3-72 力を合わせて
何とか余力を振り絞ってカナムの翼を形成し、負荷がかかり過ぎないように少しずつ減速して空中に浮かぶ。
そんな様子を見て腕の中の少女は信じられないという表情で笑っていた。
「あは、あははははは、何なんですの? あなたは。電気に、とんでもない威力の光線に、銃まで出して、挙句の果てには空を飛ぶ? それは一体どんな能力なんですの?」
「さてな、自分でも不思議だよ」
「……あなたは本当に凄いですわ。……なんとかラグーンシティの崩壊は免れましたが、割れた破片だけでも甚大な被害が出ますわね。それでも、それでもあなたは凄いのですわ。……今更遅いですが、あなたの言葉を信じてみてもいいのかもしれませんわね」
「あぁ、信じろ? 見てろよ。今からそれが証明されるぞ」
「え?」
俺の言葉に理解が追い付いていないらしく、可愛らしく首を傾げる天衣さん。
さっきまで狂ったラスボスやってたとは思えないな。
「大丈夫だよ。力を鍛えれば、力を合わせれば、人を救う事だって出来るんだからな」
そう言って空を見上げると、どこからか無数の水弾が飛んで来て破片を丁寧に撃ち落としていく。
あっちでは風が破片を細かく砕き、そっちでは剱持さんの念動力か?
突然岩の破片が粉々に破壊される。
そして、もっとも大きかった破片群は、どこからともなく飛んで来た炎と光の矢によって消し飛ばされた。それを見て俺は目を大きく見開いた。
「はは、あいつらも来てくれたのか。……な? 力を鍛えた俺が砕いて、皆の力で破片も処理出来た。不可能に思えたって、一人じゃ厳しくたって、力を合わせれば出来ることもあるんだ。最初っから否定なんてするなよ。まずは頑張ってみようぜ?」
「……ふふふ、なんだか悩んでいたのが少し馬鹿らしくなってきましたわね。あぁ、私の完全敗北ですの。テロリストは大人しく特殊治安部隊に投降するとしますわ」
「は? それだと、俺達のやった事が無駄になるじゃないか」
「……あら、成神君。結構悪い人ですのね?」
驚いたようにこちらを見た後、悪戯っぽく笑う彼女に俺は顔を背けつつゆっくりと彼女を地面に降ろした。
すると降りてくるのを見ていたのか、すぐに空が走って来た。
「お疲れ雷人! 無事で良かったよ!」
「おう、そっちこそありがとな。力の使い過ぎでもうフラフラだよ。とりあえず、天衣さんを治してもらって良いか?」
「それは別にいいんだけど、雷人もね? もう全体的にボロボロじゃん」
「うわ! 本当だ! 制服がボロボロじゃないか。……まぁ、近くで巨大な岩山がぶっ壊れたんだ。仕方ないだろ」
いやいやと言いながらも空が天衣さんの治療をする。
治療されながらもボーっとラグーンシティを眺めていた天衣さんが呟いた。
「あれ? どうして私……あそこまでして能力を消したかったのでしょうか? 確かに、能力は危険だとは思っていましたが……」
その言葉を疑問に思った俺が二人を眺めていると、空が神妙な顔で言った。
「……何か今、天衣さんの中に乱れのようなものを感じたよ。雷人、もしかしたら天衣さんは何かの能力を受けていたのかも」
「え? 何かの能力って、何だよ」
「分からないけど、もしかしたら何かの能力で能力を危険視するように思い込まされてたのかも?」
「……って事は、他に黒幕がいるって言うのか? 天衣さん、そうなのか?」
「え? ええと、そういえば、中学生くらいの年だと思いますけど、黒髪の男の子に話しかけられてから少し頭に靄が掛かったような感じだった気がしますわね」
「……マジか。その話、詳しく聞いてもいいか?」
「え、ええ、いいですわよ。自分のしたことは覚えていますし、償いにはならないかもしれませんが出来る限り協力はしますわ」
中学生の少年? そいつが黒幕なのか?
それとも、そいつの裏にも誰かがいるのか?
分からないが、天衣さんは能力者を排除しようとした。
黒幕は能力者に恨みでもあるのか?
何にしても、まだ事件は終わってないのか……。
すでに死ぬほど疲れてるんだけどな。
とりあえず寝たい。
そんな事を考えた時、後ろから声が聞こえた。
「その話は気になるけど、とりあえずは後にしてそろそろ引くよ。特殊治安部隊が間もなくここに到着するみたいだ」
「か、会長居たんですか?」
「いるとも、それとも僕等の努力を水の泡にするつもりかい? さ、光葉君と僕の力があれば見つからないように逃げるのは容易いからね。とりあえずは僕の家まで逃げて、話はそこで聞こうじゃないか」
もっともな話なので、その場で話を聞きたい欲を押し留めて俺達はその場から速やかに退避した。
翌日、その事件は大きく報じられ、今度も様々な説が唱えられたがどれも確証のある話は無かった。
かなり派手にやったのだが、会長との話を盗み聞いていたらしいシンシアさんが、手を打っていたらしい。
もはや映像も音声も残っておらず、後には破壊された現場のみが残っていたという。
幸い目撃者もいなかったため、俺達まで捜査の手が伸びる事はなかった。
とはいえ俺達に繋がる痕跡を完全に消すのは難しいだろうし、多分夕凪先生も頑張ったのだろう。何にしても、ラグーンシティを騒がせた事件はこうして終幕を迎えたのだった。




