3-75 もう一つの戦い3
フィアがなかなか空気を読んでくれない。
だが俺が事情を知っている事などフィアは知らないし、事情を言えるわけもない。
なのでとりあえず、しれっとした顔で会話を続ける。
「特訓?」
「そうよ! そろそろS級の皆も時間を作れるようになるはずだわ。どうにかお願いして少しずつでも見てもらえる様にしましょ。これでも一応、私は社長の娘なんですもの。聞き入れてくれるかもしれないわ!」
「なるほど、確かにそれは良い考えだな」
「そうでしょう?」
得意気なフィアとしょぼくれるフォレオ。
この流れになったら、もはやフォレオでは言い出せまい。
それにしても忘れていたが、フィアもフォレオも社長の娘だったな。
稀にしか受けられないマリエルさんの特訓もかなり力になってるし、他のS級社員にも頼んでくれるなら願ったり叶ったりだ。
フォレオの手助けはしたいが、この話を折るのは避けたい所……仕方ない。些か不自然だが、無理やりに押し通るか。
「とはいえ、備えはあった方が良いよな。どうだ? フォレオにも参加してもらうっていうのは」
俺がそう言うと明後日の方向を向いてプルプルしていたフォレオがびくっと震えた。
どうやらこっちに聞き耳を立てているらしい。
そんなフォレオをフィアがちらりと見た。
「フォレオ? でも、私がいる以上あの子がこっちに来るとは……」
「そ! そこまで言われてはしょうがないですね! フィアに任せるのも不安ですし? 今回手伝ったのも何かの縁です! 残った仕事を片付け次第、手を貸してあげようじゃないですか!」
フォレオが突然立ち上がり、絶対に話を遮られるものかと言わんばかりの早口で言い切った。
今更だが普段とかなりキャラ変わってるけど、大丈夫か?
フィアもいまいち状況が呑み込めていないのか、どことなく呆けた顔をしている。
一瞬の沈黙が訪れる。フォレオはといえば、フィアの反応から自分のキャラ崩壊に気付いたのか恥ずかしそうに顔を赤くしてこっちをちらちらと見てくる。
いや、恥ずかしいのは分かるが俺にどうしろと?
「そ、そう? フォレオがいいなら私は別にいいんだけど……」
フィアはそう言った後、フォレオと俺を見比べ、何か納得したように頷いた。
「あぁ」
「ん? あぁって、何に納得したんだよ」
「や、や、気にしなくていいのよ? いいの、いいの」
そう言った後、何やら胸に手を当てて黙るフィア。
自然とそれに釣られて視線がフィアの胸に……いかんいかん。
そんな事を考えているとようやく落ちついたのか、フォレオがこっちに向き直った。
「こほん。それじゃあ、そういうことで、近いうちにまた来ます」
「あ、うん。仕事急ぐっていっても無茶はしないでね」
「分かっていますよ」
そう言って柔らかく笑うとフォレオは転送で消えていった。
残った俺達は少しの間、フォレオのいたその空間をじっと見つめていた。
するとフィアがぽつりと呟いた。
「何はともあれ、フォレオが私に対して邪険にしないなら、また昔みたいに……」
「なれるだろ。フォレオのことはフィアよりは知らないけどさ。俺にだって悪い子じゃないってのは分かるからな」
「……そうね」
またフィアが胸に手をやり、目を瞑る。
一体何を考えているのか。
俺には真相は分からないがフィアの事だ。
フォレオの事を考えているに違いない。
この二人の仲が元通りになる日もそう遠くは無いだろう。
素直にそう思うことが出来た。
少しして、フィアが目を開けパンっと手を叩いた。
「さっ! 一件落着したことだし! シルフェの研修も終わったし! 今日はご馳走を作りましょうか!」
「それいいな。おい空、何か食いたい物とか……」
そう言って空の方を見た俺とフィアは笑顔を顔に張り付けたまま後退った。
なぜかといえば……。
「タス……ケテ」
「はぁ……はぁ、そらぁ」
なぜか伸びたシルフェの髪が空とシルフェをぐるぐる巻きにしており、空が手だけでずりずりとこっちに近付いて来ていたのだ。
「いや、怖いわ!」
「はは、完全にホラーね……」
「タスケテ―!」
後に聞いた話によると天使族にとって髪は重要な物であり、それで二人を包むのは二人が離れ離れにならないようにというおまじないなのだそうだ。
文化の違いって怖いよな!
