4-8 自己紹介タイム!
「ひゃー、やっと着いたぁ」
「遅かったな。もう少しでライブが始まる所だったぞ」
一番遅れて空とシルフェがやって来た。
人ごみに揉まれた所為か、シルフェに引っ付かれていた所為なのか、ぐったりしている空とは対照的にシルフェは両手一杯に食べ物を抱えてご満悦の様子だった。
「シルフェがあれも欲しいこれも欲しいって聞かなくてさ。シルフェはもうちょっと自重しないとだめだよ」
「だって、おいしい食べ物が多いんだもん! 仕方ないよねー。特にここの食べ物はなんかおいしく感じるし」
「多分このお祭りみたいな雰囲気がそうさせるんでしょうね。でもライブが始まったら皆立つと思うから、ゆっくり食べたりなんて出来ないわよ?」
そう言いながらフィアは途中の売店で買ったポップコーンを食べている。あれを買うのも結構大変だったのだ。やっぱり人が多過ぎだ。
「大丈夫! 私の髪を巻き付けておけばー。ほら、浮かせられるし、零す心配もないよ」
そう言って見せてきたのはカップに入った唐揚げだったが、なんか口の部分に蓋が付いていた。
売っている時にはそんな物は付いていなかったはずなので、シルフェの能力によるものだろう。
「なるほど、シルフェさんの力はとても便利ですよね。やろうと思えば私にも出来なくはないですが……瞬時に変形させるのはまだ難しいんですよね。こんな所で聖剣を出したら大パニックになってしまいます」
「そういえば、シルフェってまだ服も髪で作ってるんですか? 確か手錠を掛けた時に真っ裸になっちゃったとか聞きましたけど。あんまりその力に頼っていると、いざって時に苦労するかもしれませんよ。能力を打ち消す力って、珍しくはありますがなくはない力なんですから」
「うー、それを言われちゃうとなぁ。でも大丈夫、今はちゃんと買ってもらったのを着てるからね」
フォレオに指摘されるとシルフェが顔を赤くして恥ずかしそうにする。
これまで特に触れて来なかったし、あまり気にしていないのかと思っていたが、そういうわけでもないみたいだ。やっぱり恥じらいは大事だよな。
「ほらほら、いつまでもそんな所に立ってないで早くこっちに来なさいよ。ライブが始まっちゃうわよ」
「そうだね。前失礼するよ」
「失礼しまーす」
ちょうど二人が席に座った時、マイクの電源が入ったキーンと響く音が聞こえた。
いよいよライブが始まるみたいだ。ちらりと隣を見るとフィアがうずうずした顔で始まるのを今か今かと待っている。フィアってこういうのほんとに好きだよな。
その時、突然ドームの照明が消えて完全な真っ暗闇になった。
「きゃっ! 何……?」
暗闇の中フィアが手を握ってくる。いつもならこんな驚き方はしないので、ちょっとびっくりした。
テンションが上がっていたみたいだし、気が緩んでいたんだろうか?
そうだとしたら今日は遊びに来ているんだからな。そのくらいの方が良いだろう。
理由は何にしても頼られてる感じがして少しだけ嬉しい。
俺は手を軽く握り返しながら冷静に振舞って簡潔に答えた。
「ライブが始まるんだろ」
次の瞬間、スポットライトが点灯してステージの中心に立つ七人の男女を照らし出した。
暗転からの明転でちょっと眩しいが、あれは間違いなくレセフィラ・フォシュラだ。
先程見たフィトもいて、観客に向けて手を振っている。
その時、白髪で七人の中で最も小柄な少女が一歩前に出た。
ラフェリア「みんなー! 今日はレセフィラ・フォシュラの全国ツアーに来てくれてありがとー! 皆ご存じ! ラフェリアだよー! 今日も私の可愛さで癒されて行ってねー!」
どうやら一人ずつ挨拶をしていくみたいだ。
今一番熱いと言われるアイドルグループなのに、こういう細かい配慮が出来る点も人気の所以だろうか?
