4-3 出し物決定会議
「えー、というわけで、何をするかを決めるぞ」
家に帰って来てすぐにリビングに集合した俺達は机を囲んで座っていた。今いるのは俺、空、唯、天音さん、そして野次馬精神で近付いて来たフィアとシルフェとフォレオだ。
会長から聞いたイベントの内容はライブ対決だった。
歌っても良し、楽器を演奏しても良し、踊っても良し。
とにかく音楽を含めた何かを披露して、観客の投票により勝者を決めるというものだ。
勝者チームのメンバーは会長が可能な範囲で一つ願いが叶うそうだ。
正直なところこれは勝ちたい。
そもそも勝負事なら勝ちたいと思うのは当たり前なのだが、会長はこの条件を出してきた時にこう言っていたのだ。
「僕が可能な範囲で何か一つ願いを叶えてあげよう。何か欲しい物でもいいし、卒業の権利とか就職先への斡旋とかでもいい。僕にはコネが結構あるからね。期待してくれていいよ」
……そう、卒業の権利だ。
まだ大丈夫だが、フィア達とこれからもやっていく以上は学校に出られない日が増えてくる可能性が考えられる。
つまり、出席日数が足りるか分からないのだ。
それに加え、単純に俺は成績がやばい。
具体的に言うと、毎回何教科かは赤点ギリギリになるくらいだ。
ただでさえそうなのだから、今の成績がどうなっているのかなど説明するまでもないだろう。
ナンバーズである以上は特殊治安部隊への推薦は得ているようなものだが、留年してしまえばその推薦も水の泡だ。
卒業出来なければ未来が真っ暗なのだ。
だから正直な所、俺にはこれを逃す手はない。
既にメンバーの割り振りもおおよそ決まっている。
相手チームは四人の女子ナンバーズ、剱持祭、天衣花蓮、五郭心、御嵩花南と嵐山風人、それに会長と隼人を加えた七人だそうだ。
つまり残りのナンバーズが俺達のチームとなる。
というわけでメンバーは俺、空、会長の指示でこっちに参加することとなった天音光葉だ。
多ければ良いと言うわけでもないが、人数比で考えると向こうが圧倒的に有利な配分だ。
メンバーの分け方からして、フィア達の手伝いをしている俺達よりも向こうのメンバーの結束が重要だと考えているという事だろうか? まぁ、確かにその方が堅実的か。
ちなみに光葉はこちらのチームに来ることを渋っていたが、ライブのルール等について詳しい者がいた方が良いだろうということと、人数差があまりにも開く事を危惧しての会長の配慮だそうだ。密偵でないことを切に願う。
それに加えて唯も参加していいと許可を貰っているので、この四人がメンバーとなる。
相手チームには音の能力を持つ会長がいるのでずるいとも思ったが、音の質に関してはこちらも同様に補助してくれるらしい。
それに採点するのは見に来た全生徒だからな。
会長の息の掛かった数人とかではないので、不正も働き難いだろう。
と……ここで不思議そうな顔をしていた何も知らない三人のうち、シルフェが口を開いた。
「ねぇねぇ、これって何の集まり? 何かするの?」
「あぁ、しばらくしたら学園祭があるんだ。そこで出し物をやるようにって会長から言われてな。これから何をするか決める所なんだ」
俺がそう言うと背筋をピシッと伸ばして座っていたフォレオがにやにやしながら俺を突いてきた。
「何ですかそれ? 面白そうじゃないですか。ちょっと、うちらも混ぜると良いと思いますよ」
「確かに面白そうね。学園祭……アニメや漫画でしか見た事がないわ。私達は参加できないイベントなのかしら?」
唯と同様に憧れでもあったのか、フィアもワクワクが隠しきれない様子でそわそわしながら尋ねてくる。
だから、そんなアニメとかの学園祭みたいには盛り上がるイベントじゃないんだって。
「ダメってこともないけど、基本的には参加するのは生徒とその家族だけなんだよね」
