四章プロローグ
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「んぅ……ん、ふわぁ……」
小鳥の囀りが聞こえる。
温もりが気持ちいい、温い。
とても幸せな気分。いつまでもこうしていたい。
そう思いつつも目が開いてしまう。
窓から差し込む光が今は朝であることを教えてくれる。
時期としては初夏と呼ばれる暑くなり始める時期だけど、まだまだ朝は快適な気温よね。
目は覚めたもののまだ気怠さが残ってる。
今すぐに布団の温さから逃れるのは至難の業だ。
目を瞑ったまま、もう少しだけと思いながら布団を頭まで被せる。
その時、小鳥の囀りだけでなく、リズムよくトントントンという音が聞こえてきた。加えてジュージューという音も聞こえてくる。
この音は間違いなく雷人が料理している音ね。
自分の部屋からキッチンまではそれなりに離れているからわずかにしか聞こえないけど、なんとなく心地いい。聞いていると凄く幸せな気分になる。
そういえば、三日程シルフェの研修のために家を留守にしたけど、その時になんとなく感じた、何かがぽっかりと抜け落ちたような感覚が無くなってる。
今、凄く満たされているという感じがする。
ほんの二ヶ月程度のことだけど、それほどまでにここでの生活が私の中を占めていたということかしら。
……そう考えると不思議ね。
私はこれまでのホーリークレイドルでの生活に何か不満があったわけでもないし、その生活も幸せだと感じていた。
一体、何が違うのかしら?
パッと思いつく事といえば……雷人と空、そして唯の存在かしら。
ホーリークレイドルの皆は良くしてくれるし、家族のようなものだけど皆年上ばかりだものね。
年齢が近い人といえば、フォレオにルイルイ、レジーナ、後はレオン達くらいか。
やっぱり皆仕事があるし、私も仕事をしないといけなかったから、普段から会っていたのなんてフォレオぐらいのものよね。
それも一週間ほど前までは少し避けられていたから、最近はそれほど関わる事も多くなかった。
今までいなかった友達という存在が、私の中の多くを占めていたという事なのかな?
「うふふ、私は幸せ者ね」
しかし、理由など関係は無い。
今、私は満たされている。日々が幸せ。それで十分だ。
「さて、そろそろ起きないとね」
私は名残惜しさもあったが、温かい布団を退ける。
そして、着替えを探そうとして気付いた。ここは自分の部屋じゃない。
「あぁ、また……」
フィアは手を目に被せて視界を塞ぎ天井を仰いだ。
シルフェが来てから数日の間は起きた時に寝ていた場所から動いてはいなかったから、てっきり雷人の布団に潜り込んでしまう悪癖は治ったものだとばかり思っていた。
だけど、ここのところは段々とその悪癖が戻りつつあった。
ましてや、今日は雷人が出て行ったのにも気付かない程に熟睡していただなんて、こんな事じゃせっかくまたフォレオと話せるようになったのに、疎遠になってしまいかねない。
どうして、私はこうもこの布団に潜り込んでしまうのかしら?
「やっぱり、私って……夢遊病なの?」
最近は少し慣れて来たし、別に雷人の布団に潜り込むのが嫌とは思ってない。
潜り込んだからといって何をされるわけでもない。むしろ、じんわりと感じられる温かさはどこか心地いいくらいだもの。
でも、雷人への迷惑はもちろん周りへの聞こえも良くないし、あらぬ誤解を生んでしまうかもしれない。
「やっぱり、問題よね。……でも、色々試してもダメだったしなぁ」
とはいえ、今は以前のように毎日というわけでもない。
特別何かした記憶はないけど、以前よりは改善はされていると思う。
まぁ、シルフェが来たことによる一時的な改善だった可能性はあるけど……。
そこまで考えた所でフィアはすくっと立ち上がった。
「考えても仕方が無いわね。とりあえず、支度をしないと」
フィアは雷人の部屋を出て自分の部屋に戻ると、パジャマを脱いで部屋着に着替えた。
そして自分の部屋を出て階段を降りると、やはりキッチンには雷人が立っていた。
なぜだろうか? 雷人の姿を見ただけでなんだか幸せな気分になる。
だけど一方で今朝の事があるから、本人を前にすると少しだけ恥ずかしい。
ゆっくりと近付いて行くと、作っている物が見えて来た。
どうやら作っていたのは野菜炒めと目玉焼きだったみたい。
料理は雷人と私で交互に作ってる。雷人はポピュラーな料理しか作らないから、私は色々な料理に挑戦しているのよね。
別に雷人の料理はおいしいし、不満があるわけではないけど、せっかく邦桜に来ているのだから色々と食べたいじゃない?
料理は難しくて大変だけど、最近は少し慣れてきて料理を作るのもなかなか楽しくなってきたし、雷人達もいつもおいしそうに食べてくれるから、モチベーションもかなり高いのよね。
そしてふと、料理に集中していた雷人が顔を上げた。
降りてきた私に気付いたみたい。
「あ、おはよう、フィア」
「おはよう、雷人」
「……なんか良いことでもあったのか?」
雷人が突然そんなことを言ってきた。
若干顔を赤らめながらも不思議そうな顔でこっちを見てる。
どうしてそんな事を聞いてくるのかしら?
「ん? どうして?」
「いや、なんか笑ってたから」
「あれ、私笑ってた? ……まぁ、そうね。良い事はあったかも」
「なんだよそれ」
「ふふ、ないしょ」
「そう言われると気になるな」
こっちを伺うような表情でそう言ってくる。
私の悪癖が治っていないことを雷人がどう思っているのかが少しだけ気になっていたけど、特に機嫌は悪くないみたい。そう思うと心が軽く感じられた。
「ささ、早く準備しましょ。今日は学校があるんでしょ? あんまりゆっくりしてると遅刻するわよ」
「はぐらかしたな? まぁいいか。フィアはコップだけ用意して空達を起こしてきてくれるか?」
「分かったわ。そうだ、これからは食後の食器洗いは私がやっておくからやらなくてもいいわよ」
「そうか? じゃあ頼もうかな」
何気ない会話だけでもなんだか幸せだ。
友達がいる生活というのはこうも素晴らしいものだったのね。
邦桜での仕事が終われば滞在する理由は無くなってしまう。
だから、この生活がいつまでも続く事はないけれど、それが終わってもたまには遊びに来よう。
出来るなら、今の生活がいつまでも続いて欲しいけれど、とりあえず、この星を守るために全力を尽くそう。守るべき漫画やアニメも多くあるしね。
フィアは改めてそう決意した。
そして、空達を起こしに行こうとしたその時、窓の外に手紙を咥えた鳩を見つけたのだった。




