4-38 少しの綻びが大局を決めることもある1
「これで、どうだーっ!」
緊張感がいまいち足りていなさそうな叫びとは裏腹に、シルフェは鋭い動きで攻撃を加える。
短槍、大剣、ハンマー、長槍、次々と変わる武器はシルフェの能力により髪が変質したものであり、その重量は自由自在である。
それ故にどんな武器も片手で軽々と振るうことの出来るシルフェは、両手で武器を振り回す。
変化するリーチとインパクトの瞬間に重量を増す武器で絶え間ない重撃を加えるシルフェの攻撃を完全に躱し切るのは至難の技だ。だが……
「ぬん!」
「うひゃあ!」
セルビスはそれを真正面から受け切り、それどころか攻撃していたシルフェを弾き飛ばしてしまう。
「この!」
「大人しくして下さい!」
セルビスがシルフェの攻撃を弾いた瞬間。
その生まれた隙に攻撃を叩き込む。
メイリード流剣術、転閃。
居合のように腰の位置から放つ左下から右上への斜め切りの後に、瞬時に刀を逆手に持ち替えて左上に切り払う二連撃。
そこからさらに刀を持ち替え、左上から右下への切り下ろし。
基本技の一つ、斜陽閃を放つ。
それに合わせるかのようにフォレオが後ろから銃撃を行い、防ごうとする腕の動きを阻害する。
完璧に無防備な背中に決まったはずの三連撃は、碌なダメージを与えられなかったことをその手の感触が示していた。
「もう! 何なのよ、それ!」
刀から伝わってくる奇妙な感覚に歯噛みしながら後ろに下がる。
渾身の一撃を食らっておきながら、少しよろめいただけの男は油断のない構えで此方を見据える。
「フィア、どうなっているんですか? 防がれたにしては鱗を切りつけたような音はしませんでしたし、鱗が切られたようにも見えません」
「そんなの私が聞きたいわよ。なんて言うか、そう、切れないゼリーでも叩いてるような感触だったわ。弾力がある感じ? 一体何なのかしらね」
警戒して、動きが止まったこちらに相も変わらず油断のない目を向けるセルビスは、その目に若干の落胆を秘めているかのようだった。
「ふん、強いと聞いていたのだが、この程度なのか? 本当に貴様達を倒したら我等の名が上がるのだろうな?」
「さぁ? どうでしょうね。っていうか、本当に名を上げたいだけなんだったら、どこぞの武術大会にでも出なさいよ。それだけの力があるなら、優勝だって出来るんじゃないの?」
「ふむ……武術大会か。それは悪くない案だが……しかし、我の拳法をいたずらに人前に晒すのは出来れば避けたいところだ。ふむ、目的の達成はやはり楽ではないな」
何というか、目的の見えない男だわ。
というか、本当に有名になりたいだけなんだったらこれは悪手としか言いようがない。
この男、理性的に見えるけどそう見えるだけで実のところ馬鹿なんじゃないの?
まぁ、馬鹿だろうが何だろうが、強いことに変わりはないんだけど……。
やっぱりフォレオもそう思うのか、呆れたような表情で溜め息を吐き始めた。
「……本当に帰ってくれませんかね。少しばかりイライラしてきました」
「セルビスさんだったっけ? 私は知ってるんだけど、あなたがしてるのは悪いことなんだよ? 必用悪っていうのもあるとは思うんだけどね。これに関してはそれにもならないんだ」
あまり緊張感が感じられないシルフェの声に、セルビスが頷いて見せる。
「無論。自身が良いことをしているなどとは思っておらんし、我の行動が宇宙警察の掲げる法とやらに反していることも分かっている。だが、我等は止まることは出来ぬ。我等竜人族の血を絶やさぬために……な。行くぞ、様子見はもう終わりだ。本気で来ないのなら、死を覚悟するといい!」
「ん! 来ますよ! フィア、遠慮なしでやりましょう!」
「あぁ! もう! やってやろうじゃないの!」
特に遠慮などしていたつもりもないが、向こうが全力で来るのならこっちも全力で行くまでだ。
よく分からない拳法に、絶対に合理的じゃない目的に対する手段。
色々と言いたいことはあるが、そんなものは一旦捨ててとりあえずしばく!




