4-33 その名を轟かすために
「くぅう! アイスニードルシェル!」
廃墟群の一帯に声が響いたかと思うと、空に無数の棘が生えた氷の球体が出現した。
それらは空中に留まり、後から突っ込んできた影に触れると爆発するかのようにその棘を撒き散らした。
それとほぼ同時、そこから十メートルほど離れた位置に網目状の鎖が展開され、何かに引っ張られるかのように鎖が引き延ばされた。
それがようやく止まると、その引き延ばされた鎖の先、中心には鎖に身を預けつつも油断ない視線を空中に向ける黒髪の少女がいた。
「はぁ、はぁ、ほんとにとんでもないのばっかり連れて来るわね。どうやったらこんな連中が集まるのよ」
恨み言を口にしながら地面に飛び降りると、空を見上げた。
「そのとんでもないのに反応出来るのだ。お主もとんでもないのではないか?」
するとそんな減らず口を叩きながら翼をはためかせ、新たな敵である竜人族が無傷の姿を現した。
この男、前回現れた竜人族……確か、バルザックと言ったかしら。
あいつよりも段違いに強い。
一体どんな能力持ちなのかしら……それともこれが、竜人族の本領ってわけ?
「……セルビスだったかしら? それだけの強さがあるなら、仕事くらい幾らでも選べるでしょ? 何でこんな犯罪の片棒を担ぐのかしら? 確かに、傭兵はお金さえ貰えば大抵の仕事はするだろうけど、それでも宇宙警察を敵に回すようなことはそう易々とはしないはずよね?」
フィアの質問に対し、わずかな沈黙。一体何を考えているのか。
しかし、そんなことは知らなかったということも無いだろう。
その証拠にその鋭い瞳からは動揺が一切感じられなかった。
「我らは傭兵だ。しかし、欲しいのは金ではない。そして、お主の言う通り仕事など幾らでも選べる。だが我らには、悠長に構えている余裕などないのでな」
セルビスがそう言ったところで、ようやくフォレオとシルフェが追い付いて来た。
とりあえず、最悪の状況は脱したかしらね。
相手もそれに気付いたみたいだけど、動く様子はない。話は出来るみたいね。
さっきの一撃だけでも分かる。こいつはまともに戦えばかなり苦戦する相手だ。
それも、全員で戦ったとしても勝てる保証はないくらいの。
あの三人は足手纏いになりかねないレベルね。
なんとか、戦わずに済ませられればいいんだけど……。
「あなた、傭兵のくせにお金が目当てじゃないんですか?」
「そうだよね。皆が皆お金が目的じゃないよね! うんうん、私もそうだったよ。私だって仕事は選んでたしね。あれ? 仕事が選べるのにこの仕事に来たってことは、何か理由があるってこと?」
「当たり前だ。このような仕事、理由もなく選ぶわけがなかろう。……我等は、この名を宇宙中に轟かせねばならんのだ。貴様らはこの界隈では有名なのであろう? それに加えて、かの宇宙警察に連なる者だ。それを打ち破れば、我らの勇名。宇宙中に轟くのは間違いないであろう?」
厳かな声でセルビスはそんなことを口にした。
名前を轟かす? 確かに、私達自体はともかく宇宙警察の実行部隊の一つとして、下請けを受け持っているホーリークレイドルは犯罪者達の界隈ではそれなりに有名だ。
もちろんもっとも有名なのはS級社員だけど、A級と認められた社員でも倒すことが出来ればその界隈で箔が付くという話は聞いたことがある。
でも、それはあくまでその界隈の中での話よ。
そんな名声が何になるのか見当もつかないし、間違いなく宇宙警察やホーリークレイドルを組織単位で敵に回すことになる。
だから、例え考えたとしてもわざわざ実行に移すなんて話は聞いた事がない。
「確かに、ごく一部の人々の間では名が売れるとは思います。ですが、そんなの勇名と呼べるのですか? あなた達はそんな自己満足のために宇宙警察を敵に回すつもりなのですか?」
当然すぎるフォレオの言葉にセルビスの瞳が剣呑に光る。
覚悟は決まっていると、そういうことなのだろうか?
「貴様達は、我等の目的を聞かないと全力で戦えないのか? 我がそこまで話す必要などないであろう」
話したくない……か。
こいつらの最終的な目的が何にしても、今の目的が戦って私達を下して悪名を広めることなんだったら、戦わないという結論に至ることはなさそうね。
それなら今考えることは、どうやってこいつを捕まえるかってことね。
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