3-70 狂える姫の暴走は天災に等しく3
「さあ、成神君。あなたの言う力を合わせるで、この危機を脱して下さいな。その様子を私は特等席で見させてもらいますわ」
彼女がそう言い笑みを浮かべた次の瞬間、目の前には先程よりも遥かに巨大に見える岩山があった。
視界一杯を覆い尽くすほどの大きさ。
威圧感などと言う言葉では片付けられないそれが、目の前にあった。
「何、が?」
瞬間気付いた。
風を強く感じる。
これは風人の力じゃない。
実際に俺は、落ちている!
その時、隣から声が聞こえた。
暴風で非常に聞こえにくいが、身体強化で聴力も上がっているので何とか聞き取ることが出来た。
「どうですの!? 万策尽きましたかしら!? ……ふふ、特等席ですわ! この都市の終わりを一緒に迎えようじゃありませんの!」
「ふざけるなよ!」
「はい!? まだ諦めませんの!?」
「誰が諦めるかよ! やってやる! ただし! これを乗り切ったらバカな考えは捨ててもらうぞ!」
「……良いですわ! やれるものなら! やってみて下さいな!」
「よし! 言質取ったからな! ……フォレオ!」
端末に向かって叫ぶと、これだけの騒ぎがあったというのにもしや寝ていたのか、ふにゃっ!?と驚いたような声が聞こえた。
そしてすぐに事態に気付いたらしく声を上げた。
「はぇ!? なななな、何ですかこれ!? 一体どういう状況ですか!?」
「あれをぶっ壊す! 地上に被害が出ないように頼むぞ!」
「は、はは、あれを壊す……ですか? そんなの無茶ですよ……ああ、もう! 最大限サポートしてあげますよ! どうぞ!」
「ありがとう! よし! いくぞ!」
天衣さんが事を起こすと言ったその瞬間から俺は力を溜めていた。
今までで最高レベルまで溜めたカナムをぶつけてやる!
とはいえ、ただ全力でぶつけるだけでどうにかなるとも思えない。
だから、これまでの全てを込めてやる!
まずは深呼吸をして極限まで集中する!
手を銃の形に、カナムを指先に集めて圧縮、同時に雷輪を何重にもイメージし、今もなお落下を続けている岩山に向けて、無数の雷輪で出来た砲身を作る!
それを見た天衣さんが横で息を呑む。
「な、何ですの!? それは!?」
「終わりになんてさせるかよ。無理だなんて言わせない。俺が奇跡って奴を見せてやる! これが今の俺に出来る……全力だあああああああああああぁ!!」
その叫びと同時に指先に圧縮したカナムを放出。
全身全霊の授雷砲を放つ。
放たれた極太の光は雷輪を通る度にさらに加速する。
エネルギーを蓄えていく。
そして、過去最大威力の授雷砲が岩山の中心を捉えた。
「いっけええええええええええぇ!!」
放たれた光はその高熱で岩山を真っ赤に、いや、それを超えて白熱させる。
瞬く間に岩を溶かした熱線は、十秒程かけて巨大な岩山を貫通した。
しかし……、
「そんな……」
確かに授雷砲は岩山を貫通した。
だが、貫通したは良いものの、結局岩山は大きな穴が開いただけでその形を保っている。
依然として大質量を備えたそれがそのまま落下してくる。
穴が空こうが関係などない。
このまま衝突すれば、結局ラグーンシティは壊滅的な打撃を負うだろう。
どうする? どうする!?
どうすればいい!?
何か、何かないのか?
この状況を打開する策は……!?
その状況を見て、隣で放心していた天衣さんが笑った。
「あは、あははははははははは! 見事でしたわ! 大口を叩くだけはありましたわね! でも、どうやら足りなかったみたいですわ! さっきの砲撃! 一体あと何発撃てますの!?」
もう撃てないと分かっているのだろう。
天衣さんが勝ち誇ったかのように笑う。
確かに授雷砲はもう撃てない。
流石に余力が足りないし、同じだけのカナムを溜める時間もない。
まさかこんな事態になるなんて、万事休すか……!
そう考えたその時、下から無数の何かが飛んで来て岩山を穿った。
恐らくフォレオの放った銃弾だ。
見た感じ水の弾ではない。
威力を優先した結果だろう。
しかし、それもこれだけのデカ物が相手では焼け石に水だ。
と思ったら遅れて大きな何かが飛んで来て爆発した。
あれは、九連装ロケットランチャーのミサイルか。
続いて様々な弾丸が飛来し、どんどん岩山を削っていく。
だが、やはり決定打に欠ける。
ダメだ。あれでは全然足りない。
そう思った時、意味もなく岩山に向かって伸ばした手が一瞬光ったのが見えた。
何の事は無い。それはただ単に、指に嵌めていた指輪が日光を反射しただけだった。
ん? この指輪……。
そう思った時、耳元で声が響いた。
「雷人! やっぱりうちの武器では火力が足りません! 幸いさっきの雷人の一撃で大きな穴が空いていますから、大きな衝撃を与えてやれば割ることは出来るかと思います。ですが、うちは元々手数主体で主武器はライフルです。あれほどのデカ物を破壊するような武器は持ち合わせていません。ロケットランチャーでも無理となると、もはやうちではどうしようもありませんよ……」
「……なるほど、大きな衝撃……か。そうか、試す価値はあるな」
その瞬間、雷人の顔が焦りから笑みに変わる。
その光は、まさに暗闇に差す一筋の光明だった。
「はい? 何か言いましたか?」
「ありがとうフォレオ! やってみる!」
「うち何も言ってないんですけど!?」
上手くいくかどうかは分からない。
でも、やれることは何でもやるべきだ。
「地上まであと数十秒といったところでしょうか!? もう諦めたらどうですの!?」
その言葉に俺は不敵な笑みを浮かべた。
それを見た天衣さんが顔を歪める。
少しでも可能性があるのなら……手を伸ばさずにいられるかよ!
「諦めるわけないだろ! ……最後の、最後まで!」
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