4-39 少しの綻びが大局を決めることもある2
「波動歩!」
「クリスタルプリズン!」
瞬間的に速度を上げて迫るセルビスの放つ掌底を、鎖で何重にも受け止めつつ巨大な氷の壁で受ける。
受け止めた鎖は瞬時に千切れ、氷の壁は砕けた。
だが、その突進は確かに止まった。
「ウォーターポンド!」
「足枷!」
動きが止まった次の瞬間、セルビスの足元に水の池、もとい底なし沼が出現する。
さらに、シルフェの髪が足に巻き付いて文字通り足枷としてセルビスの動きを妨害する。
「もらったわ! アクセル・ブースト!」
言葉とともにフィアの足の裏から炎が噴き出し、一気にトップスピードに乗る。
そのまま、セルビスの顎を膝で打ち抜いた。
体を全体的に頑丈な鱗で覆っている竜人族だが、顎から腹にかけてと関節部分の鱗はそれ以外と異なっている。
関節部分にもあるのだから、その鱗は動きを阻害しないように頑丈でない可能性が高い。
つまりその部分なら何とか攻撃を通せるはずなのだ。
もっとも、やはり何やら弾力のある感触に阻まれたのだが、それでも全くダメージが通らないということでは決してないはずだ。
その証拠にセルビスは足を取られながらもよろめいた。
「ぐぅ、なるほど。やるではないか。だが、倒れるほどではないぞ。おぉ! 波動陣!」
セルビスが叫びながら身を捻り、足をとっている沼を殴りつけると衝撃が波及し、泥は一気に霧散した。
それどころか、離れた位置にいたフォレオとシルフェ、ようやく着地したところだったフィアも数メートルは吹き飛ばした。
フィアが体勢を整えて目線を上げると、またも瞬間的に速度を上げ突き進んでくるのが見えた。
「そんな直進! 食らわないわよ!」
突っ込んでくるのが分かっているのにただ待つ馬鹿はいない。
フィアは鎖での速度減衰を図りつつも、氷の槍を複数作り出して奴の進行方向に置いた。
わざわざ突っ込んで来てくれるんだから、その力を存分に使わせてもらおうじゃない。
何本かは砕かれるかもしれないけど、猛スピードの突進よ。
全てに対応なんて出来ないでしょう!
そして正しく氷の槍がセルビスに接触するというその時、セルビスの姿が一瞬にして消えた。
「え?」
いや、違う。消えたんじゃない。
確かにセルビスの姿がブレたように見えた。
恐らく直進しながら横方向に再び加速したのだ。
そう思い、目を向けた先でフィアは見た。
セルビスの突き出した手が、シルフェの腹部を捉えるのを……!
「っあ、シルフェ!」
「波動掌!」
「おぇっ!」
波動掌をまともに食らったシルフェは一瞬にして十メートル以上を飛び、離れた位置にあったビルに背中から激突した。そのビルが瞬く間に崩壊を始める。
「く、クリスタルプリズン!」
「っ! フィア、余所見はいけません!」
「あ……」
シルフェの救助を優先し、ビルを支えるために巨大な氷を作り上げたフィア。
しかし、迅速に助けるために、完全に意識をそっちに向けてしまっていた。
そんなフィアの隙をセルビスは見逃さなかった。
「クリスタル……」
「もう遅い。波動掌!」
「ぷあっ!」
瞬時に生み出された氷の壁も完全に作られる前に破壊され、そのまま、セルビスの掌底がフィアの腹部に突き刺さる。
さっきのシルフェの焼き増しだ。
深々と突き刺さる掌から何やら振動のようなものを感じ、体の内部が掻き回される。
その不快感から一瞬意識が飛び、対応が出来なくなる。
そのまま襲い来る浮遊感。体を襲う強風の感覚、背中への断続的な衝撃、そして最後に強烈な衝撃。
橙色に染まる空を見たのを最後に、その意識は闇の中へと消えていった。
*****
「ふぅ、あっけないものだな。一人やられればすぐに動揺する。経験が足りないのではないか?」
シルフェがやられたのを見たフィアに決定的な隙が出来ました。
本来ならば、それに気付いた瞬間にうちが動かなければいけませんでした。
これは失態です。これはうちの失態です。
その所為でフィアが、シルフェが、うちの大事な仲間達が危険に晒されている。
シルフェは崩れかけのビルから出て来ないし、フィアも倒れたまま立ち上がらない。
大丈夫なのですか? 意識を失ってるだけ? それとも危険な状態? そもそも、奴の攻撃の正体は? 分かりません。何も分かりませんが……。
「……まぁ、あなたの言うことは間違いではありません。ですが……」
ただ一つ分かっていることがあります。
簡単、えぇ、本当に簡単なことです。
「うちは今、これまでにないくらい怒っています」
冷静な怒りを内に秘め、フォレオはにっこりと笑って見せた。
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