4-32 地面を割って現れし者
土棘はカナムの杭と聖剣の鞭を全て撃ち落とし、さらに雷人の腹に深く食い込んだ。
「は!? ここビルのうぇぐ!」
「きゃあ! まさか……全部に当てたんですか!?」
俺はそのまま数歩下がらせられ、唯は聖剣を土棘に引っ張られてそのまま体勢を崩した。そして、空の拳は難なく躱されてしまった。
「少年、拳とは、こうやって叩き込むのでござる!」
「あ、やばっ……あぐ!」
空は身を捻って何とか躱そうとしたが、バルザックがそれに合わせて拳の軌道を変えたためにがら空きの顔面にもろに当たり、数メートル後ろに吹き飛ばされた。
「空っ! くそ、あれに対応するのか」
「人工物の上だから土が無いなどと、そんなのは思い込みでござるよ!」
「くそ、ここは人工島だぞ……。土なんてそう多くはないはず……まさか、土を持ち込みやがったな!」
「拙者もあれから強くなったでござる」
「いや、無視するなよ」
「……今回は前回のような様子見でもござらん。今回は正真正銘、本気で行くでござるよ!」
「……説明する気はなしか。あぁ、そうかよ。だけどな……お前が強くなったように、俺達だって訓練を積んで来てるんだ。前と同じだと思うなよ!」
雷人は叫ぶと属性刀にカナムを纏わせて前に出る。
空中に複数の雷盾を作り、それを足場にしてバルザックの周りを跳び回る。翼を作ってサポートすることでより速く、立体的に駆け回る。
「ぬ、前回とは比べ物にならない程に速いでござるか!?」
「獲った!」
「ぐぬぅ!」
刀と刀がぶつかり合う甲高い金属音が鳴り響き、打ち付けた腕がわずかに痺れた。
だが、バルザックは刃をなんとか受けたものの体勢が良くない。
力では勝っている。ならば、このまま押し切る。
「おおおおおおおおおおおおぉぉ!」
「ぐぅ! だが甘いでござる!」
「なっ!?」
バルザックが力を抜いたらしく、急に抵抗がなくなった。
俺は前に倒れ込むかたちになり、体勢が崩れる。
反射的に前に足を出して踏ん張ると、動きの止まった隙にバルザックの掌底が腹に突き刺さった。
そのあまりの衝撃に体が浮き、数メートル後ろに転がった。
そして何とか止まり、起き上がった俺は腹ではなく口元を押さえた。
「うぇ、うぷっ!? な、何をしやがった……?」
腹の中を掻き回されたかのような感覚。
突然の吐き気に襲われた。
この感覚、どことなく空の治療の時の感覚に似ている気がする。
もっとも、空の治療にはこのような不快感は無いが……。
「ふふふ、これはヴィスタ家に伝わる拳法でござる。拙者は完全な習得こそ出来なかったでござるが……、紛い物程度なら扱えるのでござるよ。良かったでござるね。これが兄者の一撃であったなら、お主はもう立ち上がれなくなっていたところでござるよ」
技が決まったことで得意になっているのか、勝ち誇ったように語るバルザック。
しかし、だからといって戦意喪失するような俺達ではない。
「拳法……ね。それなら僕だって齧ってるよ。雷人! 僕と唯ちゃんじゃ雷人の速さには合わせられない! どうにかそっちで合わせてくれない?」
「そうですね。あの速さで相手の周りを動かれると上手く狙えません。同士討ちになってしまいます」
うっ、言われて初めて気付いた。
最近は自分で戦うイメトレや訓練はしてたけど、誰かと合わせることはあまり考えてなかったから、相手を攪乱することしか考えてなかった。
確かに、あんなに跳ね回ってちゃ邪魔でしょうがないよな。
「そうだな。悪い、気を付ける」
「分かってくれればいいよ。唯ちゃん、とりあえず僕達で合わせるよ! 後は雷人が何とかしてくれるはずだから」
「そうですね。よろしくお願いします」
「細かい部分はこっちに丸投げかよ……。たく、分かったよ。やってやる!」
真直ぐにバルザックに向けて飛び出した空と、少し距離を取って様子を伺う唯。それに対してバルザックは腰を落として地面に手を触れた。
「はっはっは! 仲間の悪い部分を理解して、それを補うように連携するのは悪くないでござるが、拙者に時間を与えたのは悪手でござるよ! 今回は出し惜しみは無しでござる! クリエイト・アルティメットゴーレム!」
バルザックが叫ぶと突然地面や廃ビルが大きく揺れ、アスファルトが割れる。そして、みるみるうちに沈み始めた。
「え、ちょ!?」
「ビルが崩れています! 一度距離を取って下に降りましょう!」
「それはそうだが……いや、待て待て待て! 何だよそれは!?」
空と唯が急いで他のビルに飛び移る中、翼のおかげで崩落に巻き込まれずに済んでいた俺は見た。沈むビルの下から現れたその巨体を……!
「言ったでござるよ! 出し惜しみは無しだと!」
叫ぶバルザックをその肩に載せ、十階建てのビル相当、およそ三十メートルの岩の巨人がこちらを見降ろしていた。
おちゃらけたあいつは脇役? 雑魚敵? いいえ! 立派な強敵です!
というわけで、出ました! ファンタジーの定番、巨大ゴーレム!
何はなくともその重量だけで厄介な強敵。やはり力とはパワー!
シンプルだからこそ分かりやすい強敵って奴ですね!




