4-25 その手を重ねて
「皆、楽しんでるー!?」
「おおおおおおおおおぉぉ!」
「さっきの会長からの説明通り。私達がAチーム。その後にやるのがBチーム。後で良かった方に投票をしてもらうから、ちゃんと見て覚えておきなさいよ!」
「僕達がやるのは皆さんも一度は聞いた事があるであろう曲です。最近、炭酸飲料のCMに使われた事でも有名な曲ですね。それでは聞いて下さい。Rock・OF・Ticketで、【BRAVE】」
風人の言葉と共に一瞬の静寂。
そして、剱持さんがバチを打ち鳴らすと重厚な音が一気に静寂を切り裂いた。
相変わらず上手い。音だけで体が震えるほどだ。
リハーサルの時でも十分過ぎる程だったが、この演奏は明らかにそれを上回っている。
それだけじゃない。
前回は男性陣だけが歌っていたが、今回はどうやら剱持さんと天衣さんも歌っているみたいだ。
元々のグループには女性のボーカルはいない。
つまりこれはアレンジだ。
しかし、それが曲を崩す事もなく寧ろ底上げしているのが素人でもありありと分かる。
まさか、この二日間でさらに改良してここまでに仕上げて来るとは思わなかった。
それは、彼女達の本気の表れか。有名な曲がプロ顔負けの演奏で流れ、会場はどんどんヒートアップしていく。
演奏しているメンバーのその姿は非常に様になっているし、間奏のマイクパフォーマンスにも余念がない。
そして、最後のサビの部分。そこで観客達の盛り上がりが最高潮に達する。
完璧だ。そうとしか言いようがない演奏が目の前で行われている。
ここまでのレベルにするのにはきっと会長の力だけでは足りないだろう。
華々しいステージの影には相応の努力があったはずだ。
今の俺にはそれが痛いほどに分かった。
その素晴らしい演奏が終わった後、余韻を楽しんでいるかのような静寂が会場を包む。
演奏者達の息遣いだけがマイクを通して聞こえる。
そんな中で拍手が一つ。静寂を破ったのは、フィアだった。
「凄い。素晴らしいわ。相手にとって不足は無いわね」
それを聞き、これまで忘れていたかのように拍手は会場全体に広がっていく。
皆テンションが上がっているのか「お前らが優勝だ」だの「最高の時間をありがとう」だの、そんな声が聞こえて来る。
そんな中で後ろから肩を叩かれ、振り向くと皆と目が合った。
改めて仲間達を見る。
さっきはそこまで気が回っていなかったが、改めて見るとフィア達女性陣の衣装も完璧だった。
可愛らしく統一感があって、それでいて同じデザインの衣装は無い。
それは、俺達は一人一人違うけど、一つのチームだという事を実感させた。
その時、言葉は自然と出ていた。
「……そうだな。確かに会長達は凄い。努力が伝わって来るし、あの一曲はプロでも通じる。いや、プロ顔負けの一曲だった。……だけど、俺達だって負けてない。俺達の衣装はあっちに負けないくらいにカッコいいし、可愛い。会場は大きいし、俺達の練習に使える時間は短かったけど、それでも俺達は本気で練習をして来た。俺達の個性を生かした秘策だって用意した。俺達にも、プロ顔負けのパフォーマンスが出来る。完璧な演奏を見た後だって、負けてやる気なんて微塵もない。そうだろ?」
皆の顔を改めて見回すと緊張しつつもワクワクしている、そんな顔をしていた。
「当然、やるからには勝つよ」
「相手が凄いからって怯んだりなんてしませんよ。だって、うちらの方が絶対に凄いですからね」
「えぇ、そうですね。不本意ではありますが、会長に勝ってしまう可能性は十分にあると思います」
「うんうん、ここまで練習頑張ってきたもんね。あと一息、最後まで頑張るよ!」
「雷人君は期待し過ぎるなと言いましたが、やっぱり椚祭は楽しいです。だから、最後まで全力で楽しみますよ。勝って、最高の思い出にしましょう!」
「ま、そういうわけだから、私達は全力でやるだけよ。全てを出し切って、それでこのステージも楽しんだなら、どうなったって最高の思い出でしょ?」
不安がない訳じゃない。
結果なんていうのは、やってみるまで分からない。
でも、それは絶対に顔には出さない。
それを顔に出すのは、俺の案に賛成して一緒に頑張ってきた皆を侮辱するのと同じだ。
今、俺がするべきことはただ一つ。
「あぁ、そうだな」
手を前に出すと全員がその上に手を乗せた。
「会場の奴らも巻き込んで、ステージを全力で楽しもう! 行くぞ!」
「おぉ!」
手を天に向かって振り上げると、俺達はステージに向かって歩き出した。
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