3-67 内なる想いは風に攫われ4
「分かったでしょう? 力は制御出来ないなんて事はありません。努力さえすれば、制御出来る力です。そして、今その力を制御する事が出来たのは、これまでのあなたの努力の成果だと言えます」
その言葉は私の胸にこれでもかと響いた。
胸がバクバクとうるさい。
そして、再び笑って見せた嵐山の笑顔が非常に輝いて見えた。
あれ?
こいつってこんな顔だったっけ?
明らかに自分が今、正常ではない気がする。
でも、この気持ちは嘘ではないんじゃないだろうか?
そう思うと、自然と言葉が零れていた。
「あ、嵐山!」
「はい、何ですか?」
「あの、さ」
「はい」
「その、ありがとね。こんな私のために命まで張っちゃってくれて」
「全然構いませんよ。あぁ言いましたし、話した事は全て本心ですが、この力比べは過去最高に胸躍るものでした。こちらこそ、ありがとうと言わせてもらいましょう」
なんてことないはずの嵐山の言葉の一つ一つが嬉しくて、輝いて聞こえて、何かの補正が掛かっているのかもしれないけれど、なんだか震えた。
「~っ! あ、嵐山! 突然だけどさ、私と……そう、私と友達になってくれない?」
「友達?」
キョトンとした顔でそんな風に返され、何とはなしに恥ずかしくなる。
「あ、ああ、い、いや、さっきまで敵同士だったのにおかしいかもだけどさ、どうかな? それとも、こんな女相手じゃ、嫌?」
祭は半ばパニックになりながら手をぶんぶんと振って照れ隠しをする。
顔が本当に熱い。
ゆでだこにでもなりそうだ。
居たたまれなくなり、体を窄める様に小さくしていると、嵐山がいきなり手を握ってきた。
滑らかだけど、どことなく硬くて男らしいそんな手。
って、私は何を考えているんだ!
そんな考えを振り切りながらも嵐山を見ると、この男は優しげに微笑んでいた。ちょっと意外だけど、何か良い……。
「えぇ、良いですよ。喜んで。友人というのは気付くと出来ている節がありますし、こうして面と向かって言うのは緊張したでしょう。ありがとうございます」
私はOKしてくれた事の嬉しさで今にも舞い上がりそうな気分だったが、何とかそれを自制する。
あぁ、なんだろう。
世界が輝いている。
さっきまで死ぬだの何だのと考えていたのが嘘のようだ。
「よろしく、ね」
小さな声でそう返すと、何か思う所があったのか嵐山が口元に手を添えて覗き込んできた。何かと思っていると嵐山は不思議そうな顔で言った。
「それにしても……了承した後に聞く事でもないのですが、どうしていきなり友人にと? いえ、特に理由が必要だと思っているわけではないのですが、少し気になったもので」
「そっか、そう、気になるわよね。えっと、その、私は……私自身を見て欲しい。っていうか、あ、あんまり重たい意味じゃないのよ? ただ、私と同じくらいに強いあんたが傍にいたら、そう! 安心出来るし! それに、能力の事を気にしないで私の事を見てくれるんじゃないかって。そう……うん、そう思ったのよ!」
私がそう言うと何やら考えていたのか少しの沈黙の後に嵐山が頷いた。
「……なるほど、確かにあなた程の力の持ち主に会ったのは僕も初めてです。こうして力比べをするのも楽しいですし、あなたの言うように力を気にしないで……と言うのも一理ありますね。分かりました。それでは、良い関係を築いていきましょう」
そう言って真っすぐにこちらを見てくる嵐山に、恥ずかしくなり顔を逸らす。
顔が熱くなり、心の中がふわふわするような。
そんな感覚で満たされていく。
「どうしたんですか?」
顔を逸らした私を不思議そうに覗き込んでくる嵐山。
私は反射的にその顔を手で遠ざける。
「な、何でもない。ちょっと力の使い過ぎで疲れたから、少し横になろうかなと思っただけ」
「あぁ、そうですね。ここまで力を消費したのは本当に久しぶりです。とはいえ……些かここは危険ですね。一先ず、安全な所まで移動しましょうか」
「へ? 移動って、ちょっ!」
気付くと私は嵐山にお姫様抱っこをされていた。
顔が近い!
恥ずかしい!
突然の事態に頭が真っ白になり咄嗟に足をばたつかせてしまった。
その結果バランスが崩れ、嵐山の腕から落ちそうになってしまう。
「ひゃあ、うわわわわっ!」
「おっと、危ないですね。大人しくしていて下さい」
「あっ、ご、ごめん」
何とか体勢を立て直そうとした結果、嵐山の首に腕を回す形となりさっきよりも密着してしまった。
「なるほど、この方が安定していいですね。そのまましばらく我慢していてもらっていですか?」
「こ、このまま!?」
嵐山はどうも余裕という感じだが、私はさっきから心臓がバクバクとうるさい。
なんかどことなくいい匂いがするし……って違う!
私は変態じゃないのよ!?
私は動転した気を紛らわすように周りに視線をあっちこっちさせる。
するとさっきまではまるで見えていなかったのだが、辺りに瓦礫やよく分からない機材の類が落ちて来ているのが見えた。
この施設が崩落するのも時間の問題かもしれない。
改めて嵐山の顔を見ると彼は安心させようとでもしているのか、こちらに朗らかに笑って見せた。
「……分かったわ。あ、改めて、その……ありがと」
「いえいえ、さあ、行きますよ。剱持さん」
その言葉の直後、浮遊感があり、視線がどんどん上がり始めた。
嵐山が制御しているのかあまり風は感じないが、恐らく強力な風が吹いていることだろう。
あぁ、自分の事を戦闘狂だなんて言っていたけど、結構優しいじゃないの。
「あの、さ。私の事は、祭って呼んでよ」
「それじゃあ、僕の事は風人ですね。祭、よろしくお願いします」
「はうっ……! よ、よろしくね、風人」
これまでで一番の幸福感に包まれながら、この短い時間は過ぎていくのだった。
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