「ラフェリアちゃーん! 今日も可愛いよー!」
「こっち、こっちを見て! ラフェリアたーん!」
……さすがはアイドルだ。少し喋るだけでもファンが熱狂している。
会場の熱が上がっていくのが肌で感じられる。
この辺りは実際に来ないと映像では感じ辛いところだ。
フィト「皆さんおはようございます! レセフィラのリーダーをさせて頂いています。フィトです。歌と踊りで名古室を精一杯盛り上げます! 応援、よろしくお願いしますね?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
お淑やかさを感じさせるフィトの声に対してファンが熱狂的な声援で答えた。
空気がびりびりと震える。
この大人数が一体になる感じ。これも、ライブの醍醐味の一つだな。
ライア「皆盛り上がってるかー!!」
ライアの言葉に会場中から歓声が上がり、ドームが揺れるような錯覚に襲われる。
いや実際に揺れていたのかもしれない。
さっきのフィトの時といい、凄い声量だ。
恐らく今のは会場中のほぼ全員の声に違いない。
俺達も習って声を出してみたのだが、自身の声さえも極小さく聞こえた程度だった。
レセフィラ・フォシュラは二つのグループが合体しているからか、男性と女性半々くらいの比率でファンがいるのだが、そのほぼ全てから声援を貰えるというのは結構凄い事じゃないだろうか?
ライア「……ははっ! 元気ばっちりだな。どうも、フィトの兄でフォシュラのリーダーをやってるライアだ。ファンの皆に楽しい時間を届けられるように頑張るから。皆も最っ高に盛り上がって行ってくれー!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
フォビス「今日は我々のライブに来て頂いてありがとうございます。フォシュラのフォビスです。今日は精一杯歌わせて頂きますので、皆さんも是非一緒に歌って下さい。よろしくお願いします」
セレナ「ははは、硬い、硬いなーお兄ちゃんは。どうもー、レセフィラのメンバーでフォビスの妹のセレナでーす。こんなテンションのうちを応援してくれる皆、ありがとね。大好きだよ。……ってことで、今日もテンション上げて歌っていくから、一緒にノッテいこうね」
他三人がテンションを上げているのに対してかなり落ち着いた様子の二人。
当初はあれはアイドルとしてはダメだとか言われていた時期もあるらしいが、今は違う。
周りに耳を傾けてみれば……。
「あー安心のセレナさんだわ」
「やっぱりあの兄妹あってのレセフィラ・フォシュラだな」
「ずっとテンション上げてたら疲れるもんな。セレナさんは俺達のオアシスなんだ」
などという声が聞こえてくる。
それぞれにちゃんと個性があってそれが受け入れられている。
これが人気の一因なのだろう。
シュカ「それじゃ、最後は僕達だね。知ってるだろうけど、フォシュラのメンバーのシュカだよ。今日はわざわざご苦労様。せっかく来たんだし、肩の力を抜いて楽しんでってよ、よろしく」
レイラ「皆さんこんにちは。シュカの妹でレセフィラのレイラです! お兄様がこんな感じなので、その分は私が元気を届けちゃいますね! 今日も元気にいっちゃいましょう!」
「きゃあああああぁ! シュカ様あああああぁ!」
「このちょっと塩な感じがいい。うん、良い塩梅だよー♡ 染みる―♡」
「レイラちゃん可愛い! 元気貰っちゃうー!」
「うんうん、シュカのちょっと塩の効いた感じにレイラちゃんの甘さが染みるんだよね。やはり兄妹カプは推せるな」
シュカもセレナ達と同様に最初の頃は酷評されていたらしいのだが、この塩な感じが良いという女性ファンが徐々に現れたそうだ。
そして慣れてくると、癒し成分強めなレイラがより映えると男性ファンからも認められ始めたんだとか。
酷評されていてもその芸風を貫き通したが故の人気って事だな。
ラフェリア「それじゃあ、自己紹介はおしまい! さぁー! 早速行ってみよー! まずはこの曲だよー!!」




