4-17 お嬢様方のお帰りです! 1
始まる前はどうなる事かと不安もあったが、いざ始まって見るとなんだかんだで楽しくなってきた。
執事なんて柄ではないが、お嬢様方からの評判は結構良いし、そんなにアニメキャラに似ているのか写真も求められるくらいだ。
メイド&執事喫茶なんて行った事もなかったが、やってみると存外悪くもないな。
「お、おいしくなーれ! 萌え萌え、キュン! ど、どうでしょうか? おいしいですか?」
「最高だよ! それにしても君、本当に可愛いね!」
「あぁ、こんなの一生分の思い出だよ……俺、今死んでも悔いは無いぜ……」
なんだかんだで、唯の接客が一番評判が良い。
やっぱり恥じらいがあるのが良いんだな。
業務的にやられてしまうと盛り上がり切れない部分もあるだろうが、恥じらいのおかげで唯元来の可愛さが引き立っていて、あれは萌える。
一方で俺達はというと……。
「おいしくなる魔法をお掛けします。魔法のスパイスを一摘まみ。さぁ、これでおいしくなりました。どうぞ、お召し上がり下さい。お嬢様」
「今日は特別なんだからね。これには僕の気持ちを隠し味に入れたんだ。ほら、食べなよ、お嬢様。冷めたらまずくなっちゃうだろ? ……は? 食べさせて欲しい? ……しょうがないな。ほら、口を開けなよ。あーん」
「きゃー! 似てる! この紳士な感じ、やっぱり良い!」
「はうぅ! ぶっきらぼうな感じが素敵! 原作再現最高ぅ!」
「私も! 私もあーんってされたい!」
人気なのは良いんだが、楽しくもあるんだが、……正直言うとめっちゃ恥ずかしい。
相手が知らない人達だからまだ何とか出来ているが、これが芽衣や母さん相手だったら演じきれる自信はない。
とはいえ、カッコいいキャラに恥じらいは不要だ。
むしろ恥じらってしまった方が恥ずかしいくらいだ。
だからこうなった以上はやるしかない。ええい、ままよ!
「なんだよお前ら、完璧じゃねぇか。執事喫茶でバイトでもしてみないか?」
「やるわけないだろ(でしょ)!?」
羞恥心に蓋をして営業スマイルの仮面を被ってひたすら接客する。
他の奴らも頑張ってるんだ。後一時間、なんとか耐えてやる。
そう気合を入れたその時、店の入り口の方から声が響く。
「おーい、雷人! 空! ご指名だぞ!」
「ご指名? いつから指名制になったんだよ……ホストじゃないんだぞ? と言うか一体誰が……」
「指名って、まさか……うげっ!?」
雷人と空が店の入り口に目を向けると、そこにはよく見知った顔が並んでいた。
何やら目を輝かせるシルフェに、関心顔のフィア、面白がっているような視線のフォレオ……。
うっ、行きたくない。
心底嫌そうな顔で空と顔を見合わせていると再び入り口のクラスメイトから声が掛かったので、諦めて渋々入り口に向かった。
すると、腰に手を当てたフィアが少し不機嫌そうな顔をしていた。
「あー、随分と早く来たんだな。というか入場チケットを渡し忘れてた気がするが、よく入れたな。隠れて入ってきたのか?」
「そういえば、雷人達くれなかったわよね! 私達が入れなかったらライブどうするつもりだったのよ」
「ここは最低限しっかりとしてくれないといけないところですよ?」
フィアとフォレオの指摘に俺は空の方に視線をずらした。
「あー、いや。空が渡すかと思って?」
「あ! 僕の所為にして逃げるつもり!? それは許さないよ!」
「私は空から貰いたかったなぁ」
「う、そんな目で見るのはやめて……罪悪感が、ごめん。僕が悪かったからさ」
威勢よく怒るもシルフェの潤んだ瞳を見て狼狽える空。
将来はシルフェに振り回されるようになりそうだな。あ、今もそうだったか。
「まぁ、なんだ。それについては悪かったよ。気付きはしたけど後で迎えに行けばいいかと思ってな」
本当のところ実際に忘れていて学校に着いてから思い出したのだが、自分達の店がこれだと知ってむしろ良かったと思っていたのだ。だというのに来てしまうとは……。
「まったく、しっかりしなさいよね」
「本当です」
「ははは、今後は気を付けるよ。それで、結局どうやって入ってきたんだ?」
俺が尋ねるとフィアが懐から何やら見覚えのある封筒を取り出した。
う、この封筒、ラブレター事件を思い出すな……。
いや、それは置いといて、この封筒ということは……。
「生徒会長さんが招待状をくれてたのよ。まぁ、この件は会長さんのおかげで入れたし、とりあえずいいわ。それよりも、来るのが遅かったじゃないの。私達の相手はしたくないって言うの?」
「……」
「まぁまぁ、そう言わないであげましょう。雷人達もうちらに見られるのは恥ずかしいんでしょうから」
無言でいるとにやにやしたフォレオがそう言い、それを聞いたフィアが首を傾げた。
「恥ずかしい? なによ、恥ずかしがる事なんてないじゃない! それって白執事のキャラクターでしょ? 似合ってるし、カッコいいわよ! ほら、キャラがキャラなんだから胸を張った方が良いわ!」
「お、おう!」
褒められても恥ずかしさが消えたりはしないが、なんだかんだでカッコいいと言われると悪い気はしない。その時、なぜか呼び込みのクラスメイトに肘で突かれた。
「おい、どこでこんなかわいい子達と知り合うんだよ。羨ましい奴らめ」
まぁ、そうだよな。お世辞抜きにフィア達は可愛い。
そんなフィアがこう言ってくれているのだ。今更恥じらってもいられないか。
そう考えると咳払いを一つして仕切り直す。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。お嬢様方、席へご案内させて頂きます」
そう言ってなるべく自然に礼をすると、フィアはにっこりと笑い、フォレオは顔を赤らめた。
「うんうん、原作への敬意は大切よね。流石は雷人!」
「あぁ、揶揄っていましたけど、これはこれで……。悪くありませんね」
そうやって俺が対応しているのをじーっと見つめるシルフェと気まずそうな空。
そして、くるっと空に顔を向けたシルフェはキラキラした瞳を向けた。
「ねぇねぇ、空も、やってくれるの?」
「あぁいや、その……、くっ! ……おかえり、お嬢様。待たせて悪かったね。ほら、こっちに来なよ。僕が案内してあげるからさ」
「うん! 案内されるね!」
そうして、三人を席に案内したのだった。
年内最後がこんな話でいいんです? いいんです!
尚、この物語はフィクションであり、実在の(ry
というわけで、実際の執事喫茶ってこんな感じじゃないです。
メイド喫茶でイメージする「おいしくなーれ! 萌え萌え、キュン!」を女性向けバージョンにしようと思案した結果こうなりました……。
実際がどうなのか、気になる方は執事喫茶に行ってみるのもいいですね。
さて、今年はここまでお付き合い頂きありがとうございました。
毎日更新はいつまで続けられるか分かりませんが、頑張っていくので来年もよろしくお願いします!
(ᓀ‸ᓂ)よいお年を




