4-31 ヴィスタ兄弟
「なんか久々に感じるなぁ。ここに来るの」
「平和が一番なんだけどね」
俺達は転送を使って侵入不可区画に来ていた。
いつもの見慣れた光景を見回すが特に人影は見えない。
あっちは足での移動だろうから、流石に早く着き過ぎたか?
そう思っていると、突然後ろのビル群の一つに煙が上がった。
そちらに目を向けると先ほどの二人組がこちらを見据えて立っていた。
「速いな。転移を使ったのか? 我らの雇い主などよりも高い技術を持っているようだな」
「これでも急いで来たのでござるが……先に行くと言った手前、後から着くのは少しばかり具合が悪いでござるな」
学校のある方角から鱗の肌を持つ二人組が現れた。
それを待ち受けるのは戦闘服に着替えた俺達。俺、空、唯、フィア、シルフェ、フォレオの六人だ。
ビルの上を吹く強風にローブをたなびかせながらフィアが一歩前に踏み出した。
「待たせたわね。こっちは準備万端よ」
「一仕事、頑張っちゃうもんね!」
「招かれざるお客様は返り討ちです。ちゃんとアポイントメントをとるのですよ」
それを見ると、丸腰の竜人族が高らかに吠えた。
「我は誇り高き竜人族の戦士、セルビス・ヴィスタ! まとめて倒してやるから掛かってこい!」
「拙者はその弟、バルザック・ヴィスタ! 兄者の露払いをさせてもらうでござる!」
双刀使いのバルザックもそれに続いて叫ぶ。
そうかなとは思っていたが、やはり兄弟か。
まぁ、こうなってしまえば相手の事情なんかは関係ない。全力で戦うだけだ。
「いざ、参る!」
その言葉と共に二人のいたビルに土煙が立ち上る。
かと思うと、二メートルほど離れた位置にいたフィアの姿がブレた。
「は?」
「速い!? シルフェ、行きますよ! 雷人、空、唯はあのござるの相手を頼みます!」
「分かった! 行っくよー!」
突然の出来事に困惑する。想像以上の速さだ。
あのセルビスとかいう奴の動き、微かには見えたが突然のことで反応出来なかった。
ビル間の距離は二十メートル程度は離れていたはずなのに、ものの一瞬であいつはここまで辿り着いた。
その事実に冷や汗が流れる。俺でも全力で能力を使えば同等の速度は出せるかもしれないが、それには十分な助走が必要だ。
あの一瞬であそこまで加速するとは……いや、それを予想していなかったから反応が遅れたのだ。
フォレオとシルフェは困惑することもなく、指示を出しながらビルから飛び去った。
すぐに行動に移せるフォレオ達との差。これが経験の差か。
フィアのことは心配だが、恐らく俺達があっちに行っても邪魔になるだけだ。
今すべきことは……。
「空! 唯! 前回戦った感じだと、バルザックはあのセルビスって奴よりは弱いはずだ! 数の利がこっちにはあるんだ。早いとこ片付けてあっちの加勢に行くぞ!」
「あ、そ、そうですね。頑張ります!」
「……了解。訓練の成果を見せないとね」
それぞれが獲物を構える中、土煙の中から何かが飛び出し空中でくるくると回ると目の前に降り立った。
全く、身体強化も無しにこの距離を跳んで来るとか、本当にチートもいいところだな。
そんなことを考えているとバルザックが双刀を構えながら笑ったように見えた。
「確かに拙者は兄者よりも弱いでござるが、前回はただの様子見でござる。……見たところ、あの奇怪な植物を生やす小娘もいないようでござるな。お主らだけで拙者に勝てるなどと、侮っていると痛い目を見るでござるよ!」
叫びながら真正面から突っ込んできたバルザックの振う刀をこちらも属性刀で受ける。それと同時に刀を通してカナムを流し込んだ。
「ふん、この程度、分かっていれば耐えられるでござるよ!」
「っ! 足止めにもならないか……」
バルザックは一瞬体を震わせたが、そのまま切り結んできた。
やはり速い。何とか目で追うことは出来るが、受けるので精一杯だ。
でも、これが一対一ならじり貧だったかもしれないが、俺には仲間がいる。
「行きますよ! 形状変化!」
「僕もいるからね!」
空がバルザックの懐に潜り込み、超振動破砕グローブを付けた拳を握り締めて殴りかかる。
反対からは唯が聖剣を上段で振り下ろしており、形状変化で剣先が分かれ、まるで鞭のようにしなりながらバルザックに襲い掛かる。
俺もそれに合わせるべく、バルザックの刀を弾きながら同時にカナムを固めて複数の杭を作り、バルザックに向けて撃ち出した。
刀は俺の攻撃を防ぐので精一杯のはずだ。
躱すにしても、空と唯の攻撃を全て躱すには至らないだろう。そう思っていたのだが……。
「なんの、これくらいでは拙者は仕留められないでござるよ!」
瞬間、突然隆起した地面が数十本もの棘状に変化し、周囲に突き立った。




