4-37 大剣は円環を為し、聖剣は力を象徴する2
唯は全力で揺れる地面をひた走る。
足場である地面は巨大ゴーレムが動く度に大きく揺れ、非常に不安定になっている。
まるで船にでも乗っているかのようだ。
巨大ゴーレムに近付いたことで攻撃範囲に入ったのか、突然地面から無数の土棘が伸び上がる。
数も多く、スピードも速い。
私がただの剣士だったなら、対応が追い付かずにそのまま串刺しにされてしまったかもしれませんね。でも、私も日々成長しているんです。
「贋作聖剣の舞!」
言葉と同時、空中に無数の輝きが生まれる。
現れた聖剣がその形をぐにゃりと変え、迫る土棘を残らず撃ち落とした。
輝ける五振りの聖剣の内の二振りの聖剣が象徴する能力。
聖剣の複製である贋作聖剣と形状変化の合わせ技だ。
ふぅ、二つの力の同時行使は楽ではないですが、やっぱりいいですね。
これが出来るだけで対応幅が一気に増えます。
本当に、贋作聖剣は非常に使いやすい、いい能力ですね。
手数を一気に増やせるのがやはり大きいが、中でも一番は最も大きなリスクがないことだ。
勿論、数を増やせばその制御に意識を裂かれることになり危険になるが、ここで言うリスクは自身を危険に晒すという意味ではない。
唯の能力、輝ける五振りの聖剣はその名の通り五本の聖剣から成り立っている。
それぞれの聖剣は各能力を象徴するものであり、唯は恐らく五つの力を使うことが出来る。
強力な光線を束ねて放つ能力、聖なる光線。
聖剣の形状と大きさを自在に変形させる能力、形状変化。
相手の影を突きさすことで相手をその場に縫い留め、その動きを止める能力、影縫い。
聖剣を複製する能力、贋作聖剣。
……もう一つはまだ判明していないが、恐らく本当に必要になった時には現れるだろう。
なんにしても、これらの能力を象徴するのが聖剣だ。
そして、聖剣は頑丈だが決して壊れないわけではない。
実は、唯は実験で聖剣を一本壊してみたことがあった。
その時は影縫いを使うことが出来なくなり焦ったものだが、一週間ほどすると自然と聖剣は修復され、能力も復活したのだ。
……なんとも不思議なものですが、聖剣が壊れてしまうとその聖剣に対応する能力が使えなくなってしまいますから、贋作聖剣はそれを気にせずに使えるというだけでも破格の能力です。
「贋作聖剣を象徴する聖剣が壊れることは想像したくもないですね……。さて、ようやく辿り着きましたよ」
唯の目の前にはこちらを見下ろす巨大なゴーレムがその巨体故の異様な存在感を放っていた。
実際に見えていたりするのかは知りませんが、二つの目がこっちを見ています。
ただ穴が空いているだけといった感じですが、目の奥は真っ暗で何も見えないですし、もちろんその考えなんて悟ることは出来ません。
深淵とでも言うのでしょうか?
まるでそれを覗いているかのような気分になって、なにとはなしに身震いしてしまいます。
「さて、気を取り直して……まずはどこから行きましょうか」
その時、巨大ゴーレムが唯を踏み潰さんと足を大きく持ち上げた。
それに合わせて唯の動きを止めようと土棘が足に絡みつく。
しかし、絡みついた棘は唯の歩みを止めることは出来ずに簡単に引き千切られた。
「ふふん。やっぱり経験は大切ですよね。あの時から練習しておいたんです。まぁ、ちょっと恥ずかしいのであまりやりたくはないのですけど」
そう言う唯の今の格好はというと、花蓮と心と戦った時の経験を生かして体を贋作聖剣の形状変化で覆った姿。
すなわち、必要箇所を金色の膜が覆った姿になっていたのだ。
「さぁ! 戦いの始まりですよ!」
唯の気合に合わせてなのか、ピカーっと全身が光に包まれるのであった。
自分で書いておいてなんですが、全身金ピカなうえに発光してるとか、
ヒロインなのにまるでネタキャラみたいですね。
……いや、本人はいたって大真面目なんですよ?
ただ油断すると光ってしまうだけで……。




