4-27 その一曲に込めた想いは
会場に響く拍手の音。
音のする方を見ると会長が会場前方にあるステージの上で拍手をしていた。
まさか、会長に助けられるとはな。
決めポーズをようやく解除して観客達に手を振る。
少し気恥ずかしいが、皆が俺達に拍手をしてくれているのだ。
それに応えないわけにはいかないだろう。
「凄かったぞ!」
「こんなの初めて見た!」
「これぞ、能力者のライブだ!」
称賛する声に混じって、
「でもあのレベルの能力を使えるなんてあの子達何者だ? この学校の子だったら見た事くらいありそうなのに」
とか、
「人数的に明らかにナンバーズ以外の子が混じってるよね。誰だろう?」
とか聞こえるが気にしない。
どうせ今後フィア達と学生達が関わる事はないのだ。問題ないだろう。
そして拍手や歓声を十分に浴びて、そろそろ会場前方にあるステージに戻ろうかという時、突然会長が変な事を口走った。
「さて、これで両チームのパフォーマンスが終了したね。だからこれから投票を行いたい所なんだけど……、実は一曲やりたいってチームがもう一つあるんだ。それで面白そうだから僕が許可したんだよね。そういうわけで皆。もう一曲、是非楽しんでいってくれ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
チームA,Bのパフォーマンスで盛り上がっている観客達から期待の声援が上がる。
それにしても、もう一チーム?
一体誰が……というか、それなら早くステージから下がらないと!
そう思った瞬間、突然背中を誰かに押された。
「え? フィア? 何を!?」
ステージから落ちていくその瞬間、視界の端で同じようにシルフェに落とされている空と、観客の元に飛び降りている天音さんの姿が見えた。
一体何のつもりで……そう思った時、フィアが小声で悪戯っぽく笑いながら言った。
「いつも頑張ってるあんた達に私達からのプレゼントよ。有難く受け取ってよね!」
観客達に支えられる形で落とされると、既にステージの四方向でフィア、フォレオ、シルフェ、そして唯の四人がポーズを構えていた。
「それじゃあ、もう一曲行くわよ!」
「これは、いつも頑張っているあなたに贈る曲です」
「皆にエールを届けるよ!」
「レセフィラで、【ラブ・エール】です。……あっ、聞いて下さい!」
唯の言葉がやまびこの様に会場中に何度も響き、完全な静寂が訪れた瞬間、音が弾ける。
軽快に流れ出した音楽と共に光が溢れ、再び能力を使った演出が会場中に煌めく。
さっきまでのものと比べると若干控えめの演出だが、その演出からはどことなく温かさを感じた。
曲の歌詞に合わせてシルフェの創り出す小物、フォレオの水、フィアの氷、唯の聖剣がその形を変えて、物語を紡ぐ。
その演出を四方向で同時にやる事で全ての方向から見えるようにしっかりと配慮されている。
レセフィラの曲【ラブ・エール】は恋愛ドラマの主題歌になった曲で、そのドラマの内容に沿った歌詞が特徴的だ。
その内容は本人の前で素直になれない女の子が、陰から少年の頑張りを見守っているというもので、最後には勇気を振り絞って本人に直接エールを送る。
誰にも見られていないと思っていた努力も、見ている人がいる。
そして認め、想ってくれる人がいる。
そんな、あったらいいなという妄想のような内容ではあるが、心温まる。人を元気にさせる。そんな内容の歌詞だ。
これを、フィアは俺達に送ると言った。
それはつまり、フィア達が俺達の頑張りをいつも見ている。頑張れと言ってくれているのに他ならない。
頑張りを認められたいと、そう考えていたつもりはなかったが……だけど。
「はは、今日は本当に、サプライズが多過ぎだろ」
自分達がやっているとじっくり見る機会は少なかったが、能力の演出もやっぱり良い、綺麗だ。そして、楽しそうに踊るフィアと目が合った。
これはアイドルのライブの時とは違う。きっと勘違いなんかじゃない。
フィアの笑顔が心に染みる。そう思った瞬間、自然と涙が溢れ出た。
「あれ? はは、何だよ。いっちょまえに感動してるのか? これまで、こんな風に泣いた事なんて、なかったんだけどな……」
涙で霞みそうになる景色を見逃すまいと涙を拭う。
この光景は、今日という日は、例え何があったって一生忘れる事はないだろう。
曲が終わり手を振るフィアの笑顔を目に焼き付ける。
ライブは最後の最後まで、大きな歓声に彩られて幕を閉じたのだ。
前話に続きこれも書きたかった話でした。これにて学園祭は終了です。
タイトルは回収してしまいましたが、まだまだ今章は終わりませんよ!
話数的にはおよそ折り返しです!
まだバトルパートが残ってますからね。
引き続き、よろしくお願いします!




