4-20 エンジェルメイド爆誕
「そうだ! 私達にもちょっとメイドを体験させてもらえないかしら?」
「は?」
なんだか過剰なサービスが始まってしまい。
あれからの一時間は驚く程の忙しさを見せた。
それが終わってようやく解放されると思ったその時、俺達の当番が終わるのを待っていたフィアが突然そんな事を言い出した。
「何言ってるんだよ。今から他のクラスの出し物を見て回るんだろ?」
「確かに見て回るつもりだけど、でもこんな機会なかなか無いじゃない? だから雷人にも接客してあげたいなと思って。ほら、やらせるばっかりじゃ不公平でしょ?」
公平不公平の話ではない気がするが、要するに俺達に接客したいということか。
確かにこんな機会はもうないだろうし、フィア達にメイド姿で接客されてみたいという気持ちはある。
だけどこの模擬店は俺のものじゃないからな。
勝手が許されるかどうか……。
そんなことを考えているとフォレオとシルフェもこの話に飛びついてきた。
「良いですね。面白そうです。あの生徒会長とやらの手下に言えば、そのくらいの無茶は通せるんじゃないですか?」
「それ良い! 私も、空にメイドさんやりたい!」
二人ともやけに乗り気だな。
確かに隼人に言えば出来るだろうが、俺達だけに接客と言うのはさすがに無理がある。
まして、そんなことを何やらやる気を出している隼人が許すはずがない。
すると空もそう考えていたらしく三人に忠告する。
「まぁ出来なくはないだろうけどさ。メイド体験やってるわけじゃないんだからね? 僕達にだけってわけにはいかないと思うよ」
「そうだな。他のお客さん達にも同じことをする羽目になるぞ。良いのか?」
「私はそのくらいは許容するわ。だって、お祭り感があって良いでしょ?」
「うちもOKですよ」
「私も大丈夫!」
「ふふふ、話は聞かせてもらったぞ! これから三十分限定でメイドさんになるっていうのはどうだ?」
三人が了承した瞬間、どこで聞いていたのか颯爽と現れる隼人。
この耳聡い奴め。
「あら、話が早くて助かるわね。それで? 着替えはどこですればいいのかしら?」
「あ、それだったら案内します。こっちに来て下さい」
流れるように話が決まり、唯の案内で三人が裏方に消えていく。
残った俺達の視線を受けた隼人が後ろめたさを感じたのか言い訳をする。
「いやいや、皆やりたいって言ってたし、お前達も良い思いが出来るだろ? それを売り上げって形で少しばかり還元してもらいたいってだけなんだよ。な?」
「……まぁ、皆やる気みたいだし、別にいいけどな。フィア達にはせっかくの学園祭を楽しんでもらいたいし」
「でも、それはそれとして盗み聞きは良くないと思うよ。流石はあの生徒会長直属の諜報員とでも言うべきなのかもしれないけどさ」
「いやいや、これに関しては俺の情報収集能力は関係無いって。ちょうど俺も上がりだったから偶々聞こえただけだよ。なぁ、それより早く席に着こうぜ。受付にも話しは通しておいたから、今ならすぐに座れるぜ?」
前半の話を信じかけていた俺は後半の話を聞いてすぐさま突っ込みを入れる。
「いや、手際良過ぎだろ! お前、やっぱ狙ってたな!?」
「いやいや、俺は可能性を信じただけだって、空は信じてくれるだろ?」
「あはは、まぁ考えるだけ無駄だよね。それよりお言葉に甘えて席に着こうよ。シルフェ達もすぐに来るだろうしさ」
「まぁそうだな」
「お前ら……あっさりし過ぎだろー」
だって、隼人のボケに付き合ってもはぐらかされるのは目に見えてるからな。
そして空いていた席に着き、待つ事三分程。
店内が突然ざわつきだしたと思ったら、唯に連れられて三人がこっちに歩いて来るところだった。その姿を見て雷人達は声を失った。
「な、な」
「あれって、シルフェの?」
「あっはっは、気前がいいな。これは絶対に話題になるぞ」
なんと三人はただのメイド服では飽き足らず、高校生のコスプレレベルとは思えない程に完成度の高い真っ白な翼と、頭に輪っかまで携えていたのだ。
驚いている俺達の前まで来ると若干照れた様子で、フィアが尋ねてくる。
「……ここまでするつもりは無かったんだけど、どう? 似合ってるかしら?」
「あぁ、似合ってる。反則的に可愛い、です」
若干の思考停止に至っていた俺は思ったことをそのまま口に出してしまった。
それを聞いてなのか、若干そわそわした感じでフィアの後ろからフォレオが顔を覗かせる。
「あはは、思わず敬語になっていますよ。どうです? うちも可愛いですか?」
「あぁ、そうだな。可愛いと思う」
正直全員レベルが高い。
メイド服も相まって本物の天使が降臨したのかと思うレベルだ。
いや、本物の天使はいるけども、そこは比喩表現だ。
「空! 私はどうかな? かな?」
「いいんじゃないかな? 見慣れてると思ったけど、やっぱりメイド服だとちょっと違うね」
確かにシルフェは元祖だから、その姿は見慣れていると言えば見慣れている。
だが、ワンポイント違うだけでも印象は案外変わるものだ。
服がトーガじゃなくなるだけでも新鮮さがあるな。
空の感想を聞いたシルフェは曖昧な返事だったにもかかわらず、満面の笑みで言葉を返す。
「そう? じゃあ、また家でもやってあげるね!」
「ちょっ! ここでそういう発言はしないで! あぁ、もう。僕は可愛いと思うよ……」
「本当? えへへ、それなら良かったよー」
空は落ち着いて流すつもりだったようだが、シルフェの天然には空もたじたじだった。
シルフェのコスプレ能力が光る!
重さ、質感を弄れるこの能力なら、足りない身体的特徴は補える。
翼! 天使の輪! ケモミミ、尻尾もなんでもあり!
出来ないのは既にあるものを無くすことくらい、優秀過ぎないか……?




