4-40 会心の一撃は硬きを砕く1
「ここですか? それともここですか!?」
全身を金色の聖剣に包んだ唯は大量に作った贋作聖剣を飛ばし、振り、形状変化で突き刺して、巨大ゴーレムの弱点がないかを探っていく。
それに対して巨大ゴーレムはうざい蝿でも払うかのように巨腕を振り回す。
それだけで強風が巻き起こり、危うく唯の体が浮きかけるし、勢い余って吹っ飛ばされたビルの瓦礫が降り注ぐ。
それらを聖剣で切り、聖剣で覆った腕で弾き、跳び回ることで何とか躱して攻撃を仕掛けていく。
「流石ですね。巨体というのはそれだけでこうも厄介なのですか……。体を覆う聖剣の補助のおかげで何とかなっていますが、これがなければ瓦礫が当たっただけで動きが制限されて、その強烈な一撃をもらってしまいかねません」
「唯ちゃん! あんまり近付くと危ないよ!」
荒れ狂う大地とでも言うのが適切であろう危険地帯に、銀髪の少年が走り込んでくる。
空君は近接の攻撃手段しかないから、私以上に近付く必要があって危険です。
ここは、私が頑張らなければ!
「空君! 私なら大丈夫です! 空君のほうが危険ですし、雷人君がバルザックさんを抑えてくれている間にこのゴーレムの弱点を見つけないと!」
「あ、危ない!」
「え、きゃっ!」
ゴーレムの巨腕が地面を叩き、その大質量の衝突に大きく揺れる地面と吹き荒れる強風。
一瞬目を瞑ってしまった唯の隙をついて襲い掛かる土棘を、走り込んで来た空が殴って砕いた。
「す、すみません」
「んーん。確かに頼りないだろうけどさ、もうちょっと僕のことも頼って欲しいな」
「はい。ですが、この巨大な敵相手では……」
空君の戦闘における能力は単純な身体強化だけです。
元々体が大きいわけでもなく、それほど筋肉質というわけでもない空君は、身体強化をしていても聖剣を纏う私よりも非力なはず。
であれば、私ですら破壊出来る気がしないあの巨大ゴーレムに対して何が出来るのかと思ってしまうのは仕方のないことでしょう。
その考えが顔に出ていたのか、空が得意げに笑って見せました。
一体どういうつもりの笑みなのでしょうか? そう思っていると空君は言いました。
「僕だって強くなってるんだよ? それを今から証明するからさ。ちょっとそこで見てて!」
「あ、空君!?」
言うが早いか土棘が荒れ狂う大地を駆け抜けて、空君はあっと言う間に巨大ゴーレムの足元に辿り着いていました。
速い、それとなんでしょうこの違和感は? 空君の走る姿がその速さに比べて随分とゆったりして見えたような……?
*****
「これで、どうだ! えーと、超振動全力パーンチ!」
身体強化に加えて自身の能力も発動、さらには超振動破砕グローブも起動させた一撃。
自動制御なのか、走る空に的確に襲い掛かってきた土棘も置き去りにし、ここまで全速力で走って来た空は万全の態勢でその一撃を放つ。
文字通り、現状の空の最大火力。そのまんま過ぎるダサいネーミングからは想像も出来ない、超威力のその一撃を巨大ゴーレムの足に叩き込んだ。
瞬間、まるで爆発でも起きたかのように巨大ゴーレムの足が弾け、抉れる。
突如として大部分を失った足ではその巨体を支える事が出来ずに膝をついた。
一方で、それほどの一撃を放った空はといえば、殴ったままの体勢でプルプルと震えていた。
「お、おぉう。やっぱり、岩を拳で殴るのは……痛い」
「何してるんですか! もう!」
瞬間、突如として飛んできた何本もの金色の聖剣が地面に突き刺さり、その形を変えて少しでもゴーレムが倒れる時間を遅らせようと支える。
それと同時に不定形となった金色の帯のようなものがプルプルと震えている空の腹に巻き付き、見た目以上の強力な力で空を持ち上げて引っ張っていった。
そして、空がゴーレムの下から抜け出したタイミングでその巨体は崩れ落ち、周囲に粉塵と暴風を撒き散らした。
「うひゃあ。あ、危なかった」
「本当ですよ、全く。……それにしても、空君はいつの間にあんな破壊力の攻撃が出来るようになったんですか?」
「へ? あ、あぁ! これこれ、超振動破砕グローブをウルガスさんに新調してもらったんだよ! いやー、凄いよね!」
空の返答を聞いた唯はというと、若干疑っていそうな信じられなさそうな。
しかし、ウルガスさんならあり得るかも? といったような複雑な表情をしていた。
正直、既に結構バレているので今更隠す必要があるのかは疑問なのだが、なんとなく自身の能力を打ち明けるのが躊躇われていた。
さっきは別にバラしてもいいかなと思っていたが、いざとなると踏ん切りがつかない。
我ながら、なんとも優柔不断だ。
しかし、仕方がないだろう。
この年になるまで必死で隠してきたことを今更話すなど、長年の意識を変えることはそう簡単には出来ないのだ。
「いやー、それはそれとして、雷人なしでもあんなに大きなゴーレムを倒せちゃったね! あんなのをそう何体も出せるとは思えないし、きっと後はバルザック本人を倒すだけだよ!」
「……そうだと良かったのですが、そう簡単にはいかせてくれないみたいですね」
「え? あ、あれー?」
だんだんと晴れつつある土煙の中で巨大な影が立ち上がろうとしているのが見えた。
あの足で立つなどありえない。つまり、それは回復してしまったということで……。
「やっぱり、そう簡単にはいかないんだね」