「えぇ~!? ずるい! 私も空と参加したいー!」
そう言いながらシルフェが空に抱き着く。
未だに慣れないらしく、若干赤くなりながらシルフェのほっぺを空が片手で押し返している。
「皆さんも参加されたいという事でしたら、誠也様に確認してみましょう」
「誠也様?」
突然出てきた聞きなれない名前に思わず聞き返してしまった。
すると天音さんが顔を赤くしながら頬に手を当てる。
「ええ、誠也様です。今はプライベートですもの。学校でもそうお呼びしたいのですが……誠也様には断られてしまいまして。誠也様は少しシャイなところがあるんです。うふふ」
「そ、そうなんだな」
なんか普段とキャラが違う気がする。
なんとなく会長に好意を持っていそうだとは思っていたが、本人がいないから歯止めがないのだろうか? どことなく好き好きオーラが漏れ出ている。
そんな事を考えているうちに会長への確認が終わったらしく天音さんは電話をしまうと笑顔で言った。
「ホーリークレイドルの皆さんも参加して頂いて構わないそうです。ぜひイベントを盛り上げて欲しいと。皆さん美人揃いですから、盛り上がる事は間違いないでしょう。ただ……ないとは思いますが、会長に色目は使わないように」
「やりましたね。それじゃあ、何をするのかを決めちゃいましょう」
「はいはい! 私踊りたい!」
「歌うのもいいですよね。アイドルみたいな感じとか憧れます」
フォレオ、シルフェ、唯の声に掻き消されて最後の方の言葉は皆には聞こえてないかもしれないが、俺には聞こえてしまった。
こえーよ! 目とか笑ってるようで笑ってないぞ!
あっ、空が笑ったまま冷や汗を流してる。あいつも気付いたんだな……。
まぁ俺達にはおよそ関係ないんだが、皆会長には興味がないと思うし。
……というかこれで両方七人じゃないか。
会長め、元からフィア達が参加したがることを読んでいたな? 本当に食えない人だ。
とそこで何やら考え込んでいたフィアが声を上げた。
「踊り、歌、アイドル……。ねぇ、それだったらこれなんか良いんじゃないかしら?」
そう言ってフィアが指差したのは特に意味もなく点いていたテレビのCMだった。
そこには最近有名になった本島で活躍するアイドルが映っていた。
「えーと、確かレセフィラ・フォシュラだったか? 最近一気に有名になってきたよな」
「そうなの? なんにしても男も女もいるなら好都合じゃない。どっちもいるアイドルグループって多分、多くないでしょ?」
レセフィラ・フォシュラは一年程前に本島で結成したというアイドルグループだ。
幼馴染七人で結成したというグループで、本当に幼馴染なのかと疑いたくなるくらいには顔が良い。
フィアの言う通り男女混成で、女性四人のグループ、レセフィラと男性三人のグループ、フォシュラがくっ付いて出来ていて、それぞれでも仕事をするというグループだったはずだ。
なのでそれぞれのグループの歌もあるが、今流れていたのはちょうど混成の曲だな。
確かグループ名はそれぞれの芸名から取っていて、女性がレイラ、セレナ、フィト、ラフェリア。男性がフォビス、シュカ、ライアだったはずだ。
確か芸名が一風変わってるって事でも有名なグループだったな。
「そうだね。男女比はともかく人数はちょうどいいし……悪くないんじゃないかな?」
「空が賛成なら私もさんせーい!」
「私も異論はありません」
「悪くないんじゃないですか? 歌もいい感じみたいですし」
「そうですね! 今邦桜で人気のアイドルと言えばレセフィラ・フォシュラで間違いないと思います!」
「そう? それじゃあ決まりね! 皆でこのグループの曲をやりましょ」
こうして内容が決まるとその日は解散となり、俺は早速レセフィラ・フォシュラのライブDVDを購入しに向かったのだった。




