4-2 祭りを盛り上げたいなら企画を練るべし
「会長、連れて来ましたよ」
隼人が生徒会室のドアをノックした後、すぐさまガラッとドアを開けた。
返事を待たずに開けたらノックの意味がないと思うのだが、会長が呼び出したのだから問題はないのかな。
中ではいつもと同じで、ちょっと豪華な椅子に腰かけた会長とその横に天音さんが立っていた。
「やぁ、よく来てくれたね。待っていたよ。さ、座って座って。光葉、皆にお茶を出してくれるかな」
「分かりました。少し待っていて下さい」
会長が席を勧め、お茶まで用意する……だと……!?
これまで俺はされた事が一度もないんだが?
「珍しいですね。会長が気を遣うなんて」
「今回は僕が個人的にしたい事だからね。それに協力をお願いする以上は最低限の礼は尽くすさ」
「こういう風にお茶を出される機会ってあんまりないよね。少し緊張するなぁ」
「この人相手に緊張なんてしなくていいぞ、空」
「それで、学祭のお願いとは何ですか? 私、可能な限り協力させて頂きます!」
「おぉ……、朝賀君はやる気満々だね」
身を乗り出す唯に若干会長が引け腰になっている。
いつも飄々としているからこういう会長を見る機会は少ない。
予想外の事態に弱いんだろうか? いいぞ、もっとやれ。
「はい! 私、楽しみにしていますので!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。企画をする身としては期待してもらえた方が嬉しいからね」
「……そういえば今回はどうして企画なんてしてるんですか? 去年も会長は生徒会長でしたけど、特に何もなかったような」
「それについては少し思う所があってね……。ほら、僕ももう三年生だ。今年度が終わったら卒業だろう? でも生徒会長は長らく僕がやってきてしまったからね。これからの生徒会がちゃんと機能するのか不安な部分があるんだ」
「会長がそんな不安を抱くなんて、明日は雪でも降るんですか?」
「こんな時期に雪は降らないよ。雷人君は相変わらず辛辣だね。これでも僕はこの学校生活を維持するために後ろでは頑張っているんだよ?」
「……知ってますよ、そんなこと。つい最近にも会長が動かなければ生まれたはずの悲劇がありましたからね。でもこうしている方が俺は楽なんです」
「ははは、そうだね。僕と君の関係はこのくらいがちょうど良い。僕がお願いをして、君が文句を言いながらも聞いてくれる。悪くない関係だよ」
「……食えない人ですね」
「お互い様さ。今回の件で体感してもらえたかもしれないけど、今まで学校の周りで大きな問題が起こらなかったのには僕が一枚噛んでいてね。生徒会を動かして対応していたんだ。つまり、僕が抜けたら今まで水面下で押さえていた問題が浮上する可能性がある。そこで、今後はナンバーズの皆にも頑張ってもらいたいというわけさ。ほら、ナンバーズって三年生は少ないだろう? それに力もある」
「まぁ、確かにほとんどが二年生ですね」
「そうそう、一年生がどうなるのかは少し気掛かりだけど、それは今後に期待しよう。とにかく、三年生の僕と隼人が抜けた後のためにナンバーズの結束を高めておきたいんだ」
「なるほど……って、は?」
「会長、今なんて言いました?」
会長の言葉に俺達三人は固まりゆっくりと後ろで黙っていた隼人を見る。
すると隼人はけろっとした顔でさらっと言った。
「あぁ、そういえば言ってなかったな。俺はお前らに近付くために一年生をもう一周してるんだよ。実は事前に試験を受けて、もう卒業資格は満たしてるんだぜ」
「はぁ!?」
「あはははは、君達のその顔、面白いね。そうそう、僕の力があれば学年を誤魔化すくらいは出来ちゃうんだよね」
「ちょっ、えぇ? 一年からって」
「そんな前から俺達に目をつけてたのか!?」
「僕くらいになると入ってくる生徒達の成績は簡単に調べられるんだ。手を貸してくれそうで戦える子が欲しかったから、前から雷人君には目をつけてたんだよ。悪いね」
事もなげに言っているが結構な事だぞ、それ。
……以前、会長は他人を洗脳して従わせる事が出来るとか言う噂を聞いた事があったが、まさか本当じゃないだろうな?
「……文字通り言葉もありませんよ。はぁ、まぁいいですよ。何を言っても今更だし。それで、結束を高めるために何をしようって言うんですか?」
「話が早くて助かるよ。ついでに、学祭を盛り上げてもらって一石二鳥さ。僕の評価も上がるってものだよ」
「あはは、本音が漏れてますよ」
「どっちも本音さ、それで内容だけど……」
その後内容を聞いて俺達はとりあえず家に帰った。
何というか、学祭と関係ない所で疲れてしまった。
しかし、それも過ぎたことだ。考えないようにして頑張ることにしよう。




