4-36 大剣は円環を為し、聖剣は力を象徴する1
焦りを指摘したのだが、バルザックは動揺することなく俺の目を見返して来た。
そうだよな。さすがにこれくらいで勝てるとは思っていない。
「何、焦っているのではないでござるよ。ようやく面白くなってきたと思っていたところでござる!」
どうやらやる気が出てしまったらしく、バルザックの刀速が上がる。
両手に握られた二本の刀を的確に振り回してくる。
それは俺の首を狙う切り払いであったり、心臓を狙った突きであったり、腹を狙った鋭い切り付けであったり、正しく命を取りに来ているといった気迫が感じられた。
なんとかギリギリのところで防ぐことが出来ているが、攻撃に転じることが出来ない。
こちらが攻撃しようとすると、その出だしを的確に押さえてくるのだ。
それに加えて、相も変わらず間断なく土棘による攻撃を加えてくる。このままではじり貧でやられてしまうだろう。だが!
「確かにお前は強いけどな。俺には新しい能力があるんだよ!」
言葉と同時に指輪を掲げると、空中にレジーナお手製の特殊金属で出来た大剣が何十本も生成される。
それらは、特に凝った意匠などが施されていない、ザ・量産品といった見た目の大剣であった。
だが、それはこれが使えない剣であるということを意味しない。
さぁ! 俺の新しい技を食らえ!
「円環剣舞!」
カナムをその表面に纏った無数の大剣が円形に配置され、俺の周囲を回り始める。
実に三重に俺の周りを回る大剣の円環が、その円環自体が回転するような挙動で回り始める。
それらはカナムで出来た剣とは違い、確かな重量をその身に宿して俺に近付く土棘とバルザックに襲い掛かった。
尚も間断なく迫る土棘は、チェーンソーというか丸ノコのようなそれにあっさりと切り払われてその姿を消し、バルザックはギリギリのところで後ろに下がって難を逃れた。
「ぬおっ! なんと面妖な!」
「ははは、これは思った以上にいい感じだな。ほら、食らえ!」
無数の大剣からなる円環が回転しながらもその直径を広げるように膨張し、バルザックに襲い掛かる。
「ぐ、ぐぐ、ぬおおおおおおおおお!!」
まるで丸ノコのようなそれは連続的な斬撃でバルザックの刀を弾き飛ばし、バルザックの体にクリーンヒットした。
「うぐぁっ!」
見事に吹っ飛ばされたバルザックは何とか空中で体勢を整え、予備らしき腰に差してあった刀を抜き放つ。そして、高らかに吠えた。
「なるほど、確かに強力な技でござるな。だが、ゴーレムが倒せないなら結局、優勢なのは拙者なのでござるよ!」
「くそ、ぐぅっ!」
振るわれる巨大ゴーレムの腕に無数の大剣が食い込み、刺さる。
しかし、さすがにそれを破壊するには至らず、その剛腕が俺に迫る。
円環剣舞が弱いというわけではないが、さすがに今回は相性が悪すぎた。
俺は残る大剣の制御を放棄して、バルザックに向けて投擲し、回避に専念する。
ゴーレムの巨腕はしっかりと躱すが、やはり周囲に強風が吹き荒れる。
投擲した大剣はそのほとんどがあらぬ方向へと逸れてしまい、俺もバランスを崩してしまう。
そこを突くように突っ込んで来たバルザックがその隙を見逃すはずもなく、握った二本の刀を鋭振るった。
そして、それを俺が属性刀で受け止めた瞬間、何かが体内で爆ぜるような感覚に襲われた。
突然、視界が回る。自分の位置が、体勢が把握出来ない。
なんとか状況を確認して体勢を立て直すべく急制動をかけるが、それは悪手だった。
「ぬん!」
「がっ、はぁ!」
バルザックが両手に持った刀を振り切り、それが俺の腹を叩いた。
そして再びの爆ぜるような衝撃に俺はわけも分からぬままにビルへと叩きつけられ、追い打ちを掛けるかのように巨大ゴーレムがその巨腕を振り上げた。
今回のこの文章【 実に三重に俺の周りを回る大剣の円環が、その円環自体が回転するような挙動で回り始める 】……やっぱり分かり辛いですかね?
何が言いたかったのかですが、調べてみたらコスモス小惑星とかいうおもちゃがイメージ近かったです。
円環がくるくると回るイメージ。うーん、表現が難しいです。




