も叩きつけられていたからな。
じゃあ、この強い光と熱は何だ?
恐る恐る薄く目を開けると、まさに光の奔流が巨大ゴーレムを焼き切っているところだった。
膨大な光の奔流は自身の存在を周囲に刻み付けながら目の前を通り過ぎていく。この眩い光には見覚えがある。
「聖なる光線……唯か」
助かった。相変わらずとんでもない威力だな。
もし敵が使ってきたら絶望の一言だが、仲間であるそれは頼もしい限りだ。
その膨大な光の奔流が完全に通り過ぎるとそこには完全に崩れ去った巨大ゴーレムの残骸が残っていた。
少し視線をずらすと唖然とした表情のバルザックが空を飛んでいた。
その表情ときたら、危うく笑ってしまうところだ。
「ははは、やられたなバルザック。どうやらお前の出したデカ物は唯の本気に耐えられなかったみたいだぞ?」
俺が挑発するようにそう言うと、歯噛みした様子のバルザックが苦々しげに告げた。
「くくく、あの光は見覚えがあるでござる。あの時も使っていた技でござるね。まさかこれほどの威力があるとは思わなかったでござるが……」
「唯は頑張り屋なんでな。唯がお前の切り札を消してくれたんだ。ここからは俺がやるっきゃないな。それとも、もう一回あれを出せたりするのか?」
「まさか、出せないでござるよ。流石の拙者ももう打ち止めでござる。だが、どうやらあの小娘の方もあれで打ち止めだったみたいでござるよ?」
そう言われて光の出所を見るとぐったりとした唯とそれを支える空の姿が見えた。
流石にあれは全力の一撃だっただろうし、もう余力は残っていないか。だけど……。
「これで十分だ。確かにお前は強いが、俺にも意地がある。ここまでお膳立てしてもらって、負けるわけにはいかないよな」
「ははは、そうでござるか。では、ここが分水嶺でござる。覚悟の決まった者同士、死合うとするでござるよ!」
そう言うと真っすぐに突っ込んでくるバルザック。
ふとさっきのことを思い出す。
確かさっきは、あの攻撃を受けたら爆ぜるような感覚に襲われて形勢が一気に悪くなった。
あの感覚、確か腹に掌底を食らった時の感覚に近いものを感じた。
確か、拳法だったか?
あの内臓を揺さぶられるような感じ、空の治療と似たような感覚。
予想するにあれは他人に干渉する能力に近いようなものなんじゃないのか?
つまり、衝撃を伝播させて、相手の中身を直接攻撃するようなイメージか。
それを刀を通しても出来るのであれば、ただ刀を打ち合うのすらも危険だな。
だったら目指すのは……。
「な、逃げるでござるか!?」
「いや? 接近戦はどうも不利みたいだからな。遠距離から戦わせてもらうんだよ」
猛スピードで空中に飛び出した俺はバルザックから距離を取り、周囲に円環状に大剣を出現させたのだった。




