4-10 ライブの余韻
ラフェリア「んー今日も終わったねー」
シュカ「新曲も反響良かったよね。まぁ、サプライズにしたからファンのテンションが上がってたのはあるだろうけどさ」
セレナ「まーそうだけど、諸々含めて今日の出来を考えると大成功なんじゃない?」
フォビス「えぇ、良いライブになったと思います」
レイラ「それでは、次はもっとも―っと良いライブにするために反省会でもしませんか?」
ライア&フィト「いや! そうじゃないだろ(でしょ)!」
ライブ後すぐの控え室にライアとフィトの声が響いた。
それに対してフォビスはゆっくりとこっちを向き、レイラはビクッと震えて、セレナとラフェリア、シュカは耳を塞いだ。
レイラ「び、びっくりしました」
ラフェリア「もー、声が大きいよ!」
ライア「いやだって、そんな場合じゃないだろ? フィトを信じるとかいう話はどこ行ったんだよ」
シュカ「あーはいはい、そういえばそんな話もあったよね」
フィト「もう、さっさと着替えて探しに行くよ! ほら、お兄ちゃんも口じゃなくて手を動かして! お客さん達はこんなすぐに私達が出てくるとは思わないだろうし、変装すればバレない筈だよね!」
セレナ「そうだろうね。とはいえ、さすがにあの中から探すのは難しいよね。ライブ中も客席に視線を飛ばしてはみたけど、結局分からなかったし」
ラフェリア「もしいるなら目立つ筈だからすぐに見つかると思ったんだけどねー。意外と髪染めてる人もいるし、会場は演出のために暗いし、大ごさーんだね。もう!」
フォビス「だからと言って、諦めてしまっていてはチャンスを逃してしまいますね。急ぎましょうか」
フィト「ほらほら皆、準備出来た? 行くよ!」
全員「はーい!」
その掛け声と共に、手早く地味な服に着替えて変装した七人は控え室を飛び出して外へと走って行くのだった。
*****
「んー! ライブ楽しかったわね!」
「そうだな。あれを真似をするっていうのは流石に難しいが、参考にはなったんじゃないか?」
「私、こっちに来てから初めての事だらけで本当に楽しいです。このまま私達のライブも成功させたいですね」
「当然です。うちらが手伝う以上は絶対に成功させますよ。うちは歌が得意ですからね。それに関しては任せて下さい」
「私は空と一緒なら何でも楽しいかなー。でも、面白そうだから頑張るよ!」
「あはは、皆凄いね……僕はプロのパフォーマンスを見て少し怖気づいちゃったよ」
「空は心配性ね。大丈夫よ。学園祭の出し物なんだから、失敗しても何にもないわ。気負い過ぎずにいきましょ」
皆でライブの終わった会場の中で話す。
まだ中には人もいるが、帰ろうとする人々でごった返す中に突っ込んで行く気にはなれない。
もう少し時間を潰した方が良いだろう。
「それにしても、こうして人がいなくなってみると、本当に広い会場ですね」
「こんな中で歌っているんですから、やっぱりプロというのは凄いですよね。それにこんな大きな会場が埋まるなんて、一体どれだけの人が来ていたのか。圧巻です」
「あの子達、私達と歳もそんなに変わらないだろうにねー」
実際に俺達がやるステージはもっと小さなものになるはずだ。
だけど、ライブ中のあの熱狂。あの、その場にいるだけで楽しくなってくるような感覚。
どうにかあんな空気を作る事が出来たなら、それは最高の思い出になるだろう。
ちらりと楽しそうに話すフィア達を見る。
フィア達との生活は楽しい。
ついこの間まで目標を失って、ただ惰性で漠然と与えられた仕事をするような生活を送っていた。
そんな毎日は正直退屈だったけど、今は本当に毎日が楽しい。
訓練をすれば自分が強くなっているのが分かるし、こんな大人数で過ごすような事もこれまでなかった。
いつまでもこんな日々が続けば良いと、そう思ってしまう。
だけど、それは叶わない願いだ。
フィア達は邦桜の人間じゃない。事件が解決すれば、どこかへ行ってしまう。
それを止める事は俺には出来ない。かといって、事件を解決しないなんて事も出来ない。
最近は失っていたとはいえ、皆を守りたいというのは昔からの思いだ。
それを曲げるわけにはいかない。
