4-14 おち、おちつ、けるわけないのですよ!?
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
掛け声と共に剱持さんがバチを打ち鳴らし、突如として重厚な音が響いた。
「……っ!」
「これ、は……」
ただの学生が弾いているとは思えない重みのある音。
イントロの部分だけでもそのレベルの高さが理解出来た。
風人と隼人がギター、御岳さんと五郭さんがベースを弾いていて、その息が合っているからというのもあるとは思うが、この重厚感はただ人数が多いから出せるものだとは思えない。
まさか、これが会長の調律の力なのか?
そう思って見ると、会長は一番後ろで何やらDJのような事をしていた。
くそ、何もしてないようで一番仕事をしているのが地味に腹立つ。
「———♪ ——♪ ———♪」
歌は風人と隼人が歌っているみたいだが、これまた上手い。
曲はロックの名曲で、確か先月の月間売上ランキングで一位を取っていた曲だ。
歌手の声が特徴的で非常にカッコいい曲なのだが、それに負けないくらい上手い。
二人のハモリ方も絶妙で文句の付け所がないくらいだ。
俺は歌とかに詳しい人間ではないので細かい事は分からないが、それでも、その歌は素晴らしいと言い切ることが出来た。
曲が終わり、風人と隼人が腕を上に挙げた時、俺達は無意識に拍手をしていた。
文句の付けようがない、プロ顔負けのパフォーマンスだった。
自分達がただの観客なら問題はなかった。
しかしあれは、あの歌を披露したあいつらは、俺達のライバルなのだ。
その事実が俺の心を締め付けた。
「わぁ、凄い凄い! 良い曲だったね!」
「歌についてはよく分かりませんが、仕事に出来るレベルであろう事は分かりました! 凄いです!」
「ふふふ、会長が纏めているんですから、当然です」
無邪気に褒めるシルフェと唯。
そして、澄まし顔の天音さん。
それに対して雷人、空、フィア、フォレオの四人は手を叩きながらも顔を引き攣らせていた。
そんな中、隼人がステージから飛び降りてこちらへ駆け寄って来た。
こっちの心情を読み取られないように慌ててポーカーフェイスを作る。
「どうだったよ。なかなか凄いだろ? 一週間もかけずにここまでのレベルにするのは苦労したぜ」
「あ、あぁ、そうだな。プロって言っても誰も疑わないレベルじゃないか?」
「お! そこまで言ってくれる? それは嬉しいな。それじゃリハーサルも出来たし、今日のところは俺達はもう引き上げるわ。本番はそっちのパフォーマンスも期待してるぜ。いい勝負にしような!」
そう言って去って行く隼人達に手を振り、姿が見えなくなった所で俺達は顔を突き合わせた。
「おいおいおいおい! どうするよ!? あいつら完全にプロレベルだったぞ! これじゃ勝負どころか、俺達ただの晒し者だぞ!?」
「そ、そうね。学生だからって完全に嘗めてたわ。まさか、ここまでレベルが高いなんて……。今のままじゃ私達は完全にそこらの学生レベルよ。アレンジどころか完コピですらないんだもの。これは……ステージに合う、合わないなんて言ってる場合じゃなかったわね……」
「そうはいっても、もう二日もないんだよ!? 今から死ぬ気で練習したってあのレベルにはとてもじゃないけどならないって!」
「お、落ち着きましょう。そう、落ち着くのです。おち、おちつ、けるわけないのですよ!?」
「フォレオ! 壊れるんじゃない! しっかり気を保て!」
俺達が慌てていると、状況がよく分からないといった感じでシルフェ達が遠巻きにこちらの様子を見ていた。
「あれ、何してるの? 楽しい事かな?」
「どうでしょう? あまり楽しそうには見えませんが……」
「勝てない事など元から分かっていた事ですのに、今更慌てても意味はないですよ?」
「いや! 今の状況を理解しなさいよ!」
フィアの悲痛の叫びで何やらまずいようだと悟ったのか、おずおずと近付いて来た三人……と言っても天音さんは分かっていたみたいだが、に事情を説明した。
すると、シルフェが不思議そうに首を傾げた。
「つまり、私達のパフォーマンス……があの人達のよりもすっごい下手ってこと?」
「ざっくり言うとそういう事でしょうね。感心するばかりで自分達のレベルとの乖離にまでは気が回っていませんでした。すみません」
「そう、そういうわけだからさ。どうするのかを至急考えないといけないわけだ。このままじゃ俺達全員、全校生徒の前で笑いものだぞ」
「さすがに笑いものにはならないと思うけど、あれと比較されるのは勘弁してもらいたいわね……」
「ふーん、でも、それならやっぱり練習するしかないんじゃないの?」
シルフェの言葉は無難ではあっても最良ではない。
これだけの実力差を目の当たりにすると、どうしたって焼け石に水なのだ。
「そうは言ってもな。残り時間からして、マシにはなってもあのレベルには到底ならないぞ」
「うーん、やっぱり突飛な策と言うか、プラスになるような工夫が必要だよね」
空の言葉に俺達は全員で頭を悩ませるのだった。
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