4-4 本島に進出
「着いたわ本島! 名古室ドーム!!」
フィアが大きな声で叫ぶと周りの人達の視線がこちらに向けられる。
いかにも田舎者みたいな発言だし、可愛い女子が集まっていれば視線が集まるのも無理はないのだが、なんだかちょっと恥ずかしい。
一応、フィア達には邦桜らしい格好をしてもらってはいるが、なんだかんだで美女揃いだ。
普段の恰好ではなくても目立つのは避けられないんだな。
まぁ、コスプレとは違って正統派で可愛いんだから仕方ないんだが……。
とりあえずそれは一旦置いておいて、俺達は今、ラグーンシティを離れて本島は名古室ドームにやってきていた。
何をしに来たのかというと、一度ライブを生で見たいという希望が多かったので体験しに来たのだ。
実際に俺達がやるステージは本物と比べれば大した規模ではないが、どういう風にするのか参考にするならば本物を見るのが一番だろう。それにしても……
「まさか卒業してないのに本島に帰って来る事になるとは……一体何したんだよ? フィア」
「僕達能力者は許可なく本島には出られないはずなのにね。確かその審査もかなり厳しかったんじゃ」
俺と空がラグーンシティの学生としては当然の疑問を口にするとフォレオが腰に手を当てて呆れた表情をした。
「二人とも、ここまで来てそんな事を気にしているのですか? うちらは邦桜に頼まれて雇われている身なんですから、多少の融通は効くに決まっているじゃないですか。なんと言っても、うちらのバックには宇宙警察がいるんですよ?」
「権力の濫用かよ……。いやまぁ、助かってるから良いんだが」
「ふふん、有難く思うといいです」
別にフォレオの力ではないと思うのだが、なぜか偉そうに胸を張って見せる。
これが虎の威を借る狐ってやつか?
しかし、普段は感じ難いが、こういうのを見ているとフィアと姉妹なんだって感じるな。
一方で、そんな事を話す俺達から一転、そういう事に興味がないのであろうシルフェは一人、ドームを見てはしゃいでいた。
「うわぁ! おっきいねぇ。故郷の神殿くらいあるかも。ねぇねぇ、早く行こうよ!」
「ちょっ! あんまりくっつかないでって! ここは外なんだよ!?」
「そうですね。凄く……大きいです。ライブ楽しみですね! 天音さんも来られれば良かったのですが」
唯の言うように今回来ているのは天音さんを除くメンバーだ。
天音さんは何か用事があったらしいが、どうせ会長絡みの何かだろう。
残念だが来れないものは仕方が無い。
その時一番最初にテンションを上げていたフィアが手を叩いた。
「はい! 静かに! せっかく来れたんだから、ちゃんと楽しんでしっかり参考にするわよ! 皆チケットは持ったわね? さ、入り口に向かうわよ!」
ウキウキオーラの隠せていないフィアが先頭を歩き始めると俺達はその後に続いてドームの入口へと向かった。
流石は今大人気のアイドル、レセフィラ・フォシュラのライブだけあって物凄い人の数だ。
人の流れに入ってしまったら逸れてしまいかねない。
「フィア、逸れるといけないから手を繋いでおこう」
「え!? あ、あぁそうね。逸れるといけないものね。つ、繋いでおきましょうか」
フィアが恥ずかしそうに顔を赤らめながらゆっくりと手を差し出して来るので、その手を握る。
握った瞬間にフィアがびくっと震えたのが分かった。
逸れないようにするためとしか考えていなかったが、こういう反応をされてしまうとなんだか意識してしまう。
何だかこっちまで恥ずかしくなってきた。
顔、赤くなってないよな?
「あ、それでしたらうちも、ってひゃあ」
「あっ、フォレオさん大丈夫ですか……はわっ!」
何があったのか、列の勢いが急に早くなり後ろから押される。
手を繋いでいるので何とかフィアとは離れないでいられるが、フォレオと唯が人の波に流されてしまった。
次いで空とシルフェも流されて行くのが見える……が見えるだけでどうしようもない。
一体どうしていきなり列の進みが速くなったのだろうか?
少し離れた所から空とシルフェの声だけが聞こえた。姿はもう見えない。
「あっ、フォレオと唯が流されちゃったよ。私達も離れないようにしなきゃ。えいっ!」
「うわっ! ちょっ! シルフェ!? だから、なんで抱き着くの!? 離れてって、ここ外だからね!? ちょ、あ、当たってるって」
「当ててるんだよ? ぎゅーっ!」
「あわわわわわ! ちょ、雷人。助け……あれ? 雷人? ……まさか逸れた?」
「私がいるから大丈夫! それにどうせ行先は同じなんだから。あ、あっちに売店があるよ! 何か買っていこう?」
「ああもう……分かった、分かったからさ。抱き着くんじゃなくてせめて普通に手を繋ごうよ……」
なんだかちょっと羨ましい状況になっているが、あれはあれで周りの視線が気になって仕方がないだろうな。
ご愁傷様だ。などと考えていると腕に柔らかい感触が……。
ふとそちらを見るとフィアが俺の腕に抱き着いていた。
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