4-22 いざ対決の会場へ
「あ、兄さん達です。ようやく見つかりましたね」
「ほんとだ! お兄ちゃん! やーっと見つけたよ。どこ探してもいないんだもん」
「その声は……」
聞き覚えのあるその声に振り返ると、案の定というか哨と芽衣がそこにいた。
二人はスタスタと近付いて来るとフィアとシルフェに挨拶をする。
「皆さん、お久しぶりです。元気そうですね」
「フィアさん、シルフェちゃん、空君に唯さんも久しぶり! って、一人増えてる!」
「……お兄ちゃん、という事は雷人の妹さんですか?」
「いえ、私の兄さんはこっちです。ふふ」
「呼び捨てだよ! またなの!? お兄ちゃんがいつの間にか女たらしに!」
哨は空の腕に抱き着き、芽衣は大声で叫びながら腕をぶんぶんと振り回して、全力で怒りを示した。それを見た俺はそれを慌てて否定した。
「は!? いや、違うからな? 大声でそんな事を言うんじゃない」
「なるほど、うちはお兄さんの女とかじゃないので安心して下さい。うちはフォレオって言います。二人は何ていうのですか?」
「私は兄さんの妹で哨です。芽衣のお目付け役でもあります」
「私はお兄ちゃんの妹の芽衣だよ。あ、姪じゃないよ? 芽衣だからね。……それにしてもまた可愛いなんて。例の会社の人?」
「例の会社……。妹さん達は知っているんですか?」
フォレオがこっちを見て聞いて来るので頷いて見せる。
「なるほど、そうでしたか。それなら話は早いです。うちはフィアの妹で同僚です。よろしくお願いしますね」
「え? フィアさんの妹さんなの? それにしては似てないような……」
「まぁ、それには色々と事情があるのですよ」
「芽衣、こういった場合は何か踏み込まれたくない事情があるかもしれません。あまり深く聞かない方が良いです」
哨の言葉にハッと口に手を当てて驚いて見せる芽衣。
確かに、二人の関係は俺も気にはなる。
身体的特徴からして明らかに種族すら違うしな。
とはいえ、プライバシーに関わることは興味本位では聞かない方がいい。
特にこのケースなんてデリケートな問題の匂いがぷんぷんするしな。
「なるほど、不躾なことを聞いちゃってごめんなさい。ところで、皆はこれからどこに行くの?」
とりあえず、すぐさま話題を切り替える辺りはさすがだと言っておこう。
「俺達はこれからパフォーマンス対決があってな。それに向かうところだ」
「パフォーマンス対決?」
芽衣は聞き返しながら可愛らしく首を傾げて見せる。
やっぱりうちの妹は最高に可愛いな。これは誰が見ても明らかな事だ。
断じて、俺がシスコンという事ではない。
「そうなの。これから向こうにあるステージでパフォーマンスをやって、観客にどっちが良かったか投票してもらうのよ」
「あぁ、そういえば貰ったパンフレットにそんな事が書かれていた気がしますね」
「なんか面白そう。決めた! 私もお兄ちゃん達を応援しに行くよ! もうこの時間だと模擬店も残りかすだしね」
「おい言い方、気をつけろよ?」
「そうですよ、芽衣。もう人気の食べ物は売り切れてますし、演劇とかの最終上演にも間に合わないので、実際に残りかすですが。例え本当の事でも言ってはいけない事もあります」
「言ってるわね……」
「おい、説得力ゼロだぞ」
「あはは、そうだね、気を付ける。んー、それにしても周りの人が大分減ってきてるね。もしかしてそのパフォーマンスを見に行ってるのかな?」
そう言われて周りを見てみると、確かに出し物を見て回っていた時に比べて格段に人が少ない。
それに模擬店とかも片付けに入っている所が多く、祭りの終わりを彷彿とさせるな。
「そうかもしれませんね。開始時間ももうすぐのはずですから」
「生徒会長が宣伝もばっちりやってたみたいだったもんね。結構見に来るんじゃない?」
「え? そしたら急いだ方が良いんじゃないの? 時間大丈夫?」
芽衣に言われて時間を確認する。流石に、遅刻するようには動いてないが……。
「開始まではあと二十分とちょっとくらいだけど……始まってすぐやるわけじゃないはずだから、出番まではもう少しあるかな。ここからじゃ遠くないし余裕だけど、あんまりギリギリすぎるとさすがにマズいか」
「そうね。心の準備もあるし、少し急ぎましょうか」
そして少し早歩きで向かうと十分前には会場に到着した。
関係者と観客では入り口が違うので、芽衣と哨とはここで分かれる事になる。
「じゃあね、二人とも。楽しみにしててね」
「はい。応援してますので、皆さん頑張ってください」
「うん。シルフェさん、また翼触らせてね」
「え……か、考えとくね」
去り際の芽衣の言葉に表情が硬くなるシルフェ。
いつも空が近くにいるだけで超絶柔らかいシルフェの表情がこうも強張るとは……珍しいものを見た。
「うちの妹が悪いな」
「んーん、大丈夫だよ。それより早く行こ。もうあんまり時間無いよ」
「あぁ、そうだな」
そして、俺達は関係者用の入り口から中に入ったのだった。