*****
ラグーンシティの端っこ、とある波止場に一人の少年とベールを被った聖女風の少女がいた。
少年は桟橋に座り、波を見つめながら足をプラプラとさせる。
「んー今回も失敗しちゃったかぁ。まぁでも、これはこれで面白かったかな。あんなに大きな岩を落とすなんて思わなかったよ! ナクスィアもそう思わない?」
「そうですね。迫力が凄かったです。あれは私では壊せませんね」
「あはは、確かにそうだね。あぁ、予想外の事が起きるのは本当に面白いね。……でも、ギーラはこういうのに理解が無いから、何か言ってきそうだなぁ。まぁ、別にいいか!」
「何か言ってくるようなら、私が排除しましょうか?」
「あはは、排除はしなくて良いってば」
「そうですか。失礼しました」
「ちょっとそこの君達、こんな時間に何をしてるんだ? 変なコスプレまでして、深夜の外出は感心しないぞ」
「……何のつもりです? 死にたいんですか?」
「ん? あぁ、ナクスィア、ステイステイ。おじさん、僕達はこうしてても別に良いんだよ。気にしないでおじさんこそ帰ったら?」
「……はい、そうさせてもらいます」
少年達に話しかけた男は突然、虚ろな目になると後ろを向いて歩き去って行く。
少年はそれを見ていたが、すぐに興味無いといった様子で目を逸らした。
夜の闇の中でさえ、その少年の黒く濁った瞳は際立っていた。
*****
とある金属質の薄暗い部屋に二人の男がいた。
一人は刀を携えており、もう片方の男は丸腰だ。
それだけ聞くとそれほどおかしな所は無いように聞こえるが、二人は異彩を放っていた。
その原因は、二人の全身を包み込む鱗だ。
二人には尻尾も生えている。
まるで、リザードマンと呼ばれるトカゲに酷似した亜人の種族のように。
「兄者、加減はどうでござるか?」
「問題ない。さて、骨がある奴等なのだろうな?」
「拙者一人では厳しかったでござるが、兄者がいればどうとでもなるでござるよ」
「ふん、我等の悲願に近付ければよいのだがな」
他に誰もいない薄暗い部屋の中、四つの瞳がぎらぎらと輝いていた。
どうも、Prasisです。
SSC ホーリークレイドル ‐第三章~ナンバーズウォー‐
これにてようやく終了です。いやぁ、長かったですね。
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
さて、第三章はいかがでしたか?
フォレオが仲間に加わったり、雷人が新たな力を手に入れたり、色々な事があった章でしたね。
個人的には「VSフォレオ」や、「内なる想いは風に攫われ」の話がよく書けたかなと思っています。
面白いと思ってもらえてたら嬉しいですね。
今章は何より、超能力というものに対する考え方をテーマとした回でした。
超常的な現象を起こす超能力ですが、それを得た人々はただの一般人です。
全員が全員、能力が使える事が嬉しいとは限らないよなぁ。
という考えからこれは書いてみたいなと思っていた話でした。
まぁ、流石にここまでの極論にはならないと思いますがね。
あなたはどっち派かな?
さて、続く第四章のサブタイトルは ~スクールフェスティバル~
その名の通り、学園祭編です。
え? 敵が攻めて来るっていうのに何をやっているんだ?
言いたい事は分かりますが、学園物を書くからには一度は書いてみたい話なのです。
だから書きます。書いてしまいます!
そういう訳で、バトルシーンは比較的少ない章になると思います。
それでも、面白いと思ってもらえるように頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします!
それでは今回も、第三章に入る前に一週間ほど休載を挟みたいと思います。
次回更新は12/14(木)の予定です!
それでは、これからも
【 SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜 】
をどうぞよろしくお願いします!




