4-41 会心の一撃は硬きを砕く2
「完全回復ですか……ですが、恐らく最初の予想通りそれなりのリソースは掛かっているはずです。巨大な力にはそれ相応のエネルギーが必要なことはこの身で経験済みですから」
さて、どうしましょうか。そう考えていた唯は立ち上がった人型の影が動いているのを見た。
そう、この動きは……。
「空君! 攻撃が来ます!」
「え? まだ土煙は晴れてな……うわああああああ!?」
叫んでいる空の腕を引いて後ろに放り投げると、土煙を掻き分けてゴウッ! という大きな音を響かせながら巨大な物体が通り過ぎた。
さらには狙い澄ましたかのように土棘が無数に襲い掛かってくる。
聖剣を纏う腕でそれらを払い除けるが、外れた一発が聖剣が纏っていない頬を掠めていく。
「っ!」
じんわりとした熱さが頬を焼く。
すぐさま最後の土棘を破壊し、見上げるとなにやら土煙の中に途切れ途切れのオレンジ色になりつつある空模様が見えた。
そこにはなにやら円環状に無数の大剣を展開する雷人と、それに相対するバルザックの姿があった。
また、雷人君は強くなっているんですね。
いや、問題はそれじゃなくて……。
その時、視界を遮るように影が差した。
空虚としか言いようのない、ただ穴が空いただけのその瞳でその巨体が二人を見下ろす。
そして、巨大ゴーレムは身構える唯と空を無視するかのようにぐぐぐと身を翻し、土煙の隙間から見えるオレンジの空を見上げた。
「どうして、そっちを……」
その巨腕が持ち上がる。力を溜める。
その挙動が何をしようとしているかなんて一目瞭然だった。
バルザックと相対する少年の顔が頭に浮かんだ。
「待ちなさい! 贋作聖剣の影縛り!」
次々と作られる贋作聖剣が巨体の足元に降り注ぎ、その動きを止めんとする。 しかし、その巨体の秘めたる力をとてもではないが抑え切ることが出来ない。
そればかりか、贋作聖剣が刺さったそばから土棘に弾き飛ばされてしまい、完全に鼬ごっこだった。
そして、止めることの出来ない巨腕が振り切られる。
何とか躱した雷人の姿に安心したのも束の間、次の瞬間にはバルザックが近接し雷人を弾き飛ばしたのが見えた。
「あ……」
ビルに叩きつけられる雷人。その詳細までは遠くて見えないが、腕を振り上げるゴーレムが何をしようとしているかは一目瞭然だった。
「待って、下さい。そんなことをしたら……」
それを見た瞬間、最悪の未来がまるで実際に見たかのように想起された。
巨腕に押し潰される雷人君。
あの拳は直撃しなくても危険なほどの代物ですよ。そんな物が叩きつけられればどうなるのかなんて、火を見るよりも明らかじゃないですか。
ゴーレムの腕が振り下ろされるのを見た瞬間、何かが切れるような感覚がしました。
後から考えれば、恐らくそれは理性の糸だったのでしょう。
激情に心を飲み込まれた私は、後のことなど考えずに聖剣を振るっていました。
「あああああああああああああぁ!! 聖なる! 光線!」
放たれた恐るべき光の奔流は、およそ三十メートルはあろうかというその巨体の上半身を射線上にあった尽くと一緒に吹き飛ばした。
辛うじて残された腕の先はあえなく地面に落下し、その足は力を失ったかのように崩れ去った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ! あ、あはは。また、やってしまいました……」
「唯ちゃん!?」
急激な生命力の損耗故か、膝が笑い、足が力を失い、そのまま地面に崩れ落ちた。
あぁ、地面に激突する前に辛うじて空君が滑り込んで抱き留めてくれましたが、どうやらもう体は動きそうにありません。どうしようもない気怠さが全身を襲ってきます。
「あはは、最近は、出力の調整、出来てたんですけどね。勢い余っちゃいました」
「唯ちゃん……いや、雷人を助けてくれてありがとう。後は僕達に任せて」
「はい、よろしく……頼みます」
そこまで言ったところで緊張の糸が切れたのか、唯の意識はスーっと遠のいていったのだった。




