4-35 岩の巨人
「ははっ、土操作系能力者でゴーレムはやっぱり定番だよな! でもさぁ、幾らなんでもこれはデカ過ぎだろ!?」
目の前にそびえる岩の巨人。およそ三十メートルもの大きさを誇るその怪物に俺は叫んだ。
どうやらバルザックはおしゃべりタイムをくれるつもりはないらしく、巨人がその腕を高々と振り上げた。
「空! 唯! 一度、退避ぃ!」
巨大ゴーレムの腕から逃げるため、全力で後方に走る。
そして、直後にゴーレムの腕が思い切り振り降ろされ、その先にあった地面が爆ぜた。
強風が吹き荒れ、アスファルトの塊があちこちに飛んでいる。
その所為で周囲のビルの壁がガンガン削れていく。それを見ただけでもまともに食らっていいものではないことは明白だった。
「わわわ、何さあれ! ビルがまるでおもちゃみたいに吹っ飛ばされてるよ!」
「以前に見たものとは比べ物になりませんね……。果たして、あれは破壊出来るのでしょうか?」
「わははははは! 驚いたでござろう? このゴーレムこそが拙者の本気でござる! 以前は本気でなかったということは信じてもらえたでござるかな!?」
こちらが一目散に逃げたからか意気揚々とした様子で叫ぶバルザック。
正直その鼻を明かしてやりたいという気持ちが込み上げてくるが、あの巨大なゴーレム相手ではそれも簡単ではない。
見たところ巨大なだけあってあのゴーレムの動きはさほど速くはないようだが、大きさは力だとはよく言ったものだ。
あの巨体はただ歩くだけで地面を揺らし、その巨腕を振るえば強風を巻き起こし、ビルを殴ればその瓦礫は散弾のように飛び散る。
遅いから弱い? そんなことはない。
あれはその遅さに見合うだけの確実な力を秘めている。
だが、それでも俺達に撤退の二文字はないのだ。
「空、唯! あれは確かに強敵だ。だけど、だからって逃げるわけにもいかない。まずは確認からだ。何が通じて何が通じないのか。あいつには何が出来て、何が出来ないのか。それを確認しよう!」
「うぇ、ってことはあれに近付かないといけないのかぁ。まぁ、そうだよねぇ……」
「空君、とりあえず偵察ですから、無理に踏み込まずに安全第一で行きましょう。あれだけの巨体ですから、何もデメリットがないなんてことはないはずです。あの動きの遅さもそうですし、きっと燃費だって悪いんじゃないでしょうか?」
露骨に嫌そうな顔をする空とゴーレムを見据えて冷静に語る唯。
今も響く地響きが腹を揺さぶっているが、唯に臆した様子はない。
唯はやっぱり頼りになるな。
確かに能力は無限に使えるようなものではない。
あんなのをずっと動かし続けるなんて、そんなのは出来ないはずだ。
一体どれだけの時間動かせるかは知らないが、なんにしても時間は俺達に有利に働くはず、勝機はあるはずだ。
「よし、そうと決まれば行くぞ! 俺は上から行ってバルザックの注意を引く! そっちは任せたぞ!」
「はーい、分かったよ」
「はい、任せて下さい!」
掛け声と同時に唯が走り出す。
それを見て俺は翼をイメージし、空中に飛び上がった。
すぐさまこちらに気付いたバルザックが叫ぶ。
「かくれんぼは終わりでござるかな? であれば、行くでござるよ!」
その言葉とともに地面が大きく揺れ、無数の巨大な土棘が伸び上がり、雷人に迫る。
まさか、ゴーレムに加えてこれほどの力を見せてくるとは、だが強大な能力は最近たくさん見ている。
俺は花蓮や祭、風人の力を知っているのだ。
いちいち丁寧に驚いてやると思うなよ!
「遅い!」
俺は身を捻って回転しながら飛び、迫る土棘をギリギリで回避する。
その棘を幹として枝が生えるかのように無数の棘が迫るが、属性刀を取り出して切り飛ばしながら突き進む。
それを見たバルザックはようやく余裕綽々という表情を捨てた。
「ぬぅ、分かっていたことでござるが、飛んでいるというのはそれだけでも厄介でござる。だが、そこはお主だけの場所ではないでござるよ!」
バルザックの背から翼が生え、羽ばたくと猛スピードでこちらに迫る。
振るわれる刀を属性刀で弾き、カナムで足場を作って蹴る事で死角から迫っていた土棘を回避する。
それを見たバルザックが驚愕で目を見開いた。
「な!? お主、後ろに目でもあるでござるか!?」
「目はないけど、分かるんだよ。それにしても、やっぱりお前は空での戦いの方が苦手なみたいだな。焦りが顔に出てるぞ」
戦闘区域がおおよそ決まった段階で俺は周囲にカナムを散布している。
常に全体の状況を把握出来るような便利なものではないが、自分の周囲の狭い範囲程度ならば集中していれば感知出来る。
簡単に意表を突けるとは思わないことだな。
そう考えて俺が笑うと、バルザックの目に炎が灯ったように感じた。
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