4-24 舞台袖にて演者は語る2
俺達が近付くと足音で気付いたのか女性陣が振り向いた。
「あら? ようやく来ましたわね。全く、逃げ出したのかと思いましたわ」
「全くね。相手が不在じゃ締まらないじゃない。これは今年の椚祭のメインイベントなんだから。あんた達も勝負ってだけじゃなくて、盛り上げるのが目的っていうのを忘れないでよね」
「そうですわね、祭さんの言う通りですわ。一方的なステージではつまらないですもの。あなた達も私達に負けないくらいのちゃんとしたパフォーマンスを仕込んで来たのでしょうね?」
こちらを測るような挑発的な視線に、分かっていても少しばかり苛立ちを覚える。
焚きつけてきているのだろうが、言われるままで黙っていられるか。
俺は視線を逸らす事無く一歩前に踏み出す。
「えらい自信だな。この前見せられた時は確かに驚いたが、あれから俺達は秘策を用意したぞ。それに一層練習を積んできたからな。今日は負けるつもりはないぞ」
「秘策? 実力で勝負出来ないからって小細工をするつもりじゃないでしょうね?」
「俺達のパフォーマンスを見た事もないのに、随分な自信だな。そんなことを言っていられるのも今だけだぞ」
挑発に強気で返す。若干子供っぽい返しになっている気はするがそんなのは気にしていたら負けだ。こういうのは言い返さない方が問題だろ?
そう思っていたのだが、続く言葉に俺はたじろぐことになった。
「そんなのは見たことなくたって分かりますわ。私達がリハーサルをしたあの日のあなた方の反応を見ればね。本気で驚いてるって顔に書いてありましたもの」
「え……マジ?」
「マジですわ」
天衣さんの何を言ってるんだと言わんばかりの視線に気勢が削がれ、周りに視線を向けると剱持さんや五角さん、御岳さんが頷いた。
あ、トーンが本気だ。
俺って意外とポーカーフェイスが出来てなかったのか? ちょっとショック。
若干本気で落ち込んでいると後ろから肩を叩かれた。
驚いてそっちを見るとそこには呆れ顔のフィアがいた。
「何やってるのよ。やる前から気持ちで負けてどうすんの」
「あ、フィアか。悪い」
「……服装からしてそっちの曲はアイドル曲ですの? という事は、演奏ではなくダンスをするのですわね。観客の大半が学生だから親しみやすいアイドル曲にしたのでしょうか? それとも、演奏じゃ勝てないから逃げたんですの?」
尚も挑発してくる天衣さんに対して、フィアはこれまた呆れた顔を向けた。
「こっちを奮起させようとしてるんでしょうけど、要らないお世話よ。私達は負けるつもりで来てないもの」
「そうですね。うちらがあなた達の演奏にビビって本来の力を出せないとか、そんな事はありません。そちらに心配してもらわなくてもいいのですよ」
フィアとフォレオの言葉に鳩が豆鉄砲を食らったようにキョトンとする天衣さん達。だが、すぐに持ち直したらしく笑った。
「あはははは、見透かされてるじゃない。分かり難い心配は心証を悪くするだけだから止めとけって言ったけど、心配することなかったわね」
「むぅ、そちらの方々は思ったよりも大人ですのね……。参りましたわ。侮辱するような物言いをしてすみませんでした」
お腹を抱えて笑う剱持さんと、恥ずかしそうに顔を赤らめる天衣さん。
……やっぱり焚きつけるのが目的だったのか。
そうじゃないかとは思っていたが、核心があったわけではなかったし、口喧嘩に負けて本気で落ち込んでしまった。フィアはやっぱり凄いな。
「バレた以上、無粋な事は止めますわ。お互い最高の舞台にしましょう」
「えぇ、もちろんよ」
互いに前に進み出て握手をする天衣さんとフィア。
そんなタイミングを見計らったかのようにステージ側から近付いてくる影があった。
「随分と仲良くなったみたいだね。さぁ、そろそろステージの時間だ。準備は万端かな?」
「もうとっくに出来ていますわ」
「後は、あんた達三人が着替えるだけよ」
「おっと、それは失礼しました。それでは……行きましょうか」
風人の言葉に合わせるかのように三人が上着を脱ぎ棄ててジャケットを羽織った。その動きの一つ一つが洗練されていてカッコいい。
それを見た剱持さんの顔が赤くなるのが見えた。
やっぱり女性からしたら冴えない男より、ああいう所作がカッコいい男の方が良いんだろうな。
しかし、どうしてあんな動きがさらっと出来るんだ?
まさか練習でもしたのか? あいつらが? 想像出来ないな……。
「さて、お手並み拝見と行きましょうか」
「そうだな。一度は見てるけど、あれは俺達が超えるべき壁だ。改めて確認しておこう」
会長達が再びステージに出ると、会場中が歓声に包まれた。