……だけど、例え別れが確定しているとしても、思い出くらいはあっても良い筈だ。
将来、この日々を楽しかったと思い出せるように、そのために今出来る事を全力で頑張ろう。
「なんか真剣な顔しちゃって、どうしたの?」
フィアの言葉に我に返る。しまった、考え込んでしまっていた。
慌ててフィアの方に目を向けるとフィアは柔らかい笑顔を見せた。
「名残惜しいのは分かるけど、いつまでもここにいるわけにはいかないわ。そろそろ帰りましょ」
「……そうだな。とは言っても……外はまだ人ごみが凄いだろうからなぁ」
「そんなの、来た時と一緒で空間転移でちょちょいのちょいなのです」
「そうね。一瞬で家に到着よ」
当然、というように語るフォレオとフィアの言葉に自然と笑ってしまう。
「ははっ、余韻も何もあったもんじゃないな」
「うーん、でもさぁ。こんな所だと誰に見られてるか分からないよ? ここは本島だし、いつも以上に気にしないと」
空がそう言うとシルフェが少し考え、良い考えが浮かんだのか手を打った。
「そうだねー。うーん、あっ! じゃあ私に任せて! んー! そーれっと!」
そう言うとシルフェの髪が突然勢い良く伸び、俺達全員を包み込んだ。
と言っても、上は開いているので真っ暗になったりはしない。
「えーっと、これってどういう状況なんでしょうか?」
唯が周りを覆うシルフェの髪を触りながら、困惑したように尋ねた。
すると、シルフェは可愛らしく口元に人差し指を当てながら説明を始めた。
「えーっとね、今作ったこの壁の模様を変化させてね。まるでここにいないみたいに見せてるって感じかなぁ」
「え!? それって、光学迷彩みたいなものって事? シルフェってそんな複雑な事が出来たんだ……」
「んー、こうがくめいさい? はよく分からないけど、多分そんな感じ! むふふー凄いでしょ!」
適当だな。まぁ、凄いのは確かだけども、これって結局のところ周りからは俺達がいきなり消えて見えたって事だろ? 見られてないだろうな……。
そんな俺の考えを感じ取ったのかフィアが諦めたように笑った。
「あはは、まぁ、転移の光が隠れるだけマシかしらね。それじゃあ行きましょうか」
そう言うと淡い光が輝き、一瞬の後には俺達は家の中にいたのだった。
*****
一方、名古室ドームの屋根の上。
こんな場所にいたら地味な恰好をしていても意味ないのでは? というツッコミはさて置くとして、七人組がドームから出て行く人達を蟻一匹見逃すまいとぎらぎらとした目つきで見つめていた。
ラフェリア「おかしいなぁ、見つからないね。まだ中にいるのかな?」
ライア「姿を見たって言ってるのがお前だけだからな。また見間違えたんじゃないのか?」
疑惑の目を向けられたフィトは手をぶんぶんと振って慌てた様子で否定する。
フィト「そ、そんな事ないよ! ライブ中にも私の布飾りを受け取ってくれてたし! 絶対そうだって!」
シュカ「布飾りは全く関係ないよね」
フィト「シュカはいつも辛辣すぎ! もっとオブラートに包んでよぉ!」
セレナ「ねぇ、マネージャーに確認してもらったけど、もう会場の中にはお客さんいないってさ」
フィト「え? そんなぁ!」
電話をしていたセレナの言葉に崩れ落ちるフィト、他の出口を見ていたフォビスとレイラも戻って来た。
レイラ「こっちもそれらしい人はいませんでしたー。やっぱり見間違いだったのでしょうか?」
フォビス「期待していたのですが、残念ですね」
ライア「結局、今回もダメだったか。まぁ、しゃーないだろ。もっと俺達が有名になれば見つけてもらえるかもしれないし、地道に頑張ろうぜ?」
シュカ「やっぱりフィトは予想を裏切らないよね。分かってたことだから気にしないでいいよ」
レイラ「もう、お兄様はまたそういう言い方を、ダメなんですからね!」
シュカ「あー、はいはい。分かってるよ」
セレナ「でもまぁ、言い方はともかく、気にしないでいいっていうのはまぁそうだよね。ほら、落ち込んでないで今日は帰ろうよ。なんかうち疲れちゃったし」
フィト「うぅ、絶対見たのにぃ」
がっくりと肩を落とした少女は仲間に励まされながら、軽々と屋根の上から飛び降りてドームの中へと消えていくのだった。




